第3話 少年との出逢い

その少年は藁の上で身体を丸めて眠っていた。



出来るだけ音をたてないようにして近づく。


「………?」


そこで一つ不思議に思った。


動かないのだ。


寝てるのだから普通だと思うかもしれないけど、そうじゃない。


呼吸をすると動く筈の胸が、全くと言っていいほど上下しない。



もしかして――――


最悪の事態が頭に浮かび、急いで駆け寄る。



ガサッ



と、藁を踏む音がした。


と同時に、その少年は閉じていた瞳をパッと開き、飛び起きた。


『―――!!』


「え……?」


気づいた瞬間、その少年は目の前から姿を消した。



そして微かな風が頬を掠る。




『君は………誰…?』


突然、少年の声は自分の後ろから発せられ、右耳に響いた。


高くも低くも無い、中世的な声。


自分の右肩の方をチラ、と見ると私の顔に顔を近づけたその少年の顔があり、鼻をひくひくさせている。



……臭うのかな。



自分の服の裾を鼻までもってきて臭いを確かめていたら、


『あぁ…ごめんね。習慣で初対面の人の匂いってついつい嗅いじゃうんだよね。』


と、微笑んできた。



「…なん…で…。」


いきなり会って匂いを嗅ぐ理由。変な人。

気になってそれを聞いてみたら、その少年はうぅん…、と少し考え、


そして話してくれた。


『匂いってさ。その人自身を示しているんだよ。』


「………自身…?」


『うん。んー…そうだなぁ…。例えば、花が好きな人からは花の匂いが。

戦好きの人からは火薬の匂いが。っていう具合に人にはそれぞれ媚びれついているような匂いがあるんだ。』


「………。」


言いたいことは、解った。


言葉を無くしているのは決して意味が解らないからでも呆れているからでもない。


只単純に、驚いたのだ。


こう言っているこの少年はつまり、その匂いを嗅ぎわけられるということ。


普通に考えて、凄い嗅覚だ。


呆然としていると、再度その少年は私の首筋に鼻を近づけて鼻を動かす。


『君は……育じいさんの匂いがする。知り合いなの?』


凄い。本当に嗅ぎわけている。


感心しながら、返事を返す。


「う、うん…。知り合いというより、助けてもらっただけなんだけどね…。」


『あぁ。もしかして君が森の中で倒れていたっていう人?昨日の夜育じいさんに聞いたんだ。』


そう言ってその少年はピョコンと背後から出てきて、私の前に立った。


改めてその少年を見る。


護衛を任せる、なんて言っていたからもっと屈強な大男かとも思っていたけれど、イメージとは正反対だった。


小柄で目は少し垂れており、夕陽のような綺麗な赤色の瞳はどう見ても虫さえも殺したことの無いように思わせる。


私のこの少年への第一印象は、そういうものだった。


そんなことを思いながらボーっとしていたら、スッとその少年の手が差し出された。


『はい。』


「…?」


その差し出された手の意味がわからず、相手の顔を見ると


『日月。そのままヒヅキって呼んで。』


そう言ってグイッとその手を出してきた。


そこでようやく私に握手を求めているのだと気づき、自分も名前を口にする。


「真宵、です。」


そう言い、握手を交わす。


微笑し、日月は口を開いた。


『ところで今更なんだけど…真宵はどうして僕の所に?』


あぁ、そうだった。色々なことが起きすぎて忘れていた。


「…それは―――」


説明する。倒れていた理由、これから向かう先、育じいの話。


それを黙って最後まで聞いていた日月は少し難しい顔をしていた。


「……やっぱり…難しい…?」


そう聞くと日月は少し慌てたようにパッと顔を上げて否定した。


『いや、そうじゃないんだ。…そうじゃないんだけど…真宵。あの場所が危ないってことはもう知ってる?』


育じいと同じ事を言う。そんなに、その場所は危ないのだろうか。


「育じいさん…に聞いた。」


『そっか……因みに僕のことは…?』


「日月の…?特には何もきいてないけど…。」


『そ、っか…。』

そう言って日月は少し考える素振りを見せて、まぁ大丈夫か と一人ごちた。


「何かあったの…?」


そう言うと、日月は微笑んでごめんね、と言った。


『何でもないや。案内するよ。』


「うん、ありがとう。」


そうお礼を言った。



『うん。それじゃあ、まずは育じいさんの所へ戻って準備をしようか。』

部屋の外へ向かう、その後姿を追う。


ぴょんぴょんと跳ねるその髪の色。


一面緑のこの場所では相対するような色だけど、やはりとても綺麗だと感じた。





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夜色の約束 そらまる。 @soranoito

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