森の一日④
そして少年は立ち止まった。
適当な場所を探して程なく歩いた先に、それはあった。
「洞窟?」
洞窟というにはあまりにもただの穴である。入り口は急な斜面で、底は深くて見えない。
少年はいそいそと歩き、その穴を覗き見する。
「なんだろうここ……」
「……え?」
何か聞こえる。
それが何かを確かめるため耳を澄ます。
「……あ」
やはり何か聞こえる。
先ほどより確かに。
だが何を言っているかわからない。
その正体を確かめようと少年は一歩踏み出した。
その瞬間──
「うぇえええええええええ?!」
触手に思いっきり引きずられた。
来た道を、凄い勢いで戻って行く。
「うああああああああああ?!」
途中木や岩などにぶつかりかけたが、触手が寸前のところで回避してくれる。
勢いよく引きずられ、少年は落とさないように必死に手に持つ袋を抱きかかえる。
少女のいる地からなるべく離れないように、ぐるぐると回るようにして探索していた。
とはいえ一時間は歩いたであろう道のりを、僅か数分で元の少女の地へと戻されたのだった。
「いててて……」
勢いよく放りだされた少年は、お尻をさすりながら立ち上がる。
触手は地面に潜り込んでしまった。
「もー。いきなりなにするの?ってあれ、閉じてる。おーい」
閉じた花弁に近づく少年。
コンコンとノックしても返事はない。
数分、数十分、数時間。
蕾は動かない。
その間少年はその場に座り込み、何かを作り始めた。
さらに数時間がたって日も暮れ始めたころ。
蕾が華麗に開いた。
「あ、やっと開いた。もう、どうしたの?」
少年はてくてく歩み寄る
少女は凛とした顔つきで少年を見つめる。
「あそこは危ない」
「あそこって洞窟のこと?確かに、なんか物騒なとこだよね」
「…………」
蕾の事は聞かないのだろうか。
……と、少女が考えていると、少年は思い出した用に踵を返し、元座っていた所へと戻る。
「……なに?」
「いやさ、いつ話せるのかわかんなかったから、明日作ろうと思ったんだけど暇だったからさっき作っちゃったんだ。」
はい。と差し出す少年。手に持っているのは───
「なに………」
「花飾り!」
少年は笑顔で答える
「花飾り……」
しゅるしゅると蔦が伸びる。
「あ、まって!あんまり丈夫じゃないから」
少年はそういうと彼女の花弁に乗り、少女の前まで来た。
「今日一日付き合ってくれたし、多分だけど君が僕を助けてくれたのかなって思ったんだ。だから、そのお礼。本当はもっといいのあげたかったんだけど……。これ、さっき話してた母様に教わったんだ!一生懸命作ったからとりあえず受け取ってよ」
彼女はその細い腕を伸ばして受け取る。
───まただ。
少女は想う。
この不思議な感覚はなんなのか。
戸惑いながらも頭に被った花飾りを見て、少年は笑顔で彼女を見ていた。
森の少女 @kakerusugiyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。森の少女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます