森の一日③
少年は少女の事が気になっていた。
美しい少女の事。
だが人ではない。
ただそれは気にならない。
少女と同じように、少年も彼女の事を考えていたのだ。
でも少女はとても無口で、名前さえ知らない。
そういえば自分も名前を名乗っていなかったなと思った。
だがそれも彼にとっては不思議と良い気持ちであった。
しかし好奇心に勝てないのが子供である。
相手のことを知りたかったから自分の事を少年は話した。
触手は微動だにしない。
「あ、ごめんちょっとそこでまってて!」
せっかく勇気を振り絞って聞いたのに、恥ずかしさから少年は尿意を理由にその場から離れたのだった。
一方で、少女本体は獲物と対峙していた。
「クカカカカッ。私の名前は鳥人ガルーダ魔王軍鳥獣軍団の小隊長を務めてるものだクカッ」
少女は空を見る。
獲物の探知が遅れたのは触手が一本足りなかったからだろうか。
「ここへ来る道中思わぬ邪魔が入ったがやっとたどり着く事ができたクカッ」
それとも少年から思わぬことを聞かれたからだろうか。
「クカカカカッ。お前が我らが同胞を二体も消した者の正体クカ?!」
奇襲を受けて3体の部下の犠牲が出た事に対して心を痛めることはないが、この身傷一つないのが不幸中の幸いだった。
この森は魔王軍、東の国軍、双方とも近寄らない魔境だ。
だからこそ此度の作戦で使われたとガルーダも聞き及んでいるが、いざ自分がこの森に入るのには抵抗があった。
だがそれも杞憂のようであった。
目の前にいるの者がなんともか弱い事か。
万全の自分ならば大丈夫だ。
野生の勘がそれを告げる。
実際に、普段の少女の戦闘力と比べて今の状態は半減してるといっても言い。
「そのうちの一体は東の国の第三王子を拐っている途中だったクカッ。そいつの生死を確認次第お前の処遇を決めようと思ったクカ!」
「……」
少女は沈黙を続ける。
「クカカ…。見れば貴様も我らと同じ魔物のようだな。ならば魔王様の下僕である事には違いない……。何故我らの邪魔をするのか聞きたいところではあるが……」
ガルーダの自慢の爪が光る。臨戦態勢に入ったのだ。
「返事はないのは言葉が分からぬのか、それともこの魔王軍鳥獣軍団の小隊長ガルーダに恐れたクカかっ!」
ガルーダは自慢の翼をたたみ、少女へと急降下したのだった。
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