最終話 これが私の卒業式!
先生たちの粋な計らいにより、卒業式が終わった後、特別に3時間だけ校内放送を自由に使える許可が下りた。
卒業式が終わった後に学校に残っている者など一人もいないだろう。
だが、たとえ校舎が無人だったとしても、チトセは最後の放送をやりたかった。自分が始めたお昼の放送「学園小唄」を、ちゃんとした形で終わらせてあげたかった。
最後にその夢が叶って、チトセは本当に満足していた。
これで心置きなく卒業できる。そう思い、すがすがしい気分に包まれていた。
花束と卒業証書を抱えたチトセが、防音の扉を開け、放送室の外に出る。
そこで彼女は――大歓声を聞いた。
放送部の前は廊下になっている。廊下を挟んで、そこは窓になっている。窓の向こうに見えるのは学校のグラウンド。チトセは窓の向こうに見えるグラウンドへ視線を向けて、多くの卒業生、在校生が歓声をあげている光景を目撃した。
彼ら、彼女らは、放送室から出てきたチトセを見て歓声をあげていた。
「三年間お疲れさま!」
「昼の放送、いつも面白かったよ!」
「卒業してもDJつづけろよな!」
卒業式が終わってから、すでに3時間以上経っている。
だが、帰ろうとしているものは一人もいない。全校生徒が「学園小唄」の最終回を聞くために学校に残っていた。
「学園小唄、絶対に忘れないからなー!」
生徒たちの声が聞こえてきて、チトセは思わず下を向いてしまった。
「ずるいよ……」
負けん気の強いチトセは、滅多に人前で涙を見せない。
それだけに一度涙腺が緩んでしまうと、涙を止めることに不慣れな彼女はどうすることもできなくなってしまう。
学園小唄のルールは2つ。
ひとつ、舞台は学校内であること!
ひとつ、主役は学校の生徒であること!
今日は「学園小唄」の最終話。その主役は――。
チトセは顔を上げた。
目の前には、学園小唄を愛してくれた全校生徒が手を振っている。
「みんな、ありがとう! 愛してるぜー!」
大声でチトセが叫び、生徒たちの興奮は最高潮に達した。
春が来て、人は別れを迎え――
――春が来て、人は新たな出会いを迎える。
四月某日。某高校。入学式当日の昼下がり。
校内に響くのは、やたらとテンションの高い少女の声。
『12時45分になりました! 今日から始まる新番組「学園小唄2」! この番組は、この企画を放送部に持ち込み、責任を取って司会進行をやらされることになってしまった本日入学したてのピッカピカの新入生、DJアキナがお送りします!』
そしてまた、春が来る。
青春の唄は、永遠に終わらない。
学園小唄 ~12時45分からはじまる青春~ 久遠ひろ @kudohiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます