天候を操る能力ッ!
戸松有葉
天候を操る能力ッ!
日常が壊れたあの日から、少年は学校からの帰宅さえすんなりさせてもらえない。
今も人気のない路上で、敵の刺客が道を塞いでいた。
「お前、すげえ異能得たそうだが、使いこなせなきゃ意味ねえよなあ」
少年は能力に目覚めてから日が浅い。刺客のほうはそうではないようだ。
刺客は、ずっとポケットに入れていた両手を出し、掌を上にして、その姿勢のまま固まった。
「何の真似だ」
「今から見せてやるよ、俺のチカラ、天候を操る能力を!」
「なにぃ!」
驚愕の少年。まるで神のような能力だ。昔の人間ならきっと神だと崇めただろう。
刺客は能力発動での気合というように、「はああああ!」と声も出していた。姿勢は先ほどのままだ。
……隙だらけだった。少年の異能とか関係なく普通にぶん殴れば倒せそうだった。あるいは逃げてしまっても成功しそうだった。
だが異能バトルにおいて、そんな野暮なことはできない。能力に目覚めたばかりの少年でもそれくらいはわかる。
何が起こるのかじっくり待っていると、ある異変に気付いた。
刺客のほうから、熱を感じる。というより、刺客自身の顔が真っ赤で汗だくだ。端的にいえば、暑そうである。
「もしかして、熱を起こしているのか?」
「ははは、今頃気づいたか」
「いやいや、その台詞は、気づくのが遅くて手遅れになってから言うものだろ」
天候を操る能力と言っていた。そしてこの熱。
もしやと少年は思い当たる。
「上昇気流発生させて、雨でも降らせるのか?」
「くくく、今頃気づいたか」
「いやだから、その台詞は(以下略)」
雨乞いの儀式で、確かに熱で雨を呼ぶものがある。それを、道具を使わずにできるのが、刺客の能力のようだ。
本人とても苦しそうだが。道具でも用意したほうが良さそうだが。時間かかり過ぎているが。雨も確実に降るわけではないが。
しかしやはり、ぶん殴って倒すのも逃げてしまうのも野暮なので、敵が真価を発揮するまで待ってあげる少年。それに、野暮だからというだけでもない。
やがて、雨は本当に降ってきた。待った甲斐があった。
勝ち誇ったような表情の刺客に対し、少年は一言告げる。
「雨だからどうした」
「…………っ!」
刺客は、ガッツポーズを作りかけていた手を引っ込めて、押し黙る。返す言葉がないことは明白だ。
「それじゃ、こっちからも行くか」
敵の能力は見てあげたので、遠慮なく倒すこともできる。
と、
「お前は何もわかっちゃいねえな! 俺は雨を降らせたかったわけじゃねえ!」
さっきまでの態度から嘘はバレバレだったが、話は聞いてあげることにする。
刺客は人差し指を立て、天高く突き出した。
「この雲はただの雨雲じゃない!」
少年はハッとする。
この指のポーズ、そしてただの雨雲ではない雲。これは、雷という強力な攻撃ができる異能だ!
即座に少年は、地面に膝を付き、そして頭も下げた。参りましたというポーズだ。顔も地面すれすれほどで、雨水を啜るかのよう。そこまで頭を下げている。
「くはは! 今更降参しても遅い! 死ね!」
雷は、高いところに、落ちやすい。
刺客の指先に落ち、じき雲も消え失せ、少年はゆっくり立ち上がった。
「頼むから俺の異能使わせてくれる敵現れないかな」
少年は律儀に異能バトルのお約束を守ってあげているのに、未だ敵へ披露したことはなかった。
(了)
天候を操る能力ッ! 戸松有葉 @anakamasyouta
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