最終話 三月のうた
◆ヨコハマ地区 廃工場
レイヴンからの映像を見ているロゼ、スカーレット、マゼンダ。
対峙している二機のソルヴァイン・ナイト。
「リタさん……がんばって下さい。このままでは、クリスさんが……」
心配そうに呟くスカーレット。
◆タイトルアップ 光鱗のソルヴァイン
最終話 三月のうた
ガギィィィン――――
凄まじい金属音と共に吹き飛ぶソルヴァイン・ナイト。
「がぁっ――――」
回転し、すぐさま起きあがる。
「誰や! アサシンはスピードはあってもパワーが無いなんて言ったヤツは!
――――めっちゃパワフルやんか!」
「ははっ! なかなかよく避けるなぁ。でも、どないするんや。
そんなんじゃ、勝てへんで」
黒騎士が挑発する。
「言われんでもわかっとるわ!」
リタがマシンガンを乱射するが、避けられ、大斧を盾代わりにして防がれる。
ガキン! ―――空になったマガジンを交換するリタ。
「残弾も少のうなってきたし、そろそろきびしいな」呟く。
意を決して、リタが盾を構えて突進する。
「特攻かい――――」
迎え撃つ黒騎士。大斧を水平に
ギィィン――――
「くっ……」
衝撃に歯を食いしばり耐えるリタ。
盾で斧を防ぎ、間合いを積めようとする。
「おらぁぁ――――」
斧を力まかせに振り切る黒騎士。
盾が弾け飛ぶが、しかしリタの姿はない。
一瞬、姿を見失う。何かに気づいて
ダダダダダ――――
マシンガンが火を吹く。
数発が機体を
「そこや!」
落下の勢いを乗せて、切りつける。
躱す黒騎士。
追うソルヴァイン・ナイト。
ギイン――――
猛攻を黒騎士が何とか柄で受けきる。
斧の柄に細かなヒビがはいった。
「こいつ――――しつこいんや!」
斧を振る。距離をとるリタ。
「くそっ――――もうちょいやったんやけどな」
不敵な笑みを漏らすリタ。チラリとクリスの方を見る。
アーチャーの指がかすかに動き、黒騎士を指さした。
「……よっしゃ。決めるで」
◆ミツルギグループ 本社アーコロジー
ミツルギグループの中枢である本社アーコロジー(完全都市型建造物)は、遠目にはまるで、クリスタルで出来た巨大なピラミッドのようにみえた。全宇宙にその名を轟かせるミツルギの真の主がいる、広く―――しかしその部屋の主の地位を考えれば驚くほど殺風景な執務室。
装飾と呼べるものは、部屋の角に置かれた二鉢の観葉植物のみ。
後は年季の入った木製の執務机と、一対になった椅子のみが全てだった。
椅子に深く腰掛け、机上に映し出されたホロプロジェクターの立体映像を見つめる人物。
彼も歳月を経た木工家具の一部であるかのように、歴史と思慮深さを感じさせる威厳を
かなりの高齢であるはずだが、背筋は真っ直ぐに伸び、鋭い眼光には、真実を見通す光が宿っていた。頭髪は見事な白髪。鼻が高く、それがまるで
アレクサンダー・マクマソン・ミツルギ。
“
今、執務室にいるのは皇帝の他にもう一人。
直立不動で主の前に立っているスーツ姿の男性だ。
長身で肩幅が広く、均整のとれた体躯。それが厳しい鍛錬によって磨かれた至高の肉体である事は、服の上からでも見て取れる。
短く刈りそろえられた黒髪。顔立ちは端正だが、引き締められた口元、物理的な力さえ感じられる鋭い眼光によって、彼に甘い印象は皆無だ。紺のスーツの胸には、金糸で
「これが新型か?」
グラディエーターと向かい合う、クリシュナを見ながら、アレクサンダーが口を開いた。
年齢を感じさせない、張りのある声音だ。
「はい」すかさず鳳の男が答える。
「操者は?」
「ユニットAです」
「旧型の操者は、ユニットDか?」
「はい」
アレクサンダーはそこで言葉を切り、答えを探すように映像を見つめた。
「後は、アレに任せよう。
技術者たちには、急いで報告書を提出するように言っておけ」
「わかりました」
手をかすかに動かし、退出を促す。
鳳の男は、滑るような足取りで部屋を出て行った。
「データ上の数値を
瞑想するように、しばし目をつむった後、皇帝は呟いた。
◆クリスタルドーム 前庭
「ヨーコさん! クリスさんが――――」
通信機から聞こえるロゼの声は、悲鳴のようだった。
話を聞く内、みるみるヨーコの顔から血の気が失せていく。
「リタさんが一人でがんばっていますが……
お願いです、ヨーコさん。クリスさんを…リタさんを助けて下さい」
「――――わかった。僕に任せて」
努めて明るく答えるとヨーコは笑った。
まだ笑う事が出来るのか――――その事に一番驚いていたのは、誰でもないヨーコ自身だった。
「レオさん、
きっぱりと、ヨーコは言った。
つい先ほどまで戸惑い、
「君はボクを見逃すというのか?」レオが問う。
「そうです。逃げて下さい、どこか遠いところへ。
僕はクリスとリタを助けにいかなくちゃいけないんです」
「君の大切な人に、瀕死の重傷を負わせたのは、ボクの仲間だ。
君がそうであるように、ボクも彼女をおいて一人だけ逃げおおせるわけには、いかない」
ヨーコの行く手を
「あの……ゴライアスに乗っていた人ですか?
リタによく似た赤毛の女の人――――」
「彼女はリタだよ。――――いや、リタだったと言うべきか。
言ったはずだ、僕たちも彼女たちも作られた存在だと」
「そんな馬鹿な――――」
「
君の前にボクがいたように、リタの前にも彼女がいたのさ」
「じゃあ、クリスの前にも――――」
「クリスは死んだよ」ヨーコの言葉にレオは短くそれだけ答えた。
その感情を押さえた冷たい響きが、彼の背負った悲しみを、怒りを物語っている。
「ボクと共に来ると言うのなら、詳しい話を聞かせてあげよう。
――――だが、そんな時間はないだろう?」
「そうですね。――――では、
そう言って、ヨーコは再び構えをとった。
その
それどころか、必死の凄みのようなものさえ感じられた。
「割り切ったという訳ではないんだろうな…」
レオは不思議な思いで、目の前の白銀の機体を見つめていた。
ヨーコは同じ記憶、人格を持つもう一人の自分だ。
彼女の事ならなんでも手にとるようにわかる。
迷いを振り切ったわけでも、冷静になったわけでもないのだろう。
ただ、助けを求める者の声に、答えずにはいられないだけだ。
自らの身を
その優しさが、ひたむきさが彼女の強さに違いない。
そして、それはかつてレオの中にもあったはずの物だ。
――――だが、今その暖かな想いはない。
かわりに
「やはり、君とボクはもう違うモノなんだな」
あきらめたように呟くと、レオも構えをとった。
◆ヨコハマ地区 廃工場
ソルヴァイン・ナイトが黒騎士のまわりを回るように移動した。
足もとには、先ほど弾き飛ばされた盾がある。
「拾わへんのか?」
「いらんわ」
黒騎士の言葉に、リタが即座に答えた。
両手に銃と剣を構える。
「弾ももうあらへんしな。
多分あと一回撃ったら終わりやろ」
リタの言葉に黒騎士が笑った。
「そんな見え透いた手にひっかかる思てんのか」
「信じる、信じへんは、そっちの勝手や。
どのみち、これで最後や――――いくで」
その言葉に決意を感じたのか、黒騎士は口をつぐみ、身構えた。
だが――――
「なんや? なんのつもりや!」
思わず、言葉が漏れた。
ソルヴァイン・ナイトは両手をダラリと下げたまま、ゆっくりと黒騎士に近づいてくる。
「玉砕っちゅうわけか? それとも相打ちのつもりか?
カッコええわ。おまえ、カッコええよ」
「・・・…」挑発の言葉にもリタは答えない。
ただ、黙って歩を進めるのみだ。
「よっしゃ、間合いに入った瞬間、真っ二つにしたるで」
黒騎士が、大斧を振りかぶった。
稲妻を
張り詰めた空気が密度を増していく。
おそらく、リタは斧の間合いに入る直前に銃を撃つつもりだろうと、黒騎士はそう思った。そして一気に間合いを積めて剣で攻撃するつもりだ。
接近戦では、大斧はかえって邪魔になる。
だが――――
「うちには、まだコレがある」黒騎士は左の拳を見た。
接近戦に持ち込まれたとしても、電磁波による攻撃、必殺のパルスカノンが残っている。
「兄貴――――やっと
黒騎士――かつて、リタだった者は、そう呟いた。
だが、彼女にはもう、懐かしい兄の顔を思い浮かべる事さえ出来はしなかった。
「仇を――――」ただ、何かから逃れる呪文のように、その言葉を繰り返しているだけだ。
そして、ついにソルヴァイン・ナイトが間合いに入った。
黒騎士の手に力がこもる。
「なんやて……」
しかし―――リタに動きはない。
悠々と近づいてくる。
「おのれ……なめくさって」
黒騎士はギリと鳴る程、歯を食いしばった。
「そんなに死にたいんやったら―――真っ二つにしたらぁ!」
渾身の力を込め、大斧を振り下ろそうとした、その時。
ズギュュゥゥゥゥゥゥ―――
銃声が鳴り響いた。
「な……に……?」
黒騎士は完全に虚を突かれた。
まるで、反応出来ない。
撃ったのは、ソルヴァイン・ナイトではない。
クリスのアーチャーだった。
破壊されたライフルの代わりに銃身の長い大型の拳銃を握っている。
「
放たれた弾丸は狙い
パァァァン―――
乾いた音をたてて、柄が粉々に砕けた。
支えを失った斧が地響きをたてて、大地に突き刺さった。
「おおおおおぉぉぉぉぉ」
同時に、マシンガンを撃ちながら、リタが駆ける。
発射された銃弾は黒騎士の左手に集中し、破壊した。
ガキン―――
弾の切れた銃を投げ捨て、剣を振りかぶる。
ダダァァァァン―――
更にアーチャーが二発の弾丸を発射した。
黒騎士の右足、右の手を破壊する。
グラリと黒い機体が
「おらぁ―――」
リタは疾走の勢いを乗せて、前蹴りを放った。
蹴りつけた足に体重をかけ、押し倒す。
そして――――
ズガン!
剣を頭に突き刺す。
黒騎士はビクリと四肢を震わせ、そして動かなくなった。
「や……やりました……わね。
予備の銃まで壊れて……いなくて……良かった……ですわ」
「まったく……クリスは、嫌になる程しぶとい女やな。
――――けど、最高や」
リタの言葉にアーチャーが親指を立てて答える。
が――――その手から、力が抜け、ダラリと垂れ下がった。
「わたくしは……もう限界です……少しやすませて……」
「クリスさん! クリスさん!
ああ――――! 生命維持モードを強制終了して、アーチャーを無理矢理動かすなんて――――なんて事を!」
マゼンダが悲鳴を上げた。
「クリス!」リタが叫び、ナイトを動かそうとするが――――限界を超えてしまったのか、機体はピクリとも動かなかった。
「このっ――――」ハッチを開け、リタが外に出る。
飛び降り、アーチャーへ駆け寄ろうとしたその時。
背後で声がした。
「待て……や」
黒騎士のハッチが開き、女が這うように外に出てくる。
「なんや……おまえ、まだそんな元気があるんかいな。
悪いけど、今はおまえなんかに構ってる暇は――――」
言いかけて、リタの目が驚きに見開かれた。
「なんやねん。なんで――――おまえの顔、うちにそっくりやねん!」
炎のような赤い髪は、短く切られ、左目には眼帯をしている。
しかし、黒騎士から出てきた女は、リタにそっくりだった。
うり二つと言っても良い。
髪型が同じなら、見分けがつかないほどだ。
「うるさいわ!」女は激しくかぶりを振り、叫んだ。
「おまえなんかにそっくりなはずがないやろ!
うちは、兄貴を殺した女と同じ顔なんかしてへんわ!」
血走った単眼がリタを
「兄貴を殺した? ――――そう言えばさっきもそんな事言っとったな。
何をふざけた事言うてんねん。うちはおまえの兄貴なんか――――」
刹那――――脳裏に不吉な映像がフラッシュバックした。
血濡れのナイフを持って立ち尽くす自らの姿。
そして、その足下に――――血にまみれて倒れている兄の姿が。
「な? ――――なんや、今のは。
うちは――――うちはいったい……ぐぅ!」
目眩と強烈な頭痛を覚え、頭を押さえて立ち尽くすリタ。
「クリスさん!」
「――――!」
マゼンダの叫びがリタを現実に引き戻した。
慌ててアーチャーの方へ駆け寄ろうとする。
「クリス! まっとき、今助け――――」
だが――――
タァン――――銃声と共に、リタは背中に焼けるような痛みを感じた。
「なっ――――」
振り返るリタ。その目に自分と同じ顔をした女が小型の拳銃を構えている姿が写った。
タァン――――今度は腹に痛みを感じ、ついにリタは仰向けに倒れた。
「なに……すんねん。痛いやんか……
おまえなんかに……構ってる暇は……ゴフッ……ガッ」
言いかけて、溢れた血に咳き込んだ。
「やった! うちは、ついにやったで! 兄貴の仇をとったんや!
アハハハハハハハハ――――」
狂ったように笑う、女の声が辺りに木霊した。
◆レオ独白
「体に伝わってくるかすかな振動」
「作動音」
「血と硝煙と、オイルの入り混じった鋼の匂い」
「狭く、窮屈なこの“クリシュナ”の中は、ボクをとても不安にさせる」
「ゆりかごの中の幼子のような安堵が、この狭い機体の中こそが世界で唯一存在を許された場所だと――――まぎれもなく自分はここにいるために生まれたのだという確信がボクを恐怖させる」
「知らぬ間に自分の体が、この冷たい鋼鉄の一部に変わる悪夢に気が狂いそうになりながらも、ボクは望郷にも似た想いと、炎のように身の内に燃える怒りをおさえる事が出来ないでいる」
「この呪縛から逃れるために、そして何よりも残されたわずかな生を人間として生きるために」
「ボクはすべてを破壊するのだ」
「この呪わしい力を与えた企業を」
「母のように慕う女性を」
「兄妹達を」
「そして……」
「もう一人のボクを」
◆クリスタルドーム 前庭
「ヨーコくん、君の勝ちだ」
不意に聞こえたその言葉には、公園で会った時の優しい響きがあった。
驚きとともに、ヨーコはかすかな安堵を感じずにはいられなかった。
「ボクにはもう、君のような想いで戦う事は出来ない。
そして、君には勝てないだろう」
「レオさん……それじゃあ――――」
「――――だが、勝負は別だ」
冷たく、きっぱりと、突き放すようにレオは言った。
「
ここからは、
許してくれとは、言わない。
技ではなく、圧倒的な力で君を――殺す」
声からは、段々と温かみが失われていく。
まるで、機械による音声のような、冷たい響きを帯びていた。
ヨーコには、何よりもそれが辛かった。
「さようなら――ヨーコ」
それが最後だった。
決別の言葉とともに、黒い影がクリシュナの背後に飛来した。
「これは……レイヴン?」
「――――ガーゴイルだ」ヨーコの呟きにレオが答えた。
機首を下に向け、クリシュナの背後に停止した機体は、レイヴン型輸送機ガーゴイル。
「Touch go Tempest」レオの声に反応し、ガーゴイルが縦に割れた。
その中心にクリシュナが納まり、肩、腰を固定する。
機体が変形し、翼のように広がった。
その威容から発される圧倒的な力。
「ああ……」ヨーコの口から絶望の声が漏れる。
ガーゴイルとの合体が完了したクリシュナの姿は、まるで巨大な翼を広げた堕天使のようだ。
「これがモード・テンペストだ。もはや君に万に一つの勝ち目もないよ」
その言葉がはったりでない事は明らかだった。レオはただ事実を告げているに過ぎない。
ヨーコは、我知らず後ずさった。
ガーゴイルのメインエンジンである二基の水素タービンが甲高い唸りを上げた。
そして次の瞬間――ヨーコの目の前から、クリシュナの姿が消えた。
何も見えなかった。
ヨーコは咄嗟にに右手を上げた。防御ですらない。
ただ、得体の知れない恐怖を遠ざけようとする本能が、そうさせただけだ。
「つぁっ――」
右手を
木々をなぎ倒し、まるで紙切れのように回転しながら、グラディエーターは後方に吹き飛んだ。
「ヨーコさん!」通信機からロゼの悲鳴が聞こえた。
痛みのおかげで意識を失わずにすんだのは、幸いだった。
ヨーコは慌てて起き上がろうとしたが、右手の感触が無かった。
グラディエーターの手が肘の辺りから無くなっていた。
歯を食いしばり、何とか立ち上がると、視界の端に上空を旋回し、こちらへ突っ込んでくる黒い影が見えた。
咄嗟に身を投げ出すように横へ飛んだ。
すぐ側をクリシュナの機体が
ゴォッ――――
直撃は避けたはずだった。
だが、凄まじい
風に
あまりの衝撃に、視界が
頭の奥がジンと痺れ、気を抜けばそのまま意識を失ってしまいそうだ。
すでに、これは先程までの戦いとは次元が違っていた。
否、もはや戦いですらない。
例えば、地を這う虫が何か行ったとして、大空を舞い、襲いかかる鳥に、それが意味を成すだろうか?
◆ソルヴァイン ドック内
「――――出ねぇな」
ソルヴァイン整備班の責任者である
「隊長からの連絡はないみたいですね。どうしたんでしょう」
班長のハンが画面を
「さあな……忙しいんだろう。
――――今夜は長くなりそうだぞ、当直以外でも交代で仮眠をとっておけ」工場内の整備員たちに声をかける。
「お嬢ちゃんたち、大丈夫ですかねぇ」
「俺たちが心配しても仕方がねぇよ。
――――俺たちに出来るのは、あいつらが帰ってこれる場所を用意しておいてやる事だけだ。
どんなにしんどい目にあっても、あそこに帰れば安心だ、そう思える場所を用意してやるんだ。人間、それがあれば何とかなるもんだ」
「おやっさん……」
「馬鹿野郎! なんでおまえが泣いてやがるんだ」
涙ぐむハンに吉村はあきれた。
その時――――
『ヨーコ――――』
突然聞こえた声に、その場にいた全員が辺りを見回す。
「何か……聞こえましたよね?」
「子どもの声みてぇだったな……」
吉村も
「おやっさん! ちょっと、これ見てください!」
整備員の一人がドックの奥から吉村を呼んだ。
「なんだ――こりゃあ」
駆けつけた、吉村とハンが驚きの声を上げた。
彼らが見た物、それはEGの
透明であるはずのEGが、金色の光を放ち、強く、弱く明滅を繰り返している。
「EGがどうして――――」
ハンの問いに、吉村が何かに思い当たったように呟いた。
「こりゃあ――たしかヨーコのソルヴァインに使うように言われていた
そして、その言葉に応えるように――――
『ヨーコ――――』声が再び聞こえた。
◆クリスタルドーム 前庭
「はぁはぁはぁ――――」
グラディエーターは大木に寄りかかり、何とか立っている状態だ。
全身が傷だらけで、右手だけではなく、左足も膝から下が無い。
腹部には大きく抉られたような痕があり、傷は装甲を裂いて、生身の部分にまで達していた。
「ヨーコさん――――もう……いいです。
逃げて下さい」
「なんとか……なんとかしなくちゃ。
こうしている間にも、クリスやリタが――――」
何か方法を考えなければと、気持ちは焦るばかりだ。血の気が失せた体は冷え、視界は
『――――ヨーコ』
不意に誰かがヨーコの名前を呼んだ。
「誰?」辺りを見回すが、もちろん誰もいない。
失血による
大地がビリビリと震えた。
振動は徐々に大きくなっていく。
「――――まずい!」そう思った時には遅かった。
ゴァッ――――
木々を吹き飛ばし、クリシュナが姿を現した。
グラディエーターのすぐ側を掠め、上昇する。
凄まじい衝撃波に吹き飛ばされ、周囲の地面ごと、ヨーコの機体も中に巻き上げられた。
「しまった!」
空中では、自由に動く事も出来ない。
グラディエーターはまったくの無防備、恰好の的だ。
クリシュナは、更に二度三度と、まるで鳥が獲物を弄ぶように、
ヨーコは遙か下の地面を見下ろした。かなりの高さだ。ここから落ちただけでも只では済むまい。
だが、より絶望的な死がすぐそこに迫っていた。
クリシュナの鎧のような面に、あの青年の面影を探そうと、ヨーコはじっと迫り来る死を見つめた。
助けられなかったという後悔と共に、死の間際の走馬燈にヨーコが見たものは、仲間たちと過ごした日々と優しい青年の、どこか寂しげな笑顔だった。
そして――――
ガシュッ――――
クリシュナの爪が深々とグラディエーターの腹部を貫いた。
「ヨーコさぁぁぁぁん」
ロゼの絶叫――――そして、死の沈黙が辺りを支配した。
◆ソルヴァインドック 研究室内
「馬鹿な――――」
ドクは目の前のモニター上に表示された数値を、信じられないと言った面持ちで見つめていた。それは、グラディエーターのEGの活性化率を示す値だった。
「これは――活性化率が150%を越えている」
ヨーコの機体のEGは、つい先ほどまで限界に近い60%まで低下していたはずだ。
「まさか――――」ドクはコンソールを操作し、表示を切り替えた。
工場施設内のグラディエーター専用EG培養槽の様子が映し出された。
培養槽は、金色の明滅を繰り返している。
まるで、何かメッセージを伝えようとしているかのようだ。
「培養槽内の活性化率は――――200%だって?」
その様子を見つめ、答えを自らの内に探すようにしばし黙った。
「疑似ムーヴであるはずの、EGにこんな事が起こるなんて――――」
その時、室内に警告音が鳴り響き、モニター上に新たな表示が生まれた。
ソルヴァイン・グラディエーターの輸送機であるレイヴンが操作不能に陥っている。
「いったい……どういう事だ?
――――これは、輸送機に積んでいる予備のEGが固体化している?」
◆クリスタルドーム 前庭
夜空に
不浄の下界をのぞき見る神の目のごとき満月に、黒い不吉な影が浮かんでいる。
翼を広げた堕天使のようなそれは、クリシュナ。
巨大な力に
その手に抱かれるように、白銀の機体が力無く横たわっている。
中に浮いたまま、堕天使はかかえた
やがて意を決したかのように、両手を下げた。
支えを失った機体が銀の尾を引いて、地上へと落下していく。
「ヨーコさん! ヨーコさん、返事を――――返事をして下さい!」
ロゼが何度もその名を呼ぶが、もちろんいらえはない。
クリシュナの爪は腹部から背へ抜けていた。
おそらく、装着者は即死に違いない。
レオは、己が分身の最後を見届けようとするかのように、落下する機体を目で追った。
グラディエーターに動きはない。どんどん地上が迫り、やがて激突すると思われたその時――――
「レイヴンが――――」
レオが
落下を止めるように下に入った機体は、輸送機レイヴンだった。
だが、勢いのついたグラディエーターを止める事は叶わず、そのまま両機ともに地面に激突した。
「そんな……こちらでは何も操作していないのに。
どうしてレイヴンが勝手に……」ロゼが驚きを口にした。
「無駄な事を――――」
レオが呟く。
仮に落下をまぬがれたとしても、すでにヨーコは死んでいるのだ。
「何――――」
しかし、全てが終わったはずのそこに。
土煙があがり、墜落したレイヴンの残骸が見えるその場所に。
レオは
「何だ――――アレは!」
◆◆◆
真っ白い世界だった。
ヨーコは、すぐに自分が死んだ事を理解した。
「そうか――――ダメだったのか」
見えない頭を下げ、
「でも、僕がもう死んでるのなら、もしかしたらリタとクリスもすぐにここへ来るかもしれない。……そしたら、すごく怒られるのかな」
すまないと思う反面、仲間たちに再び会えると思うと嬉しくもあった。
「僕は精一杯やったんだ。一度はレオさんにも勝てた。
それでもう、思い残す事は――――」
諦めようとした、しかし――――
ポツリ
無くしたはずの体から、熱いものが流れ落ちている。
それが頬を伝う度に、無くしたはずの顔が、体が、そして温かいものが胸の内に蘇ってくる。
ポツリ ポタリ――――
幾筋も伝い、流れ落ち、地にシミを
「あ……う……うぇ……やだ」
知らず、ヨーコは
「やだよ」
幼子のように、止めどない涙を流し、泣きじゃくる。
「やだよ――これで終わりだなんて、やっぱりやだ。
クリスが、リタが死んじゃうなんてやだよ――――」
腕を振り回し、
「あたり前や――――このどあほう!」
その時、懐かしい声が聞こえた。
「リタ!」ヨーコが驚いたように顔を上げた。
「まったくですわ、さっさと迎えに来て下さい。
待ちくたびれましたわ」
「クリス!」
友の声に、ヨーコは涙を拭いて辺りを見回した。
「スカーレットとマゼンダがテレパシーを使って、ヨーコにうちらの声を送ってくれてるんや」
「本当は自分たち以外の人に力を使うのは、禁じられているそうですけど」
「そうだったんだ――――二人とも、無事なの? 大丈夫なの?」
ヨーコが明るい声を上げた。
「あ……ああ――――全然平気や。こっちはちゃっちゃと片付けたで。
ちょいと怪我をしたけど、なぁに、こんなの
「ええ、大丈夫ですわ」
「そう――――良かった。
でも……僕は……僕はダメだよ、死んじゃったんだ」
安堵に胸をなで下ろしたのもつかの間、ヨーコは自らの置かれた状況を思い出し、声を落とした。
「あほう! 死んだ人間と話が出来るわけあらへんやろ!
ヨーコは、まだ死んでへん」
リタの声に一瞬
「死んでない? ――――え? だって僕はクリシュナに」
その時、ヨーコは左手に温かい光を見た。
肌身離さず持っているようにと言われたブレスレットだ。
ブレスレットが金色の光を放ち、そこから温かい温もりが冷えていた体へ流れ込んでくる。
金色の光が輝く度に、失われていた体の感覚が蘇っていく。
真っ白だった世界に光が――――色彩が戻っていく。
そして――――声が聞こえた。
『ヨーコ――――』
◆◆◆
「やれやれ……世話のかかる……奴やな」
リタが一人呟いた。
「でも……これで……大丈夫です……わ。
そっちの……黒騎士さんは?」
クリスの声は、今にも消え入りそうだった。
「さっきまでうるさい程、笑っとったけど……な。
今は……なんや……静か……」
それきり、リタの声は聞こえなくなった。
「ありがとう、リタさん。今日まで…ありがとうございました。
……おかげで……楽しい毎日でした……わ」
一人呟くクリス。もう体の感覚がなくなっていた。
「さようなら……ヨーコさん」
もう一人の友の姿を思い浮かべながら、クリスはそっと呟いた。
◆クリスタルガーデン 前庭
「EGが――――」
さしものレオも、その光景に呆然と見入った。
レイヴンからあふれ出ているのは、夥しい量のEGだった。
EGが金色の光を放ちながら、まるで生き物のようにグラディエーターを包んでいる。
『ヨーコ――――』声が頭の中に直接響いた。
「これは――――まさか…EGの声なのか」
レオが疑問を口にした。
傷ついたグラディエーターを癒そうとするかのように、透明だったEGの色が変わり、明らかに硬度が変わっている。破壊された腕が足が――――再生されていく。
グラディエーターにあわせて形を変えた姿は、まるで金色に光る鎧を纏った聖騎士のようだった。
力なく倒れていたグラディエーターに活力が戻っていく。
ゆっくりと体を起し、立ち上がった。
「そんな馬鹿な……一度死んだ人間が、生き返るなんて――――そんな事が……」
我知らず、レオは問うた。目の前で起きている事が信じられなかった。無理もない。生きている液体と言われるEGだが、それが独自の意志を持ち、装着者を守るとは、誰が想像できようか。
ゴォッ――――
遙か上空にいるクリシュナにまで、届く程の突風が吹いた。
そのプレッシャーに、ビリビリと機体が震えた。
「オオオォォォォォォォ――――」
大地を震わす程の雄叫びを上げるグラディエーター。
顔が動き、クリシュナの姿を見た。
カッ――――
太陽が落ちてきたのかと思うほどの、目映い光を放つ巨大な光輪が、その背に現れた。それはまさに光の爆発だった。
フワリとまるで、まわりに重力が無くなったように、グラディエーターが中に浮いた。
ゾクリとレオの背に悪寒が走った。
そして――――
金色の機体が、かき消えたかと思うと、次の瞬間クリシュナの目の前に現れた。
間髪入れず、振り上げた両手を組んで、そのまま力任せに叩きつける。
ドガァン――――
凄まじい衝撃。クリシュナの巨体が一直線に大地へと落下する。
ドォン――――
「ぐぅっ……」
すぐさま膝をつき、顔を起こすクリシュナ。
グラディエーターがゆっくりと、その正面に降りてきた。
◆◆◆
「これは――――いったい?」
ヨーコは、驚きと共に目の前の光景を見ていた。
気がつけば、クリシュナが大地に膝をつき、こちらを見ている。
「ヨーコ! ヨーコ! 聞こえるか」
通信機から聞こえた懐かしい声に、ヨーコは我にかえった。
「ドク! 無事だったんだね! 良かった――――」
「それは、こっちのセリフだ。君はさっき、一度死んでいたんだぞ」
あきれたようにドクが言った。
「やっぱり……そうだったんだね……いったいどうして僕は生きてるんだろう。
それに機体も姿が変わってるし」
「僕が渡したブレスレットは付けているかい?」
答えるかわりに、ドクは問うた。
「う……うん。付けてるよ」
「それは、君の声や心音、体温を専用のEG培養糟に送っているんだ。
つまり、グラディエーターのEGは、常に君を身近に感じているのさ。
まるで、胎児が母親の心音や声を聞いて成長するように」
「それって……EGが僕を守ってくれたって事?」
「理論的にはあり得ない事だ。私だって君のパーソナルデータを送り続けた専用のEGを使えば、他の機体と性能差が出るかもしれないと、その程度の認識だったんだから。――――まさかそれがこんな事になるなんて」
『ヨーコ――――』
「ありがとう」
今も聞こえるその声に、ヨーコは心から感謝の言葉を口にした。
◆◆◆
「ありえない――――か」
モニターに映し出された金色の聖騎士を見つめながら、ドクは独りごちた。
ヨーコとの思い出を脳裏に描いた。いつも必死で一生懸命。自分の事よりも誰かの事を一番に考える少女の事を。
知らず口もとに笑みが浮かんだ。
皆、そんな彼女の事が大好きだった。
仲間たちだけではなく、工場の連中も―――そしてドク自身も。
その優しさが、彼女の力だ。
ありふれた、だが彼女にしかない力だった。
「そんなヨーコなら、EGだって好きになるかもしれないな」
ドクは呟いてから、自らの言葉に笑った。
◆◆◆
金色の聖騎士と黒の堕天使が向かい合う。
もはやそこに言葉は不要だった。
「空を飛べるというイニシアチブは、もう無い。機動力においても互角……いや、グラディエーターが上だろう」先ほど見せた動きから、レオはそう考えた。
だが、一撃なら――――ただ一撃に全てをかければ、グラディエーターを上回れるはずだという確信があった。
モード・テンペストのタービンエンジンを限界を越えて全開にすれば、スピードにおいて、上を行ける。
覚悟は決まっていた。そして何より、追い詰められた事で無心になっている自分自身に、レオは驚いていた。
それは、格闘家としての本能だったのかもしれぬ。
例えそれが作られた人格であったとしても、戦う者の本能が自分の中に生きているのだ。
殺気がある限り、負けないとヨーコは言った。
だが、今なら――――
無心の一撃なら、ヨーコに届くのではないか。
レオは自らの覚悟を確かめるように、胸中に問うた。
◆◆◆
クリシュナの
ヨーコは驚くと共に、そこに公園での青年の立ち姿を見た。
だとすれば、今、目の前にいるのは今まで一度も勝った事がない強敵だ。
EGの助けによって、互角になったとは言え、それだけで勝てるような相手ではない。それに、もしまた命を落とすような事があれば、再び蘇る事が出来る保証などどこにもないのだ。
だが、心は静かだった。
ヨーコもまた、覚悟を決めていたのだ。
仲間に励まされ、多くの人に助けられてここまで来た。
そして、助けてくれた者たちの中には目の前の青年もいるのだ。
「レオさん――――いきます」
ヨーコはそう呟き、構えた。
◆◆◆
両者の間合いは、わずか。
二人の機動力なら、無いに等しい距離だ。
互いに左足を前にした半身の構えだが、レオの方がわずかに前傾している。
何度も打ちあう事はないだろうと、共に感じていた。
ここまでの攻防で、互いの手の内は知れている。
長くとも数秒の後に、勝負は決する。
レオはメインエンジンのリミッターをカットし、一撃に集中する。
ヨーコは、再び、師である老人の事を思い出していた。
それを作られた記憶だと、偽物だとレオは言った。
だが、ヨーコはそれでも良いと今は思えた。
心の支えとなり、そして力となっている老人の姿をヨーコ自身が信じられるのなら、それで十分だと思った。
過去の記憶がどうであろうと、この街で過ごした仲間たちとの日々は、まぎれもなく本物だった。過去はどうしようもない。だが、未来はこれから築いていける。
後ろを振り返らず、前を見て生きていけば良いのだ。
ヨーコは合わせ鏡のような、クリシュナの構えを見つめた。
やはり、そこに殺気は感じられない。
ならば――――
『――――実は、ヨーコの弱点を見つけてしもたんや』
不意にリタの言葉が脳裏に蘇った。
『ヨーコは大きな行動に出る時にな?――――こう右足が』
次の瞬間――――クリシュナの右足が、わずかに後ろに動いた。
――――その言葉に背を押されるように、迷い無くヨーコは駆けた。
一瞬で間合いをゼロにする。
今まさに攻撃を繰り出そうとしていたクリシュナは、完全に虚を突かれた。
このままでは、先手を打たれる。そう思った瞬間、体が勝手に動いた。
ヨーコと同じく、レオの才もまた、尋常ではない。
体を前ではなく、後ろに引いて距離を作る。
たわめた弓を引き絞り、矢を放つようにクリシュナは渾身の突きを目の前のグラディエーターに向けて撃った。
命を賭けた、刹那の間にそれだけの事をやってのける。それはまさに神業だった。
凄まじいGに視界が一瞬暗くなる。レオは必死で意識を保ち、歯を食いしばった。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――」
まさに必殺。
一槍となったクリシュナの突きは、あらゆるものを貫く、無双の一撃。
グラディエーターの拳は届く事なく、その黒い槍の前に破れたかに見えた。
だが――――
ヨーコが狙ったのは、クリシュナの体ではなく、その抜き手。
史上最強、もっとも固いと言われるオリハルコンの槍を掌で受け止める。
自在に硬度を変えると言われるEGで強化された掌でさえ、その衝撃に耐えきれずヒビが入る。
だが、その手は砕ける事なく、突き出された腕を巻き込むように、力をそらした。
黒と金の影が交差する。
互いに振り向く両者。
クリシュナが再び、攻撃に移ろうとする。
その手をグラディエーターが掴んだ。
次の瞬間、クリシュナの機体が大きく傾いだ。
技をかけられたという感覚は、レオには無い。
事実、グラディエーターはただ手首を掴んでいるだけだ。
それなのに、そこからまるで力が抜けていくように――――否。
レオ自身の力が抜けているのだ。
まるで動けという脳からの命令が体に伝わらない。
それは、不思議にな感覚だった。
「レオ――――これが――――」
一瞬、レオの脳裏に老人の姿が蘇った。
朧気な記憶の向こうに、閃くものがある。
老人が言った、旧時代における柔術の極意――それは――――
「これは……そんなまさか」
レオが疑問を口にする。
グラディエーターが
それだけで、まるで重さがなくなったように、クリシュナの巨体が横に吹き飛び、大地に叩きつけられた。
「アイキ――――か!」
レオが顔を上げ、叫ぶ。
その目の前に、金の聖騎士の姿があった。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」
ヨーコが叫ぶ。
金色の残光を引いて、両手が円を描いた。
クリシュナの機体が回転し、中を舞う。
「レオさん――――」
グラディエーターが両手を後ろに引き、力をためた。
それに呼応するように、巨大な金色の
「
それは、金色の光の爆発――――
全てを包み
「
◆◆◆
金と黒、二機のソルヴァインは互いにもたれかかるように、膝をついている。
まるで、恋人同士が抱き合っているようにも見えた。
二機の機体から、金色に輝く気体が螺旋を描き、天へと昇っていく。
それは、
それぞれのハッチが開き、ヨーコとレオが降りてくる。
だが、レオの黒いスーツは、胸元が吐血した血で汚れていた。
膝をつき、倒れるレオ。
「レオさん!」ヨーコが駆け寄り、抱きかかえる。
「一番最初に――――あの公園で会った時も君にこうして支えられたね」
レオが弱々しく笑う。
「レオさん! やっぱりどこか体が……すぐに病院に行きましょう」
泣きそうな顔で言うヨーコ。
「いや……その必要はない。ボクやゴライアスに乗っていた彼女は、肉体の強化の代償として、寿命が短いんだ。おそらく、もう……助からない。
これは、君との戦いのせいじゃない。だから気にする必要はないよ」
「ああ……そんな……そうだ、隊長に相談すれば何か方法があるかも――――」
「――――それは、無理よ」
聞き慣れた声が答えた。
だが、そこにはヨーコが知る優しく温かい、母のような人の面影はない。
カサンドラ隊長が近づいて来る。
ゆっくりと銃をレオに向けた。
「隊長! 何をするんです。この人には、もう戦う力は残っていません!」
ヨーコが訴えるように叫んだ。
「ヨーコ……そこをどきなさい」銃を構え、カサンドラは冷たい声で言った。
レオが苦しそうに立ち上がる。
手でヨーコを庇うように後ろに下がらせた。
「レオさん! そんな体で無茶ですよ!」
「――――君は逃げろ」
ヨーコの方を振り向かず、レオは言った。
「え?」
「君は、真実を知ってしまった。企業の連中が君をこのままにしておくはずがない。――――逃げるんだ」
レオの言葉が信じられないと言った風で、ヨーコは近づこうとする。
「そんな……隊長は、僕の味方ですよ……ね?」
ダァン――――
ヨーコの言葉に答えるかわりに、カサンドラは銃を撃った。
「ぐっ」
肩を撃たれ、レオが呻いた。
「レオさん! ――――隊長! やめて下さい! やめて――――」
「逃げろと言うのがわからないのか――――早く行け!」
駆け寄ろうとするヨーコを制して、レオが叫んだ。
「どうして……どうしてこんな事を――――」
泣きじゃくるヨーコ。
「どうして?」その言葉をカサンドラが繰り返した。
冷たい、まるで機械のような目がヨーコを見た。
「どうしちゃったんですか、隊長。変です……いつもの優しい隊長じゃない」
「どうもしていないわよ、ヨーコ。部下を殺されたんですもの、これくらいは当然の報いだわ」
「え――――」カサンドラの言葉に、弾かれたように顔を上げるヨーコ。
「こ……殺されたって……まさか……さっき、僕は二人と話をしたんだよ……元気だって言ってたのに……そんな」
「リタとクリスは死んだわ――――まだ蘇生の可能性もあるかもしれないけど、肉体の損傷が激しすぎる……破棄します」
「破棄? ……な……何を言ってるの? リタと……クリスが、死にそうなんだよ。悲しくないの?」
カサンドラは、聞き分けの無い子どもに言い聞かせるように笑った。
「もちろん悲しいわよ。でも、それはいわば、愛用品を無くしたような悲しさだわ。時が経てばまた、別のものに愛情をそそぐようになるでしょう」
ヨーコは、世界がグラリと
レオから話を聞いた時よりも、今のカサンドラの言葉は、彼女の心に突き刺さった。
「そ……そんな……僕……隊長の事、信じていたのに。大好きだったのに……リタやクリスだって……」
「信じてくれるのは……もちろん嬉しいわ。でもね、ヨーコ。私たちは企業という巨大なシステムの一部だという自覚をもちなさい。その前では悲しいとか嬉しいとかいうくだらないセンチメンタリズムなんて邪魔なだけよ」
冷たい言葉を、非情な現実をヨーコに投げつけるカサンドラの姿を、レオはジッと見つめていた。傷の痛みも忘れ、そこに何かを探るように。
「さあ……後の事は処理班に任せて、帰りましょう。そしてゆっくりやすみなさい。目覚めた時には、全て元通りになっているわ」
泣き笑いのような顔で、ヨーコは後ずさった。
「レオさんの……言った事は、やっぱり本当の事だったんだね」
「ええ――――でも、それが何だと言うの?」
ため息をついて、カサンドラは言った。
「彼を見なさい。企業を逃げ出し、調整も治療も受けず、死にそうになっている。
あなただって、いつこうなるかわからないのよ?
だったら、例えそれが偽りであったとしても、幸せな夢の中に浸っていたいと思わないの?」
「幸せな――――夢」
その言葉に救いを求めるように、ぼんやりとヨーコは口にした。
「ええ――――元通りの幸せな毎日よ。
リタやクリスもいるわ。もちろん私も――――さあ、こっちに」
カサンドラは優しく笑った。
それは、いつもの彼女の笑みだ。
『リタさんは、何でもかんでも思った事を口にする方ですが……実はとても不器用なんですよ』不意に、クリスの声が蘇った。
『ヨーコは誰よりも強いよ。うちらの頼りになる仲間や』
リタの声が聞こえた。
「ダメだよ――――」泣きながら、ヨーコは
「僕は知ってしまった。――――それに、僕にとってリタとクリスは、僕の知っている。あの二人だけだ。大切な……大好きな僕の仲間だけなんだ!」
「そう……残念だわ」カサンドラの顔から優しい笑みが消えた。
レオに向けていた銃口をヨーコに向ける。
「よせ!」
「ぐぁっ」膝をつき崩れるレオ。
「レオさん!」
「これが最後の警告よ――――こっちへ来なさい」
まるで感情のこもらない、冷たい声音でカサンドラは言った。
いやいやをする子どものように、何度も首をふるヨーコ。
「残念だわ……あなたの事は、気に入っていたのに……」
引き金に力を込める。
「やめて……ママ……僕を撃たないで」
首を振りながら、後ずさるヨーコ。
「逃げろ! ヨーコ――――」
勢いよく起き上がったレオが、カサンドラの手を掴んで叫んだ。
「レオさん!」
「馬鹿野郎! 死にたいのか! ――――早く……ぐっ」
意を決したように、背中を向けて走り出すヨーコ。
ダァン――――
その背後で銃声が鳴り響いた。
◆◆◆
満月が陰り、天から
あっという間に視界を埋め尽くした銀糸の中、カサンドラは立ち尽くしていた。
「追わなくて良いのか……」
胸から血を流し、大の字になって倒れているレオが、掠れる声で言った。
「その必要はないわ」呆然と呟く、カサンドラ。
「あんたは……もしかしたら、わざとあんな事を言ったんじゃないのか?
ヨーコが……未練を断ち切って逃げられるように…わざとあんな非道い事を」
天を仰ぎ、雨に打たれるに任せて、カサンドラは言った。
「違うわよ」
「ぐっ……そう…だな。そんなわけないよな……」レオが苦しげに笑った。
「でも――――」カサンドラがポツリと呟く。
「ヨーコは、最後に私の事をママと呼んだ。――――あんな非道い事を言った私の事を――――」
レオは
雨の中、その頬を伝う雫に、別の
「――――泣いているのか?」
「まさか――――」
顔を雨に打たれるに任せ、振り向く事なく、カサンドラは言った。
◆ソルヴァインドック 研究室
「そろそろ来る頃だと思っていたよ」
人の気配を感じ、ドクは言った。
研究室の入り口に小柄な人影が見えた。
「ドク……」
辺りを見回しながら、ヨーコが入って来た。
「よくここに入ってこれたな。……なるほど、おやっさん、吉村が手を貸したのか」
「そうだよ。ハンさんも助けてくれたんだ」
「聞きたい事があるんだろう?」
ドクは研究室の椅子に座るように促した。
「うん――――僕、レオさんから全部聞いたよ」
椅子に腰を下ろしたヨーコがいきなり本題を切り出した。
「知っている」
「……やっぱり、ドクも知ってたんだね」
平然と答えるドクに、どこか悲しそうにヨーコが呟いた。
「当たり前だろう。私を誰だと思っているんだ」
「じゃあ……僕の質問に答えてくれるの?」
「答えられる事なら――――
「僕は作られた存在だって、レオさんは言ってた。それって……クローンっていう事なの?」
「クローンか……当たらずも遠からずってところかな」
「違うの?」
「確かに、今の技術ならクローンは可能だが、だからといって同じ人間がコピーのように何人も作れるわけじゃない。そんなのは、SFの中だけだ」
「じゃあ――――僕たちは何なの?」
身を乗り出すようにして、ヨーコが聞いた。
「ある意味……もっとSFみたいな話ではあるかな」
思案するように言うドクに首を傾げるヨーコ。
「――――どういう事?」
「君たちの事は、
「素体?」
テーブルに置いてあったデータチップを指さしてドクは言った。
「これは、何も入ってない空のデータチップだ。
素体とは、これの事さ。ここに人格と経験というデータをインストールしたものが今の君たちだ」
「そんな……人間にそんな事が出来るわけが……」
「もちろん、一般に公開されている技術水準では不可能だ。
だが、EGだってナンセンスな技術の産物だろう?」
その言葉にヨーコがドクを指さした。
「だってそれって、ドクが作ったんでしょう?
ドクが天才だって言う事じゃないの?」
ドクが苦笑した。
「天才だと思ってくれるのは光栄だけど、それだけじゃないんだ。
良く考えてごらん、この世界には他にもありえないような技術が存在しているだろう?」
一瞬、何を問われたのか解らずに戸惑うヨーコ。
だが、
「――――あ! クインビーだ」
「ご名答! クインビーに搭載されているAHドライブさ」
生徒をほめる先生のように、ドクは笑った。
「じゃあ、クインビーもドクが……あ、でもあれは確かアーネストなんとかっていう人が……」
ドクの目に一瞬悲しげな光が宿った。
「これは―――私の作り話だと思って聞いてくれ。
ありえない話だから――――」
ヨーコは、その意図を理解出来ずに首を傾げた。
「例えば、全世界の全てのデータが納められているものが存在するとしたら、どうだろう。“今”だけの話じゃない、過去も未来も全ての記録が存在するデータベースだ。
データと言っても単に“記録”の話じゃない。それがあれば何でも再生出来る、そんな代物が……」
それは、確かに途方もない話だった。
ドクが言うように、ただの作り話、そうとしか言いようのない話だ。
だが、ただの冗談と片づけられない物をヨーコは感じた。
愛らしい猫の姿をしたドクが、得体の知れない何かになったような、そんな気がして、ヨーコは体を震わせた。
「それは、旧時代……いや、もっと昔から根源の渦、アカシックレコードとも呼ばれ、求められていたものだ。
――――けど、もちろんそこに至った者など皆無だ。記録上では」
「記録上では? ――――そんなまさか」
「そのまさかさ。それを例えばサーバだと仮定すれば、ごく限られた範囲ではあるけれど、アクセス権を得た人物がいた。
許された範囲と言っても神にも等しい力を得られるデータ量だ。
その科学者は、もちろん嬉々としてアクセスしたさ」
「どうなったの?」恐る恐るヨーコが訪ねる。
「消えた――――情報の海に飲み込まれて」
両手を上に上げてドクは言った。
「もともと、そんな途方もない知識の集合体なんて、例え一部だろうと一人の人間が扱いきれるものじゃなかったのさ」
「だけど――――そいつもただ者じゃなかった。
ある意味、天才だったのさ」
ドクの黒い目に妖しい光が灯った。
「飲み込まれる瞬間、逆のその知識を使って自らをデータ化し、生きたプログラムとして、ネット上に残した」
「よく…わからないよ。それと僕たちとどう関係があるのさ」
ヨーコが首を捻った。
ドクがまあ待てと言わんばかりに手を振ってなだめた。
「その生きたプログラムというのがAHドライブだ。
AHドライブというのは、転移装置よりもそのプログラムが核なんだ」
「確かあのシステムは、ブラックボックスの部分が多くて良く解ってないって、前にクリスが言ってたよ。どうしてドクがそんな事を知ってるのさ――――あ」
ヨーコが何かに気づいたように、目を見開いた。
「その科学者というのが、ドクなの?」
「彼――――アーネスト・ホーエンハイム博士はもういないよ。
今の彼は空間転移装置を制御するためのプログラムだ。
だが、博士とその装置の関係に気づいたものが現れたんだ。
それを―――仮に“彼ら”と呼ぼうか」
「彼ら? ……ミツルギグループじゃないの?」
「違う―――だが、残念ながら、それを詳しく話すわけにはいかない」
ドクの口調に変化は無かった。だが、その言葉に込められたものをヨーコは敏感に察した。
それは“彼ら”に対する言いようのない恐怖だ。いつも
「彼らはプログラムの一部が、未だそのデータベースにつながっている事に気づいた。そして、そこから新しい知識を得ようとしたんだ。
生きたプログラムに制御しやすいように疑似人格を与え、アクセスを試みたのさ。要は、サーバ管理者の目を盗んで偽のパスワードでアクセスしたと言えば解りやすいかな?」
「疑似人格? ……もしかして、それがドク?」ヨーコが驚き、目を見張る。
「そうだ。アルフォンス・ハインミュラーなんていう科学者はもともと存在しない。私もある意味、君たちの同類だ。
――――そして、私という偽のパスワードとIDを使って手に入れたのが、ソルヴァインシステムであり、データベースから直接ダウンロードした人間のサンプルデータが君たち三人というわけさ。――――四人目も手に入れようとしたらしいが…上手くいかなかったようだな。おそらく、管理者に見つかったんだろうね」
ドクが肩をすくめる。
「ドクの話は難しすぎて、全部はとても理解出来ないよ」
ヨーコは苦笑した。
「それでも良い。私も誰かにこの話を聞いてもらいたかっただけだから」
「でも、一つだけ聞かせて――――僕たちは人間なの?」
「理論上は、人間とかわりはない。君たちのデータは実在の人物が元になっているはずだ。もしかしたら、この宇宙のどこかに本物の君がいるのかもしれないな」
そして、ドクは顔を上げて真っ直ぐにヨーコを見つめた。
「だが、上書きされた人格と現在の記憶の間に
人格が
――――君も聞いているだろう?ゴライアスに乗っていた彼女さ。
そして、肉体が拒否反応を示し、体に変調を来す場合もある、レオがその例だ」
「僕もどうなるか解らないって事?」
「――――すまない」短く、ドクは
「わかったよ」ヨーコはため息をついて言った。
「本当に?」
「どうせドクの事だから、何か手があるのなら、僕に解らない難しい言葉でいろいろ説明するはずでしょ?」
「な―――参ったな」ヨーコの言葉に一瞬驚いた後、ドクは苦笑した。
「聞きたい事は、聞いたし。ドクが少しでもすまないと思ってるって事も解ったら、それで良いよ」
明るくヨーコは言った。その姿は以前の彼女のままだった。
「そうかい? ――――私は科学者だよ。君たちは単なる実験の結果にすぎないんだよ」
ヨーコは、ドクをジッと見つめた後、小さく笑った。
「前にクリスが言っていたよ。ドクがひねくれた物言いをする時は、決まってその反対の事を考えているって――――本当だね」
「そ……そんな事はないさ」困ったように言うドク。
「じゃあ、元気でねドク。今までありがとう」
「言っただろう? 私はただのプログラムだよ。元気も何もないさ」
苦笑するドクにヨーコは首を振った。
「ううん。ドクはドクだよ。僕はドクに元気でいてほしいと思ったんだ」
笑顔でそんな事を言うヨーコをドクはまぶしそうに見つめた。
「それなら――――うん、元気でいるように努力しよう。
君も元気で、ヨーコ。こんな事を言うのは、非科学的かもしれないけど、EGの効果で一度生き返った君は、いままでの彼女たちとは違った存在になっているかも知れないよ。幸運を祈ってる」
「やっぱりドクはドクだね」
照れたように言うドクの姿に、ヨーコは晴れやかに笑った。
「じゃあ、またね」手を振り、部屋を出て行った。
「ああ……また、会えると良いね」
寂しそうに呟くドク。見送るその後ろ姿が一瞬ぼやけた。
視界にノイズが走り、段々意識が
偽のIDとパスワードにより、管理者をだましていると彼は言った。
ならば、管理者が彼の存在に気づけば、アクセスを失うのは必定だった。それは、つまり彼自身の消滅を意味していた。
「お別れの時まで待っていてくれたのか?
だとすれば――――なかなか空気を読むじゃないか」
そう言って、黒猫の姿をした科学者は、ゆっくり眠るように倒れた。
◆エピローグ ヨーコ独白
雑踏の音、道行く人の声が聞こえる。
黄昏の街をヨーコは一人歩いている。
「レオさんが、なぜあの公園で僕に稽古をつけてくれたのか。
倒すべき敵のはずの僕と、なぜあの時間を過ごしたのか――――ずっと考えていた」
「結局彼の口からその答えを聞く機会はなくなってしまったけれど、きっと彼の中に残っていた優しさと、仲間たちへの思いがそうさせたのだと僕は思った」
「それは、かつての自分に対する未練だったのかもしれないけれど、心のどこかで、自分を止めてくれる存在を求めていたんだと僕は思う」
「
「そして、カサンドラ隊長――――やっぱり僕は隊長の事を嫌いになんかなれない」
「あの時、隊長は僕を撃たなかった。
撃とうと思えば、隊長なら僕を殺す事が出来たはずだ。もし、本当に殺すつもりだったのなら、僕はそれでもいいと思っていた」
「大切なものを無くし、信じられるものもないこの世界で、これ以上生きていくなんて出来ないと思った」
「――――でも、隊長は僕を撃たなかった」
「それが、あの人の最後にみせた優しさだと、僕達の愛したママの本当の気持ちだと信じたい」
「人の温もり、優しさを信じられるのなら、この裏切りと偽りに満ちた世界で、僕は残りの人生を歩んでいける。すべてを憎み、すべてを破壊しようとした、あのもう一人の僕のように、ならなくてすむかも知れない」
夕焼け空を見上げるヨーコ。
その視線の先に、ビルの壁面に設置された巨大な液晶モニターがある。
軽快な音楽が流れ、見知ったレポーターの姿が映し出された。
「ゼロ・ゼロ・シックス・セブン・ワン!アリオンサテライトニュース!」
リポーターの女性、シンディ・オコーナーが歌うように言った。
「次のニュースです。多数の警官を殺害し、逃亡中だった連続殺人犯、アリサ・ヤマザキとシン・キスギがBHトライ・アンジュによって逮捕されました。トライ・アンジュの三人も軽い怪我を負いましたが、本日、無事退院出来たようです。病院前から、シンディ・オコーナーがお伝えします」
「はぁ~い、こちら病院前です。今日は、凶悪な殺人犯を見事逮捕した、ご存じトライ・アンジュ、鋼鉄の天使の三人、クリスティーナ・スターリングさん、リタ・ルジェーロさん、ヨーコ・九条さんにインタビューしてみましょう!」
ヨーコとリタ、クリスが病院から出てくる。
「よろしくお願いします」三人が明るく挨拶した。
「こちらこそ、よろしくお願いします。では、クリスティーナさん、相手は凶悪な殺人犯だという事ですが、怖くはありませんでしたかぁ?」
「もちろん、恐怖心はありましたわ。でも、わたくしたちはそれを克服するために厳しい訓練をつんでいますし、それに市民の皆さんの安全を守る事が私たちの仕事ですから……」
「う~ん、さっすが優等生! 模範的な答えやなぁ」
「ちょっと……リタ、やめなよ」ちゃかすリタを止めようとするヨーコ。
モニターを見上げ、ヨーコは不思議な思いでその光景を見つめていた。
それは、もう戻る事はないと思っていた場所だった。
「アハハハ、リタさんは怖くなかったんですかぁ?」
「もっちろんや! あんなヤツ、全然たいした事なかったで!」
「うわぁ……頼もしいですねぇ」
「うんうん、うちらにかかればあんなヤツちょちょいのちょいや。うちら三人にかなうヤツなんておらんで。まさに鬼に金棒、豚に真珠ってヤツ?」
「リタさん……」クリスが苦笑する。
「リタ……それちょっと違うと思う」
「え?あ……そ……そうか? アハハハハ」
笑い合う三人。
それは、どこか遠い世界の景色のようだ。
「アハハハハ。このように、とても頼もしいトライ・アンジュの方々でしたぁ~。
退院、おめでとうございます。これからもがんばって下さいねぇ」
「はい。どうもありがとうございます。がんばりますわ」
「ぶ~、クリスぅ、またおいしいとこをもっていった~」
むくれるリタ。
「アハハハハハ」笑うヨーコ。
まるで逃げるように、ヨーコは背を向けた。
頬を一筋、涙が伝った。
「さようなら、リタ、クリス、みんな……」
ヨーコはそう呟くと雑踏の中に溶けるように消えていった。
街の雑踏。そこにかぶるように、エンドロールが流れはじめる。
◆エンディングテーマ “サクラ一夜のユメ”
◆カーテンコール
リタ「次はソルヴァイン2やな?」
クリス「突然何を言い出すんですの」
ヨーコ「そうだよ、次は劇場版でしょ?」
リタ「おお?言うようになったやんか」
ヨーコ「まあね。えっへん!」
クリス「ダメですわね―――ヤレヤレですわ」
リタ「なにがやねん」
クリス「きょうび、2というのはありえません。
最近は、ダッシュとかRとかハピネスが付くんですよ」
ヨーコ「あ…それ知ってるよ。仲間が増えたりするんだよね」
リオ「――――呼んだか!」
リタ「出よったな、タキシー●仮面」
レオ「誰がタキ●ード仮面だ」
クリス「発想は悪くありませんが、あなたたち、元は同じ人間なんですから、キャラがかぶってしまいますわよ」
レオ「なんだって! ボクは、ほら、妹萌えの兄的な立ち位置だから大丈夫だよ、なぁ?」
ヨーコ「レオさん、そうだったんだ……僕ショックだよ」
レオ「え――――だ……ダメなの?」
リタ「あ……すねた」
クリス「やっぱり、元が同じですから、打たれ弱いところも同じですわね」
ヨーコ「……ねぇ、同じと言えば、あっちでリタっぽい人がこっち見てるんだけど」
リタツー「誰がリタっぽい人やねーん!」
ヨーコ「わぁ! ごめんなさい」
リタ「おまえは、
リタツー「眼帯おっぱ……本編でいくら名前で呼ばれてないから言うて、それはあんまりやんか!」
クリス「いや……メタな話。リタとリタツーが二人で喋ると両方関西弁キャラなので、作者が訳が分からなくなるんですわ」
ヨーコ「あ……あっちで作者の人がビクッてなってるよ」
リタ・リタツー「なんやて――――」
リタツー「それなら2では、死んだコイツに代わって、うちがヒロインをやったらええんや」
リタ「なんでやねん――――」
ヨーコ「まあまあ……でも、確かに続編だとリタもクリスも死んじゃってるから出番が無いよね?」
クリス「甘いですわ、ダイナーのグレートマウンテンパフェより……」
リタ「それ、前回も言ったで……」
クリス「コホン……ともかく。わたくしもリタも実際に死んだシーンは描写されてませんわ。つまり、実は生きていた的な展開もアリ!」
ヨーコ「え――――それは、さすがにご都合主義すぎるんじゃないかなぁ」
リタ「そうやで! そんな話より、異世界に転生したうちのファンタジックでエロエロな話をやなぁ――――」
リタツー「そしたら、うちが2Pキャラの色違いで――――」
ヨーコ「それはすでにソルヴァインじゃない、何だかよくわかんないものだよ」
クリス「そうですわ。転生モノは美味しいですが、それはダメダメです」
リタ「チッ――――しゃあない。
せっかくの最終回やし、そろそろちゃっちゃとまとめるか」
ヨーコ「うんうん」
三人「え~とここまで読んで下さった読者の皆さん。
作者にかわりまして、あつくお礼申し上げます。
これで、私たち三人のお話は終わりですが、もし、また機会があれば、どこかでお会いしましょう。
ソルヴァインの本編であるBHはまだまだ続くようですので、そちらも併せてお読みいただければ、より楽しんでもらえると思います。
――――では、皆さんさようなら~」
光鱗のソルヴァイン――――完
光鱗のソルヴァイン 原田ダイ @harada-dai
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