第2話 yue1.





はぁ、はぁ、はぁ……。



息が苦しい。走り過ぎて、吐いてしまいそうだ。


もう後ろから追う足音は聞こえてこない。しかし、ゆえの足は恐怖のあまり止まることはなかった。


「アレは何? アレは何? アレは…… 」


ぶつぶつと口から漏れる同じ言葉。


梨華りかは友達でクラスメートだけど、イケすかない女だった。いつも、自分の可愛さを鼻にかけて自慢ばかりして。

でもだからって、あんな最後を見せられる程嫌いな訳でも無かった。



最後……?。


ゆっくりと走る速度を緩めると、辺りを見回して人一人入れそうなビルの隙間に身を潜める。



やっぱり死んだんだよね? 人間があんなことされて生きてる訳がない。



カチカチと合わない歯の根の音さえも響いて聞こえそうで、ゆえは震える手で自分の口を押さえた。


まるで人形みたいだった。奇妙な方向に捩じられた腕が、いとも簡単に引き千切られて、梨華の叫び声が……。



思い出して、喉元に酸っぱいものが込み上げてくる。

がくがくと膝が震えて、立って居られない。


どうしてよ……っ、どうしてこんなことに。




******



「……今日、サイトで知り合った人と初めて会うんだよねぇ 」


昼休みの教室。 お弁当箱を片付けていると、とっくのとうに食べ終えていた梨華が待っていたように、ネイルで飾った指の先でスマホの画面をスワイプした。



「え、何よそれ。大丈夫なの? 」


「うん、だからさ、ゆえも一緒に来てよ 」


見せられた画面には、超絶的に整った顔の男が映っていた。全く、本当にいい男に弱いんだから……。



「でも、こんなの嘘かもしれないじゃん。」


「嘘だったら待ち合わせ場所で会えないでしょ? 不細工が来たら、ソッコー帰る! 」



拳を握り締め、見えそうなくらいに鼻息を荒くする梨華に、ゆえは形よく整えている眉をひそめる。



あーあ、この先の梨華の台詞が分かってしまった。




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君が眠るは蒼い月 山葵 トロ @toro

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