君が眠るは蒼い月

山葵 トロ

第1話 prologue





「お……い、冗談だ、ろ? 起きろよ、起きろって! 」


抱き上げた途端、雨とは違うヌルリとした感触に心臓が冷えていくのを感じる。


泥水で汚れた白い小さな顔。

いつも淡く染まっていた桜色の口唇は、既に色味を失っていた。



「ふざけんなよ……っ! 俺んこと、一人にする気かよっ! 」


揺さぶる身体がぐらぐらと揺れて、長い栗色の髪が地面に零れた。



「ずっと、一緒にいるって言ったじゃないか。どんな時でも手を繋いでるって…… 」



少女の頬に落ちる雫は、打ちつける雨なのか自分の涙なのか分からない。


独りじゃ戦えない。お前がいないと戦えないよ、ほのか



ガララララッ……!!


「ぐぅぅうおお…… 」「……っ?! 」



背後の瓦礫の山が崩れる音と、獣のような咆哮。



少年は深い眠りについた少女を抱き締めると、ぎゅっと瞳を閉じた。










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