善知鳥峠

冬石

善知鳥峠

 僕たちは仲間だ。

宇宙船事故から救助された私に宇宙人である彼は脳へ直接語りかけてきた。

いきなりそんなことを語り出した自分とはまったく別の生き物を凝視する。

元はと言えば彼らがいきなり地球へやってきて人間をまた他の宇宙へ売る商売を思いついたせいだ。

その真っ最中に私たちを乗せた宇宙船は事故に合い、多くの犠牲を出した。

事故は壮絶なものであり生き残ったのは私ひとりとなってしまった。

私をかばって死んでしまった他の地球人たち。

なんということだろう、地球人はこの別宇宙へ私をひとり置いていきぼりにした。


 孤立した私はこれからどうしたら良いのかと頭を抱えるしかない。

運んでいた宇宙人も一体を除いて滅んでしまった。

他の宇宙人がわらわらとやってきてなんだか騒ぎになっているが私が漠然とこの宇宙に地球人として存在している。

ウトゥーウトゥーという超音波のような雑音が彼らの言語らしい。

幸運にもこれを口に出さなくとも宇宙人の彼らは思考を読める。


 ここは地球のあった宇宙とはまったく違う宇宙だから、私は自力で地球に帰ることが叶わない。

しかしながら命があるのは尊いことだ。

これからどうしようかと浮遊しながら考えていると、宇宙人の群れから生き残っていた例の宇宙人がやってきて、僕たちは仲間だと語り始めた。

冗談じゃない。最初に売ろうとしたそっちが全ての元凶ではないか。むしろ責任を持って地球に送り返すべきだろうと私は考える。

ちなみに宇宙人はみんなへんてこな容姿をしており私には見分けがつきそうでつかない。

ややこしいと思う。


 いやいや、僕たちにも種族というものがあってだね。

そんなことに興味はない。私はばっさりと切り捨てる。

地球の種族というものについてあなたたちは注意をしたか。

意識したのは地球人が彼らにとっての宇宙の中で珍しい種族だということだけだ。

彼らにとって地球人は貴重で高く売れる良い商品だったのだろう。

地球人で儲ける気であった。

 すまないと思っているし、反省もしている、ここの宇宙分岐点に今後は注意するよう書いておく。

で。

それで。

だからなんなんだと私は宇宙人に返す。

しばしの沈黙。

 僕たちは同じ境遇の仲間だし、わかりあえるんじゃないかな。 

そういう問題じゃないし分かり合いたくないし同じ境遇でも何でもない。

 犠牲になった互いの先人を尊敬し称えよう。

彼の気持ちはわからなくはないが、どう考えてもい論点を変えようとしている。

私がはいそうですねと言えば終わる。

私の人生も終わるし死んでしまった地球人の最後の願いも終わる。

宇宙人の彼は激しくウトゥーウトゥーと鳴り触覚のようななにかを広げてもそもそした、どうやら称えているらしい。


 仲間だと最初に彼は言ったが、私はその概念を今はまだ受け入れ難い。

だが承諾せねば物事は進まないし死んでしまった地球人も救われない。

ああ、これでは宇宙人の思う壺ではないだろうか。

段々と考えることが面倒になってきた自分自身も、なにもかも。


 私はしかたがなく「ウトゥーウトゥー」と言い、、両腕を広げ適当にばたばたとする。

宇宙人は反応を示し、ウトゥーウトゥーと鳴き、触覚のようななにかをさらにもさもさとさせる。


 なんとう茶番劇だ。

地球から遠く離れた地でひとり宇宙人と悲しみを共有し合って何になると言う。

そういう意味では最後まで争いを続けまとまらなかった人類はまだ良かった。

仲間意識など持とうもせず、理解し合えるなんて甘いことも言わなかった。


 私は、復讐心を覚え他の宇宙を支配する術を心の隅で考えた。

目の前の宇宙人も群がっている宇宙人たちも自分に感謝させる術。

地球では当たり前に行われていた方法がある、許し受け入れ吸収し自分の一部にすれば問題を解決できる。


 己という概念を書き換えるだけ。

我々は仲間だ。

同じ悲劇を乗り越えた同士だ。

もさもさとばたばたを続けながら私は彼らの心理輪へ入り込み、宇宙に馴染んで行く。

まったく人類とはうといものだ。

ウトゥーウトゥーウトゥーウトゥー

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善知鳥峠 冬石 @fyic

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