いいとこさがし
こばると
第1話 私は死んだんだ
「ここはどこ」
目が覚めた私の頭のなかに最初に浮かんだ言葉。
周りには無数の人間がぞろぞろと急ぎ足で歩いている。
騒々しい。
その時初めて自分が歩道の真ん中に寝っ転がっているのに気づいた。人が私の周りにどんどん集まってきた。それもそうだろう。学校に行っているはずのこんな時間に制服姿で寝ていれば人が集まるのも当然だ。
でも私の顔を覗き込む人たちの顔がなにか不思議だ。気持ち悪いものでも見るような、どこか憐れみの混ざった表情でこちらを見ている。数人は携帯電話を持ち、しきりにどこかに電話をかけている。でもなんて言っているのかはよくわからない。
意識が朦朧とした中で私は立ち上がった。というよりかは浮いた。
身体が軽い。
「あの...すみません...」
周りの人を避けて人ごみから出ようとしたその瞬間、30代半ばとみられるサラリーマンんが私の体をすり抜けていった。
悪い予感のした私はすぐさま自分がさっき立ち上がったはずの場所を見た。でもそこには私が毎日鏡で見ている人間はいなかった。
まるで映画で見たような光景だった。
手足はぐにゃぐにゃ。あらぬ方向に曲がっている。
潰れたように見える頭からは大量に血が流れていた。
制服も血で染まっていてとてもじゃないけど直視できるようなものではなかった。
こんな状況を描いた話をよく読んでいたから自分が死んだことはすぐに理解できた。そして自分でも驚くほど冷静に状況を飲み込んでいた。
「私は死んだんだ」
心の中でそう呟いて私はその場を去った。
自分は今幽霊なんだ。歩きながらふとそう思った。普通だったらなんの感情もわかないかもしれない。むしろ何か不気味な感じもするだろう。でもその時私はなんだかウキウキした。当然だけど私のことが見える人は誰もいない。あの子たちも私のことが見えないだろう。もう怯える必要はないんだ。私は自由なんだ。
そうだ、空は飛べるのかな。
歩いている途中で映画の主人公になったような気分になり、ぴょん、と飛び上がってみた。でも体は浮かない。死んだら空を飛べると思っていたのでがっかりしてしまった。生身の人間と同じように歩かなければならないのかと思うと幽霊である特権が何もない気がしたのだ。
時間はまだ13時を回ったばかりで空は明るかった。7月ということもあってとても蒸し暑い。アスファルトの照り返しも激しく、道行く人たちは汗でびちゃびちゃになった額をハンカチで拭っていた。近くの電光掲示板には東京の気温が30℃だと表示されていた。暑がりな私は夏が大嫌いだ。でも私は全く暑さを感じなかった。
幽霊の良いとこ一つ発見。
忙しく歩く人たちをぬけて私は大通りに出た。なにも変わらないいつもの通学路。たった一つ変わったとすればそこに私がいないことだ。私がいなくても時は進んで行くし、みんなは日々の生活を送る。あの子たちも今日ものうのうと生きているだろう。そう思うと怒りがこみ上げてきた。なんで私だけ死においこまれたのか。なのになんであの子たちはいつも通りに楽しそうに生活を送っているのだろうか。
こんなことが頭のなかでぐるぐるしながら私は歩いた。ひたすら学校への道を歩いた。今にもあの子たちの甲高い笑い声がきこえてきそうだ。そう考えるととても惨めな気持ちになった。でもそれ以上に憎悪の感情がふつふつと湧き上がってきた。
私の高校生活はとても悲惨なものだった。苦しかった。でも誰も助けてはくれなかった。みんなは一番安全な”見て見ぬ振り”の策を取ったのだ。私の命よりも。
そう、私は復讐するために死んだんだ。
あの子たちに今までされた事をやり返すために死んだんだ。
「まっててね」
心の中でそう言って私は復讐への道を歩き出したのだ。
いいとこさがし こばると @cocainebutterfly
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。いいとこさがしの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます