良い小話でした。
キョンと古泉が大人になって再会し、酒を酌み交わしつつメタフィクショナルな雑談をする。
メタ要素、これぞ隠れたハルヒ節です。
単なるキャラ萌えの2次創作ではなく、ハルヒの物語を、大人になったキョンの視点で客観視するとどうなるのか。さらにミスター解説役(笑)でもある古泉を相方に据えたのも「わかってます」ね。
「顔が近いぞ」など、原作にあった台詞をリスペクトするなど、細かな配慮も行き届いています。
本当にただ駄弁っているだけですが、こういう話を書けるのって稀有な才能だなぁと感心しました。
最後にちょっと蛇足的なオチでハルヒの言葉を出すのも、キャラの配分を「わかってます」ね。拍手です。
とても密度の濃い、そして、涼宮ハルヒシリーズを大切にしているファンの、二次創作だ。もしもあなたが原作のファンならば、とりあえずページを開いて損はない。
涼宮ハルヒシリーズは10周年という区切りの年を迎えるという。かつてのメインターゲットであった読者も20代、あるいは30代となり、未だ空白となっているあのまぶしい物語の続きを、あるいは残滓を、色々なスタンスで心の中に留め置いているのだろう。この二次創作は、そんなファンの代弁であり、同志への回答であり、そして、あの世界を愛し、あるいは作り出した人々への声援でもある。
本作は3,679文字と、コンパクトな掌編だ。日本人の平均読書速度がものの資料によると400~600字/分だそうなので、およそ7分ちょっともあれば読破できる。けれど、その短さは内容の薄さと比例しない。少なくとも、自分はそう感じなかった。これは多分、読み手側と書き手側の間に、かの世界と、それに向けられた思いが共有されているからだろう。
もしもあなたがかつて、涼宮ハルヒとSOS団の物語に没入したことがあるなら、ぜひ、移動中、あるいは家事や仕事の合間の7分間をこの物語に預けてほしい。その時間対効果(コストパフォーマンス)は、あなたがこれまで、原作シリーズにどっぷりとつかってきたほど、良好なはずだから。