青い少女の見る夢

はらはらと

ひらひらと

舞うのは蝶

青い蝶


蝶が追いかけているのは十になるかならないかの少女

少女が追いかけているのは青い蝶


どちらがどちら?




『青い少女の見る夢』




 それは真夜中、とは言えない時刻。既に明け方であろう。外は霜が降りており、師走とはいえ常よりも冷える。

 自分はこんな時期に現れるはずのない生き物である。見た目は青く、繊細な柄をその身に宿した蝶である、と自負している。人間は私たちに色々な意味をつける。

 例えば神様の使い、幸運のシンボル、長寿と富、ステップアップの予兆、復活の意味、だとか。

確かにそれらは間違ってはいない。そう、間違っては。


 しかしここはどこだろう?


 どうやら自分は、それなりに広い屋敷にいるようだ。青い翅をひらひらと翻し、あちらからこちら、こちらからそちらへと自由自在に飛び廻る。しかしその広い屋敷のどこにも人影が見えない。


 もしやここには誰も住んでいないのか?


 人が住んでいるのであれば、ここまでの広い屋敷だ、おそらくはある程度の財産を持っていなければ家を維持できまい。そして財産があるのであれば、犯罪を警戒して見回り等の人を雇うはずである。だとゆうに、人っ子一人見つからない。

 さらには、どうやら屋内はだいぶ荒らされている様子であった。椅子や箪笥は倒され、書物や手紙など紙類は舞い、抽斗等もばらばらにされていた。

 青い蝶は軽やかに飛び廻りながらもあちらこちらを見て回った。




 あちらこちらを見て回った結果、屋敷は一個の大きな建物と、一個の小さい建物とが分かれている様子で、青い蝶が見ているのは大きい建物の方だというのが解った。

 そして青い蝶が見つけたのは、庭に人々が縄で縛られ、何人かの屈強な男たちが鋭利なナイフで脅しているところだった。武器を持っていない男たちが色々な品々を、武器を持った男たちに脅されて運ばされている様子であった。


 どうやらこれは”ごうとう”と呼ばれるものであり、”わるいこと”であるようだ。


 青い蝶は庭先の樹木の葉の上に止まり、その様子を観察していた。”ごうとう”たちはこの屋敷から全てを奪おうとしている模様である。

 庭で縛られた一人の男性に対して、三人の屈強な男たちが武器を手に、何かを問いただしている様子が見られた。何を話しているかは解らないが、どうやら一人足りないらしい。そして周りで縮こまっている女性達を見る限り足りないのはこの屋敷の女の子供であるようだ。恐らくまだ屋敷のどこかに隠れているのであろう。

 しかし青い蝶は先ほどまで屋敷のほどんどを見て回っていた。いるなら見かけているはずである。ということはまだ見て回っていなかった小さい建物の方か。

 青い蝶がそう考えちらりと小さい建物へ続く道を見ると、青い着物を着た黒髪の少女がちらりと見えた。そしてすぐにこちらから見えないようになのか、向こう側へと隠れた。


 どうやらあの少女のことであろう。


 ”ごうとう”たちはどうやら少女を探しに行くようだ。

あまりよろしくない。ちらりと見たあの少女は震えていた。あの様子ではすぐ捕まるだろう。それに嫌な予感がする。


 青い蝶は少女の後を追うことにした。


 ひらひらと、少女が隠れている場所へとやってきた時、青い蝶とは反対側から男がやってくることに青い蝶は気づいた。だが少女は気づかないのか庭をじっと見ていた。危険を報せる為、青い蝶は少女の視線の先に自分を映させ、そのまま男の方向へと視線を誘導した。ぎりぎりで気づいた少女は男の手をするりとかわし、逃げ出す。逃げられたことに気づいた男は仲間に報せていた。追っ手が増える一方である。

 青い蝶はその後も男たちの場所を少女に教え続けた。さらに少女は近道も、身を隠す場所にも詳しかった。どうやら小さい建物は少女の生活の場所であるらしい。男達の居場所を青い蝶が教え、隠れられる場所に少女は隠れていた。


だが。


感心していたのが裏目に出たのか、気づいた時にはもう遅かった。

男の無骨な両手の平に、少女のあまりにもか細い首が、あっさりと締め付けられる。


苦しみに耐え、最期にと開いた少女の目に、青い蝶がはらりと舞う。


少女の両の瞳から、美しい雫が零れ落ちる。


少女の息の根を止めて満足した男達は、何の価値にもならない、と少女を放置した。

男達は気づかなかった。



青い部屋

青い襖

青い畳に横たえる

美しい青い衣を身に纏った

青い瞳の少女

その生気のない瞳は、青い蝶をじっと見つめていた。



男達はまだ知らない。


美しい青い蝶が、まもなく復讐に来ることを……。






そして、この青い蝶の正体を。









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青い蝶の見る夢 夜城琉架 @ruka-yashiro

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