青い蝶の見る夢
夜城琉架
青い蝶の見る夢
はらはらと
ひらひらと
舞うのは蝶
青い蝶
蝶が追いかけているのは十になるかならないかの少女
少女が追いかけているのは青い蝶
どちらがどちら?
『青い蝶の見る夢』
「……?」
それは真夜中、とは言えない時刻。既に明け方であろう。外は霜が降りており、師走とはいえ常よりも冷える。
そんな時刻、少女は違和感により目を覚ました。
常なら必ず女中が近くに居り、自分を見守っていてくれているはずだった。だというに、今日に限ってそれがない。時計などという高価な物を持てるほど裕福な家柄ではあるが、少女はまだ幼く、所持することを認めては貰えなかった。故に常に女中が時刻を教えてくれるはずである。それがない。
何故だろう?
少女は何か胸騒ぎがしていた。
少女のいる屋敷はそれなりの家柄であり、屋敷はそれなりに広かった。しかしそれでも用心の為か、必ず見回りをする者達がいるはずである。それすら今日に限ってないのだ。
少女は身震いをした。このような状況になった事など今の今まで一度とてない。それなのに言い知れぬ不安が少女を襲う。
そんな時だった。庭の方から人の声が聞こえた、気がした。気がした、というのは間違いではない。何故なら、少女の寝ているここは離れで、声が聞こえたような気がしたのは母屋のほうの庭からだったからだ。かなり遠く離れてはいるが、微かに聞こえた。しかしその声に少女は違和感を感じる。何故なら、初めて聞く男の図太い声だったからである。
それでも少女は青い寝間着のまま、母屋の方へとゆっくりと歩き出した。
少女がようやっと母屋に着いた時、家の者は全て庭に連れ出され、縛られていた。だが、彼らの生死は解らない。全ての者がぐったりとしている。屋敷に大切に仕舞われていた骨董品や、高価な壺や、お金になるものは全て庭に運ばれているようだった。そう。屋敷に強盗が押し入っていたのだ。だが強盗たちは少女にだけは気づいていなかった。先にその様子に衝撃を受けた少女は、咄嗟に襖の奥へと隠れた。
もし彼らに見つかってしまえば、殺されてしまうかもしれない。
少女は震えながらも、その小さな両手で口を押さえ、悲鳴をあげないよう必死だった。
ところが、気を張っていたのは庭のほうで、反対側から男がやってきたことに気づかなかったのだ。
生き残りがいると気づいた男達は少女を捕まえようとする。しかし少女はするりとかわし、逃げ出した。
追いかけてくる男達は段々と人数が増えているように感じられた。だが、この屋敷は少女が毎日を過ごしている場所だ。近道も、身を隠す場所も、少女の方が事細かに記憶している。
男達の足音を聞き、部屋から部屋へと逃げる少女。
だが。
気づいた時にはもう遅かった。
男の無骨な両手の平に、少女のあまりにもか細い首が、あっさりと締め付けられる。
息ができない。
苦しい。
誰か、助けて……
苦しみに耐え、最期にと開いた少女の目に、青い蝶がはらりと舞う。
少女の両の瞳から、美しい雫が零れ落ちる。
少女の息の根を止めて満足した男達は、何の価値にもならない、と少女を放置した。
男達は気づかなかった。
青い部屋
青い襖
青い畳に横たえる
美しい青い衣を身に纏った
青い瞳の少女
その生気のない瞳は、青い蝶をじっと見つめていた。
男達はまだ知らない。
美しい青い蝶が、まもなく復讐に来ることを……。
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