第2話 お互い様

「あ‥」

「えっ」

誰だっけ‥?と一瞬首をかしげたが、真っ赤なハイヒールを見てハッとした。

「あのカフェの店員さんだよね?ごめんね、余りにも偶然すぎて声かけちゃった。」

ところでなんでこんなところにいるの?と聞かれ、それはお互い様でしょう、と思わず笑ってしまった。

ここは東京駅だ。あのカフェからは新幹線でも軽く2時間はかかる場所。

「大学の友達が一度東京に来いってうるさくて‥観光がてら遊びに来てたんです。」

「へぇ、こっちの大学だったの?」

いえ、違いますけど。といい女性をみた。元々派手な作りの顔立ちに普段より派手な化粧施された女性。

「あなた似合わないね、東京。」

「は‥似合わ‥ないですか。」

「うん、似合わない。こんなところに来たら勿体ないから早く帰りなよ。えっと‥」

「貫太です。」

女性は、ほんの少しだけ驚いた顔をしてからご丁寧に、私は梨絵といいます。とニカっと笑った。




梨絵は貫太よりも2つ年下だった。

「私ね、週に3回東京に来てるんだ。」

偶然とは恐ろしいもので、なんと帰りの新幹線の座席が隣同士で思わず顔を見合わせた。

「貫太くんはこっちの大学だった‥とか?」

いや、といい少しちょっと苦笑してしまう。

ただのカフェの店員とその客で、しかも一応年上の自分に貫太くんとは‥。

しかし、なぜが嫌な感じはせず、むしろ

あっけらかんとした梨絵の態度は眩しくさえ感じる。

「大学は実家から通えるところだったんだけど、友達はそこそこ大きな企業に入ったから今は東京で働いてるんですよ。」

ふーん、とさして興味もなさそうな返事。

そろそろ駅に着きそうだ、と下車の準備を始めた時、梨絵は貫太を見ずにつぶやいた。

「貫太くんって、一度死んじゃった人だよね。」


口紅の事はすっかり忘れてしまっていた。

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