おまけ・王子たちの帰国(完)

「本当に、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ…病み上がりなのに外までお見送りしていただいて…」

「私はもう、この通り元気です。お2人がシノ様を連れてきてくださったお陰です…本当に感謝してもしきれません」


その日のうちに帰るというアラム王子とシン様を見送るために、城の正面玄関に国王や大臣など、シノの存在を知っている国の重役たちがずらりと並んでいた。

その先頭で、ジークが元気そうに微笑みながらシノの腰に左手を添えている。

シノはそんな状況にまだ慣れないようで、少し困ったように照れ臭そうな顔をしているのを見て、シンは思わずふっと笑みをこぼした。



「…由伸。またいつでも遊びに来いよ」

「…うん。信も、たまには来てよ」


シノのその返事にシンは顔をわざとらしく顰めると

「たまに?いっぱい来るつもりだったんだけど」とぼやいた。


いつも映像で見ていた凛とした姿しか知らなかったシン様の初めてみるそんなしぐさや表情に、国王たちは口も目もぽかんと開きながら呆気にとられていたが、当の本人たちはそれに気づいた様子もなく、シノは楽しそうにふはっと笑った。


「そうだね。いっぱい来て。待ってるから」

「…うん。オレも待ってるから」


そう言って、シン様はシノと、アラム王子はジークときつく握手をかわした。



「…それでは、また」

「またね」


2人が馬車に乗って離れていくのを、ジークたちはその姿が全く見えなくなるまで、ずっと見送っていた。




「…シノ様。本当に一緒に行かなくて、良かったのですか?」

アラム王子たちを乗せた馬車が小さくなっていく中、シノにだけ聞こえるようなか細い声で、ぽつりとジークが呟く。

何度目かになるその問いに、シノは小さく溜息をついた。


「…ジークさんは、本当はオレに一緒に帰って欲しかったんですか?」

「まさかっ!」

シノの言葉に慌てて否定したジークの声は思わず大きくなってしまい、まだ見送っていた皆の視線をこちらに集めてしまう。

苦笑いしながら周りに「なんでもありません」と告げると、周りの視線はまた去っていくアラム王子たちの方へ移った。

それを確認して、再びシノにしか聞こえないように話を続ける。


「……シノ様が、私といる時よりシン様といる方が楽しそうに笑うので…」

「え…?」

全く自覚のないシノは そうだろうか? と首を傾げたが、ジークは目を伏せてシノから視線を外してしまった。


「……私はシノ様を笑顔にするのを、あんなに必死に…時間がかかったのに…シン様はいとも簡単にやってのけてしまう」

ジークの少し拗ねたような子どもっぽい表情と呟きに、シノが思わず笑うと、ジークは拗ねていた顔をちょっとだけ照れを加えた。


「…信は…オレと同じだから。この世界で唯一の…先輩のような、仲間のような、家族のような感じだから。

だからもちろん好きだし、安心するし、一緒にいたいけど−…

でもそれ以上にあなたが好きで、一緒にいたいから、オレはここにいたいんです」


シノのまっすぐな言葉に、ジークは感情のままに左手を伸ばすと、シノの右手をぎゅっと握りしめる。


「…何度も不安になってすいません」

「いえ……オレもきっとこの先沢山、不安になることあると思うんで…その時はよろしくお願いします」

「もちろんです!」


誓い合うように2人がキツく握りしめたその手から淡い光がぶわっと放たれ、球体のような形をしたそれがそのまま大きくなり国を覆うように広がっていくのを国王たちは見たような気がしたのだが…

それは風が通り抜けるかのように、一瞬のうちに空や風景に溶け込むようにして馴染んで消えてしまった。


一瞬の出来事に、その場にいた人々は「今のは目の錯覚だろうか?」と口にしたが、後に国の各地から淡い光が広がる目撃情報が寄せられることとなる。

そしてその時以降、国内から魔物の姿が一切見られなくなり、「あれはきっと神子様が国中を浄化してくださったんだ」「いや、きっと魔物が入れないようにバリアしてくれたんだ」と色々な憶測を呼んだのだが−…

その答えは、神以外に知る由もなかった。





*****





「あーあ…見えなくなっちゃった」


馬車の後方にある窓からシノたちが見えなくなるまで手を振っていたシンは、大きく溜息をつきながら進行方向に向き直し、ドスリと腰を下ろす。

その瞳は涙をこらえるように潤んでいた。


「…寂しくなるな」

「……うん」

「…また、会いに来ればいい。うちにもいくらでも呼んでいい。シノはシンの家族のようなものだからな」

「…うん」


いよいよ涙を堪えられなくなりそうにシンが鼻をすすり始めると、王子がシンの頭を引き寄せて抱きしめた。


「寂しくなるが…嬉しくもある」

「うん…そうだな。由伸は幸せそうだもんな」

シンの言葉にアラム王子はポンポンと背中をあやしながら「それだけじゃない」と言った。

王子の言葉にシンが顔を上げると


「またしばらく、シンを独り占めにできるからな」

と、王子が優しく微笑んだので

シンは「…ばぁか」と呟きながらまた王子の胸に顔を埋めた。




終 2017.01.09

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