第5話 カエルを狩って、街に帰る(完)

 カズマが目覚めたときには、すっかり空が夕焼けに染まっていた。

「んぅ? ここは・・・・・・」

 眠い目をこすって、周りを見渡す。

 RPGの序盤でよく見かける牧歌的な風景は、カズマがこちらの世界に来てからすっかり見慣れてしまった町の光景である・・・・・・どうやら、いつの間にかアクセルの街に帰ってきていたらしい。

「ああ、ようやく気がついたのね、カズマ」

 水色の髪をした少女の顔が自分のすぐ隣にあることに気がついたのは、そのすぐ後だった。

 今、カズマの身体が寄りかかっているのは、アクアの背中だった。

「おおうっ!?」

「ちょっと、暴れないでよ! ただでさえ重くて背負ってるの大変なんだから!」

「あ・・・・・・わ、悪い・・・・・・」

 平静を取り戻したカズマは、素直に謝罪の言葉を口にした。

 黙っていれば文句なしに可愛らしい女神様の息づかいが間近で聞こえて、不覚にもどぎまぎしてしまった・・・・・・のだが、勿論、そんなことを素直に言えるわけはない。

「・・・・・・お前がここまで運んできてくれたのか?」

「まっさかー、私がそんな大変なことするわけないじゃーん」

 擬音にしたら「プークスクス」といった感じの笑い声をアクアは出して言った。

「向こうのパーティの人たちが、倒れたあんたたちを平原から運んできてくれたのよ。まあ、回復魔法で治療してあげたのは何を隠そう、この私だけどね!」

「そうか・・・・・・じゃあ、後でテイラーたちにはお礼を言っておかなきゃな」

 ドヤ顔で自分の功績を主張する駄女神様のことはスルーして、カズマは言った。

 最初から最後まで、あっちのパーティにはお世話になりっぱなしだった。五十匹のジャイアントトードを各個撃破していく作戦は勿論、グレートフロッグと戦闘しているときも、彼らが周りのカエルたちを足止めしておいてくれなかったら勝敗がどうなっていたかは分からない。その上、事後処理まで・・・・・・頭が上がらないとはこのことだろう。

 そして、もう一人の功績者にも。

「・・・・・・ダクネスは、俺よりも先に目覚めたのか?」

「え? ああ、そうよ。ちょっと回復魔法で治療してあげたら簡単に立ち直っちゃったわ」

 と、そんな会話をしている内にカズマとアクアは冒険者ギルドの入り口まで来てしまった。すると、中から諸々の手続きを済ましたらしい残りの二人が出てくる。

「おお、カズマ。良かった、目が覚めたのか」

 金髪の女騎士が、凜とした笑顔をカズマに向けて手を振ってくる。

「まったく、お前も無茶をするなぁ。最弱職の冒険者があんな至近距離で爆裂魔法に巻き込まれてしまったら、下手をすればあの世行きだったぞ?」

「・・・・・・お前を盾にすれば大丈夫だと思ったんだよ」

 どこか申し訳なさそうな表情で、カズマは先ほどの戦闘の最後を思い出した。

 めぐみんがグレートフロッグに爆裂魔法を撃ち込んだ瞬間、あの場から全力で離れようとはしたものの、カズマの脚力ではどうやっても爆風の圏外に出ることはできなかった。なので、咄嗟の判断で、抱えていたダクネスを盾にしたのである。

 私服姿だとは言え、並外れた防御系のステータスを誇る我らがクルセイダーならどうにかなるとカズマは考えたのだ。

 こうしてピンピンしている姿を見ると、その判断は正しかったように思える・・・・・・人道的には決して許されることではないが。

「今回ばっかりは怒っても良いぞ」

「怒るって・・・・・・私が?」

 さっぱり理由が分からないと言わんばかりの表情で、ダクネスは問い直してきた。

「最後に私をグレートフロッグから助けてくれたのはカズマじゃないか。どうして怒る事がある?」

「・・・・・・先にあいつに捕らわれたのは俺の方だろ」

 確かに、最後に機転を利かせてスティールを使ったのはカズマの功績と言えるが、元はといえば彼女が捕らわれる理由を作ったのもカズマである。自分が油断さえしなければ、ダクネスの身を危険にさらすこともなかったのだ。

 結局、今回のクエストで活躍したのはもっぱら問題児たちの方で、自分は足を引っ張ってばかりだった気が・・・・・・

「カズマ、本当に気にするな。私なら大丈夫だ」

 気落ちするカズマの肩に、ダクネスはポンと手を置いた。

 年上の女性らしい、凜々しい表情で胸の中の思いを少年に告げる。

「むしろ、感謝すらしているほどだ! ジャイアントトードの粘液まみれにされるだけでなく、敵の武器として振り回された挙げ句にスティールのスキルで所有物扱いされるなど・・・・・・そんな経験、滅多に出来るものではない!!」

 ・・・・・・やっぱりこの女騎士はダメかも知れない。

 目の前の金髪美女の中身の残念さを再確認して、内心で嘆息するカズマだった。



 屋敷に戻って四人でくつろいでるときに、ふとカズマが言った。

「結局、どうしてあんな強力なモンスターが平原に出てきたんだろうな?」

「っ!?」

 カズマとしては本当に、世間話を振るくらいの軽い気持ちでつぶやいただけだったのだが、それを聞いた途端、明らかに顔色が変わった人物が居た・・・・・・グレートフロッグを倒した立役者、めぐみんである。

「さ、さあ? モンスターの生態系にはまだまだ謎が多いですし、そういうこともあるんじゃないですか・・・・・・?」

「めぐみん、お前は何を知ってるんだ?」

 しどろもどろに誤魔化しを口にし始めためぐみんに対し、カズマは鬼のような形相で詰問した。この期に及んで目をそらそうとする童顔を思い切り引っ掴んで、自分の方に無理やり向き直らせる。

「な、何も知りません! 日課の爆裂魔法の撃ち込みのせいで平原の生態系が荒れたとか、そのせいで強敵が出没するようになったとか、そんなことは絶対にありませんから!! 私は今回の件と何も関係ありませんから!!」

「ご丁寧に解説してくれてありがとう! 要するに全部お前のせいだ!!」

 狭い部屋の中を逃げ惑うめぐみんを、ドレインタッチの手をわきわきさせながら追いかけるカズマなのだった。



 Q. 結局、パーティのカエルへのトラウマは克服できたのですか?

 A. それはまた別の話。


(fin)

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リベンジ・オブ・ザ・ジャイアントトード 毒針とがれ @Hanihiro

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