第2話
がん、がん、がん
もうこれで何回目だろう。
さっきはのこぎりで首を切られた。その前は包丁だ。
夢かと思ったらまたこれだ。震える指先で携帯を握りしめる。
がん、がん、がん
音が強くなっている。いつもここで逃げようとするのに、どうしても足が震えてうごけない。
今だってそうだ。見てわかるほど膝が震えている。
動け、少しでも動け。
がんがんがんがんがん
音が鳴り響く。タイムリミットはもうすぐだ。
「動け、動けよぉ!!」
もどかしさに力いっぱい膝を殴ると、その痛みで少し震えが止まった。
ベッドを腕で押す勢いでそのままベランダの窓へ。
窓のロックを外すのが何十秒もの時間に思えた。
がきん。
来た。来た。来た。
ドアが開くのとベランダの窓が開くのはほぼ同時だった。
男はまた何かでチェーンを壊そうとしている。
「くそぉ!!!!」
ベランダに出たものの、そこから先を考えていない。
ここは2階だ。飛び降りることができなくもないだろうが、骨の1本くらい折れるかもしれない。だが。
ぎいぃ
音を聞いて振り向くと、扉がゆっくりと開いて、血まみれの男がこちらを見たところだった。
「ああああああああああ!!!!!」
手が震えて力が入らない。でも。でも。
半分身を乗り出すようにして無様にベランダを降りようとする。
ちらりと視界の隅に男が刃物を振り上げるのが見えた瞬間、唐突な落下感がぼくを包む。
ぐるりと回る視界。バキバキと何かが折れる音。植込みの葉。土の味。衝撃。
早く、早く逃げなければ。必死に体を起こそうとするが、全身がきしむ。
左腕で体を支えようとすると脳天まで痛みが響いた。
「―――ッ!!!」
骨が折れたのかもしれない。痛みと戦いながら植え込みから体を起こそうともがいていたその時。
「はい、今回はここでおしまい。」
血まみれの男の声のほうへ必死に眼球を動かすと、男はにやりと笑いながら包丁を振り上げているところだった。
「いい線いったんだけどねえ。」
目に銀色の塊がすごいスピードで迫る。どういうことだよ。一体何なんだよ。
膨れ上がった疑問の風船は包丁がぼくの目に滑り込むと同時にはじけて消えた。
「…………っ!!!!」
がばりと体を起こす。もちろん体には傷一つない。
「もう……終わりだよな?」
確認するように呟くと、携帯を手に取る。時刻は6時10分。
これは本当に現実かどうか自信が持てない。
力いっぱい自分の頬を叩いてみると痛みは感じた。だが。
がん、がん、がん
理由はよくわからないが、ぼくはどうやらまだ、悪夢にとらわれているらしい。
夢の夢の夢の中の中の中 さいのす @sainos
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