7.幸運ぶフォーチュン・クローバー
帆波達を襲った交通事故から二週間後。松葉杖と共に、天真爛漫な笑顔が帰ってきた。
「おはよーさん、皆の衆ー!」
その元気な声に、クラスメイト達が沸く。教室の人気者――羽矢音の帰還を、誰もが諸手を挙げて喜んでいた。
その波をかき分け、羽矢音は教室の片隅へ近付いた。
「や、お二人さん」
「おぉ、羽矢音。おめでと。待たせてくれるじゃねぇかよ」
「お帰り、羽矢音ちゃん」
二人仲良く立ち話をしているのに割って入る形だった。それに気付き、羽矢音はわざとらしく咳払いした。
「あー。なんと言いましょうかねぇ、これはね、お邪魔でしたかね?」
「は? いや何言って」
「そうだよ。そんなことないよ。……えへへ」
などと言いつつ、帆波の表情は笑顔でとろけきっていた。完全に見せつけモードに入っている。篤騎とてツンとしているものの、その頬が僅かに赤い。
二人がそういうことになっていたというのは、すでに羽矢音には知らされていた。クラスではあくまで仲良しの二人ということにして、実は秘密のお付き合いというドキドキな日々に突入していたのだが……色々と世話になった彼女には、言わないわけにはいかないという、二人の判断だった。もっとも――羽矢音なら二人が何を言わずとも、時間の問題だっただろう。
ジト目でそんな二人を一睨みし、羽矢音はニヤニヤ笑いが止まらなくなった。
「うー、じぇらしー。超じぇらすぃー」
「やかましいっつうの……い、いいだろ別に」
「ちくせう、お姉さん壁殴っちゃうぞ!」
などと言いつつウリウリと肘で篤騎を小突く羽矢音だったが、すぐにあることに気付いた。
「あ、帆波ちん髪飾りしてる。クローバーだ」
「うん。四つ葉だよ。篤騎が買ってくれたの」
「何ていうか、まぁ、記念というかさ」
「へぇー……」
不意に、篤騎は視線をチラッと外に向けた。どうやら粉雪が舞い始めたようだ。
つられて羽矢音も空を見上げ、しみじみと両目を閉じた。
「幸福ってのは、こうやって掴み取るものなのだねぇ」
「何だよ、急に」
「二人を見てるとそれが分かりやすいってこと。じゃーねー」
今さら気を使ったつもりか、そこで羽矢音は去って行った。
篤騎はチラリと帆波を見るが、目が合うと何となく視線を逸らし合ってしまった。先程までも二人で話していたのに、改めて二人残されるのはどこか気恥ずかしいらしい。
結局、再び雪の降る空に視線が向く。
「また来年、クローバー探しでもするか」
「いいよ。次はわたしが勝つからね。ラッキーガールなめんなよ……みたいな」
「お前それ、羽矢音のノリうつってないか。いいけどさ」
つかの間のクローバー探しは終わりを告げた。しかし雪空はなおも白の帷となって街を覆い隠し、まだまだ冬は続いていく。
春が訪れようと、雪華にも並び咲く誇らしげな幸運のクローバーの姿を、きっと忘れない。
揃って寒空を見上げ、二人はまだ見ぬ未来へと想いを馳せた。
冬空とフォーチュン・クローバー あさぎり椋 @amado64
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