インドの市場で発見された手紙 ―クチコミの力

――今は亡き古森ふるもり夫人の消息不明となったご子息から、夫人宛てに送られたと思われる手紙から抜粋、再編する。

この手紙は、インドの某所にある個人商店で売られているのを、不憫に思った観光客が購入したものである――





















親愛なる母上様へ。


 正確なそちらの日付は分かりませんが、こちらと同じであれば段々と木々の色づきが心を潤す季節でしょうか。

母上様におきましてはさぞ精力的に励まれていることでしょう。なにに、とは言いませんが。


 そろそろ私がそちらに戻れないことを不信心ゆえに、と叱責されているのではないでしょうか。丸っきり私に責任はないのですが、それでも少し心苦しく思います。

少し、です。

信仰を人生の喜びにすることを否定はしませんが、なにが悲しくて神の与えたもうた試練(笑)をもって、信心を測られなければいけないのでしょうか。

それも人間に。ぎゃーぎゃー言う方って、言うことで満足を得てるだけですからね。


 そちらの世界にいる時に悟っていましたが、改めてノーゴッドですよ。

手紙ならすいすい言えますね。少しでもゴッドのクソさを伝えられればと、一筆したためておりますが……。


 さて、件の村で来院数が増えているということを書きましたが、その辺りの話も書いておこうかと思っています。

なんだか、備忘録みたいになってますね。



 最初の来院者さん……まだ話していませんが、いずれ話したいと思います……が、帰った後になります。

ひょっこりと、いつものお姉さんが様子を見に来てくれました。

お土産に「バンダースナッチ狩りの成果」をくれました。

なにやらサバいた後の肉のようで、にすると良いのだとのこと。

食べるのが楽しみです。


 いつものように狩りの土産話をしながら、お姉さんは思い出したように、


「そう言えばあの人、来てたね。帰りの表情すごくよかったよ」


最近ずっと世界の終りみたいな顔してたのに、と冗談みたいに笑って報告してくれました。

どんな話をしたかは言えないですよ、と伝えると首を傾げられました。

お姉さんだって自分のグチ、話されるのは嫌でしょうと言うと納得してくれたようです。

そのまま、思い出したかのようにお姉さんは続けます。

……返り血まみれの服のまま。


「ねえ、前話してた『ストレス』ってのが、嫌な気分の元になるものなんだよね?」


そんな私の心の内など気にもせず、窓辺に寄りかかりながら聞いてきます。

麗らかな……傾きかけた夕陽の赤。

絵に描いたような美人がのんびりした風景に相まって、それはそれは息を呑むような美しさでした。

私は、その言葉を肯定します。


「それは、たまったら苦しくなるんだよね?」


 もう一度肯定。

自分たち人間の場合は、心の病気になることもあると補足をします。

お姉さんは、眉を八の字にして悩んでいる様子。

なにかあったのか、と聞いてみましたところ、渡りに船といった表情をされます。


「そうなんだよー、今日はさー!」


 しばらく……おおよそ三時間ほど……楽しそうに話して帰られました。

……思いもしなかったのですが、そちらの世界のエルフのイメージは森の賢者、といったものだったと記憶しています。


 ですがこちらの世界のエルフの皆さんは、実はお話し好きみたいで。

しかも、「弱みを見せるのは死につながる」という考えが主流らしく。

結論から言いますと……来院者の九割がエルフの村の皆さんです。

料理の味付けや旦那のグチや……溜まってたんでしょうね。

それもお姉さんが「ストレス」なるものに尾ひれを付けて触れ回ったせいだと聞いております。


 そんなわけで、盛り上がっているのですが……母上様、話を聞いてくれるからと言って心血を注いでいることに、通じるものがありませんか?

なんて、お小言の一つでも言いたくなるのですが……まぁ、届けられる時にその言葉は取っておきましょう。


 今日も詫びチートの振り込みも謝罪のゴッド行脚も来ておりません。

やはりノーゴッドだということを日々身をもって証明できているのではないでしょうか。

この手紙がもし届きましたら、「月刊 神のMIWAZA」に持ち込むことだけは止めてくださいね。

多分、春なんだなと生暖かく対応されるのが目に見えておりますので。




















 追伸

新しい何か、買いましたか?

夢でうなされた気がします。

世界線を越えてまで干渉するのはやめてくださいね。

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