広東省で発見された手紙 ―同伴とポスト
――今は亡き
この手紙は広東省都心部のある道端で発見され、拾った人物がSNSで公開したことがきっかけで知られるようになった。
尤も、大半以上の目撃者は、それが虚構の代物だと決めつけて疑わなかったが――
親愛なる母上様へ。
前略。
常日頃メモ代わりに書き溜めておりました手紙、もしかしたらそちらへ届けられるかもしれません。
母上様の
まとまっていない頭のまま書いておりますので読みにくいと思います。
先日、いつものお姉さんがうちに来るなり、一緒に出掛けないかとお誘いをくださいました。
いえ、母上様、私も一瞬期待しましたがそういうことではありません、ご着席の上深呼吸してください。
あと手元の数珠しまってください。それレジンなんでご利益もクソもないです。
そもそも祈るだけで得があるなんて言うのは徳の高い人だけです。
たまに念仏唱えちゃう母上様は魂のステージ(笑)が足りてないので無駄です。
ええと、お誘いの話なんですけど、
「聞いてばかりだと君も『ストレス』が溜まるでしょ。たまには体動かさなきゃ」
なんて狩猟民族らしいパワフルさ。
初日恐ろしい化け物(笑)に襲われていた私を、ですよ?
思い出すだけで頭痛くなるので、その件についてはまたしたためるとしますが……。
しかしこのお姉さん及び友人方、森の賢者なんて言葉からはほど遠い物理集団です。
しかも、完全に善意です。良かれと思ってです。
「良かれと思って」なんて言う人はやることが相手にとって理にならない可能性まで思い至ってるから、そう言うんですよ!
しかしにっこにこ笑って「いい提案でしょ」なんて顔してるお姉さんの誘いを断るなんて芸当、まだ私には
1も2もなく支度をせざるを得なくなりました。
「今日はねー、野イチゴウサギを狩るんだよー」
君は初めてだもんね、と嬉しそうなお姉さん。
可愛らしい名前のエモノに、安心したようなかわいそうなような、そんな思いを抱いたものでした。
出会う前までは。
なんと、赤いから「野イチゴ」なんて名前をもらったようです。
あの、もっと野性的でワイルドな名前が似合うと思うんですよ。
写真が撮れたら同封したいレベルのサギです。
鳥の名前じゃないです。ウサギだからでもないです。
あれを前にうまいこと言ってる余裕はないです。
あの生き物は今からでも「真紅のクマウサギ」とかに改名するべきです。
母上様の心の安定のために詳細は省きますが、真っ赤な熊みたいな見た目のウサギでした。
「あら、動きがワンパターンだしかわいいもんでしょ?」
なんてしれっと、お姉さんは仕留めたソレを若い衆と一緒に運んでおられました。
甘みがあるので野菜と一緒に蒸してサラダ的に食べるとのこと。
しかしお姉さんのあの線の細さのどこにそんな力が……。
ともかく、私が狩りには絶望的なまでに合っていないことだけは分かりました。
お姉さんは残念がっておられましたが、向き不向きはあるわね、と納得はしていただけた様子。
そんな狩りの帰り道です。
突然、首根っこをお姉さんに掴まれて後ろ向きに引き倒されました。
母上様、とりあえず深呼吸しましょう。見開いた目に目薬なんていかがでしょうか。
書いておいて私が言うのもなんですが、必要な事でしたから。
咳き込みながら見上げると、お姉さんは両手を顔の前で合わせて謝っているところでした。
前を見ると……土を均した道の真ん中に、水たまりがありました。
上には、シンキロウのようなモヤが見えます。
こちらに来た時も、あれを踏み越えたような気がします。
そのことについては、また落ち着いてから書くことにしますが……。
「あれはね、触っちゃいけないものなんだって」
と、お姉さん。
なんでも、別の世界に繋がっているのだとか。
帰ってきた人がいないから確かめようもないけれど、とお姉さんが言います。
そんな話をしている間に、まるで幻のように水たまりは消えてしまいました。
それでピンときて今書いてるんですよ。
もしかしたら、あれに手紙を投げ入れれば運よくたどり着くのではないか、なんて。
またあの水たまりについて、お話を
……帰れるかどうかについては、まだ少し揺れている部分があるので考えさせてください。
正直、半々です。
お体に気を付けて。
くれぐれも近くの水たまりの上を跨ぎまわったりしないようお願いします。
病院生活で見舞いもないのは苦しいものだと思いますから。
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