きのこ
まおうのーと
学校のパソコンでエロ画像を漁るダケ
高校生活の1コマに、「情報」って授業がある。
なにする授業かっていうと、パソコン使ってネットで調べものして、それを発表するという、知識や見聞を広めるだけでなく、ネット社会ならではのネットリテラシーも同時に学んでいこう、という時代に沿った画期的な授業である。
まぁ、そんな崇高な意識を持って真面目に取り組む奴なんていなくて、単にスタンダードパソコンが物珍しいというのと、授業中はネットし放題でヒマ知らず、という主に2つの理由から、生徒たちからは割と人気の高い科目でもあった。
見るサイトは、ヒト様々。
2chのまとめサイトやら、フラッシュゲーム置き場。
流石に学校でオンラインゲームに興じるバカは居なかったが。
まぁ、課題さえこなしてくれればそれで構わない、という、いかにもやる気の無い情報担当の若い女教諭。
そんな適当な教師の温い監視下にいるものだから、授業中はいつも割と無法状態だった。
とはいえ、学校も、PTAと教育委員会の板挟みにある以上、
「青少年の生育に不健全なサイト」へのアクセス制限は施されているようだった。
最近は、「イメ検遊び」というのが、クラスの中で流行っていた。
これは、かの「検索してはいけない言葉」にちなんだ遊びなのだが……ご存じだろうか。
例えば、「女賢者」とイメージ検索すると、大抵はRPGゲームの女賢者を連想するイラストや画像が表示されるのだが、その中に、まったく関係のない画像が紛れ込んでいたりすることがある。その大半がグロテスクな画像であったりと非常にショッキングな絵面となっていることが多い。
そんな感じで、なんの変哲もないキーワードから、いかに検索結果とのギャップを生み出すことが出来るかという、一見クレバーでインテリチックな遊びのようで、実は何の生産性もない遊びである。
高校生ゆえに、エロへの探求心はそれは凄まじいもので、
いくら学校側がアダルトサイトへのアクセスを制限しているとはいえ、その間を上手くすり抜けようと画策するたぬきな連中も中にはいる。
例えば、イメージ検索の機能の1つ、セーフサーチ。
このチェックを外すことで、あら不思議、お手軽にエロ画像を閲覧することができるのだ。
なので、一部の男子生徒たちは、その手法を駆使し、毎時間こそこそとアダルトな世界に興じる、というわけだ。
だが、コイツらは詰めが甘い。
何故なら、この端末は、共有パソコン。
学年問わず、様々な生徒たちが、代わる代わるに使用するのだ。
そして、ネットに繋いだ以上、端末には当然、アクセス履歴が残る。
授業終了後にこれを削除しなければ、後に使った生徒によって、何を閲覧していたのか、一発でバレてしまう。
授業で使うパソコンは出席番号で決まっており、毎回その日に実習があるクラスの座席簿がホワイトボードに掲示されている。
つまり、この座席簿とアクセス履歴を突合わせれば、『誰が、いつ、どんなサイトを閲覧していたのか』という、非常にプライベートな情報をいとも簡単に手に入れることが出来るのだ。ここで性格のイイ奴ならば、このネタを頼りに、他人を
という、いつにも増して妄想も甚だしい俺、武田
しかし、流石に飽きたな。
かといって、これと言って興味のあるサイトや調べたいことも思い浮かばないし。
授業の課題はとっくにこなした。だから、残りの時間はいつも、ヒマで仕方が無い。
うーん、と唸りながら、両手を後方に突き出し、伸びの姿勢を取る俺。
すると、珍しく見回りのために通路を歩いていた女教師に接触してしまう。
すみません、と俺は謝ると、女教師は、武田君はいつも課題を早くやり終えて立派ね、と、予期していなかったお褒めの言葉を預かった。
普段は卑屈な俺だが、直球に褒められると、なんだか照れ臭い。
よーし、パパ今から来週の分の課題もやっちゃうぞー。
しかし、そのやる気も、再び見上げた際に視界に映った、女教師の血の気の引いた顔面を見るまでのインスタントな感情、やがてすぐに下火になり、間もなく消沈した。
厚塗りした化粧の上からでも分かるその青ざめた表情は、只事ではない事態を予感させた。
そんな半ば放心状態の女教師の、視線の先を追う。
その視線は、俺の隣の席に座っている生徒の、パソコンのモニターへと向けられていた。
まさか、コイツ、教師の手前、堂々とエロ画像でも漁っていたのか。
根性が据わっている、というか、単に間抜けなだけなのか。
しかし、他人の嗜好を観察する滅多にない機会だ。
女の教師を、赤らませるのではなく、逆に青ざめさせるとは、
コイツはいったい、どんなエロ画像を見て───。
きのこ、だった。
画面いっぱいに、きのこの画像がずらりと並んでいた。
きのこと聞くと、ひとえに秋の山菜、というイメージも湧くかもしれないが、
実は春にも、きのこは生息している。
種類や数では流石に本場の秋には及ばないが、春ならではの暖かい気候で発生するきのこだってある。
アミガサダケ、ハルシメジ、キクラゲ……。
見た目の奇怪さで楽しむのも良し、調理して香りや舌で楽しむのも良し。
世界でも、日本人は群を抜いてキノコを好んで食べる種族であり、元々日本という四季に恵まれ様々な植物や樹木が群生する特有の土地故に、実に多種多様なキノコが発生しており、「日本はキノコの国」と言っても過言ではないくらいに、我々の生活に古くから親しまれ溶け込んでおり、キノコは無くてはならない存在と化しているのだ。
さて、きのこ、というワードがくれば、次に何を連想させるか、もう察しがついただろう。
そう、男性器だ。
つまり、彼のモニターには今まさに、純正なきのこの画像に混じって、黒々と勃立した立派な男性器の画像が、ちらほらと検索結果に表示されている状態なのだ。
彼に悪意があったのかどうかは知らないが、このきのこテロにより、たちまち教室中が大騒ぎになった。
女子生徒はキャーキャーと黄色い声で喚き、男子はというと、これが普通の女体のエロ画像だったら我先にと冷やかしに掛かっていただろうが、このタイプの画像には抵抗を持っていなかったのか、掛ける言葉も見つからず、がっつり引いていた。
相対して、テロ首謀者である彼はというと、しれっとした面持ちで、モニター上ににょきにょき群生するきのこたちを、マウスのホイールを器用に操作し、スクロールしてじっくりと眺めていた。
授業終了後、足早に実習教室を去る一同。
そして、彼ら彼女らからの好奇の視線を浴びながら、問題の彼も遅れて教室を出た。
そんな彼の背中を見つめながら、最後尾の俺は考えていた。
コイツは、いったい何を考えているんだろう、と。
単に、女子生徒の嫌がる顔を見たくて、女教師を困らせたくて、あのような真似をしたのか。
それとも、単純にきのこの画像を見てうっとりしていたのか。
それとも、きのこではなく、隠語としてのきのこの画像のほうに熱を上げて───。
「なぁ、お前って」
気づくと、俺の口は勝手に開いて喋り出していた。
前を歩いていた彼が、俺の発した言葉に反応し振り返った際に、前もえり足も同じ長さで切り揃えた、黒艶のあるショートカットが、見た目の重厚さとは反して、軽やかに、ふわりと揺れる。
元々、そんな気はなかった。
けれど、この舌は、止まらなかった。
「きのこ、好きなん?」
きのこ まおうのーと @maoh_r
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