幕間劇「水晶の騎士と陽炎騎士団」

 冷たい水を頭から浴びせられて目が覚めた。

 身体中が痛い。口の中には錆の味。糞と血と精液の臭いが鼻をつく。

「お迎えが来たようだ。良かったな坊ちゃん」

 下卑た笑い声。地に伏せた青年は虚ろな目で、目の前の男の方へと顔を向ける。



 青年は金貨印国第三騎士団の団長だった。

 代々、嫡子が王室の近衛兵長を務める名家に生まれた彼は若くしてその役職に抜擢された。

 王家と親しい家柄である事は勿論、それにも増して軍議の際の彼の聡明な戦略立案能力が国王に気に入られたのだった。

 今回も彼の率いる騎士団は、国境沿いの鉱山に布陣する杖印国軍の攻略にあたっていた。

 敵軍である、独自機構の火縄銃と儀式によって恐れも歯止めも無くなった近接戦闘を併せ持つマスケート・シャーマン部隊は手強かったが、青年は冷静に陽動と補給線への攻撃を繰り返し、着実に彼方の戦力を削っていった。



(それが、この様だ)

 彼が捕らえられたきっかけは、斥候からの不審な報告だった。

 敵軍の要塞へ向かう一台の荷馬車。積荷の量も少なく、補給だとしても放置して構わない規模だったが、掛布にあったという剣印国の紋章が気になった。杖印国と剣印国が手を結んだという話は聴かないが、仮にそうだとしたら鉱山の奪還はさらに困難なものとなる。


《続》

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蛇蝎の王様と蟲愛づる姫君 @orihit

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