第三話 「少年と普通と最期」
少年は薄々気がついていた。
「僕は「普通」に憧れる「普通」の少年なんかじゃないんだ。」
「とっくに「普通」から外れていたんだ。」
駅を出た少年は迷っていた。
家に帰って、「普通」の家を出て帰ってきた息子を演じるべきか、それとも「自分」を探しに行くか。
少年は考えた、とても長い時間考えた。
実際には数秒しか経っていなかったかもしれない。
けれど、少年にとって人生を決めた時間であった。
少年は「普通」の人生に終止符を打つことにした。
「普通」じゃないことをしてやろうと思った。
もちろん、自らの命を絶つような勇気は持ち得ていなかった。
だけど、自らの「普通」を絶つことはできた。
自分自身を捨てたのだ。
少年は完璧な「普通」を演じ続けることを決めた。
「普通」の少年らしく大学に通い、働き、家庭を持って暮らしていくことにした。
そこには少年の「意志」は残っていなかった。
たった一日のうちで、少年は初めて「意志」を持ち、そしてその「意志」を捨てることにした。
少年にとって、そのことが良かったことかどうかすら、今となっては何の意味も成さないことであった。
「意志」がないのだから。
数日後、そこには「普通」に生活する少年の姿があった。
「普通」に笑い、
「普通」に人と喋り、
「普通」に暮らしていた。
母親は近所の人に語った。
「私の息子はこれといった自慢もないですが、立派な「普通」の大人になることができました。」
【終】
「普通の少年」 佐倉七花 @Sakura-Nanaka
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