第二話「少年と街」


少年はまずバスで大きな街を目ざした。



大きな「普通」の街なら答えがあると感じたからだ。



ひたすら道行く人にポケットティッシュを配る人を見つけた。



少年は思った。



「あれは「普通」の仕事なのだろうか」



今まで考えていた「普通」の仕事には当てはまらなかった。



少年にとって「普通」の仕事とはただ働いて給料を得るものだった。



どんな職種であるかのイメージは定まっていなかった。



ただポケットティッシュ配りはそれには当てはまらなかった。



少年は尋ねた。



「どうしてその仕事についたのですか。」



その人は答えた。



「わかりません。何故でしょうね。」



少年にとってはあまりに「普通」な返事だった。


少年は何か納得できる理由が得られると思っていた。



大きな街には、たくさんの答えがあると信じていたからだ。



少年はその足で大きな駅の構内に向かった。



少年は駅の構内の清掃のおばさんを目にした。



少年にはこの清掃の仕事も「普通」の仕事ではないように感じられた。



やはり、はっきりとした理由は思い浮かばなかった。



彼女は黙々とゴミを広い、床を磨いている。



誰にも目を向けられることもなく。



少年は彼女を可哀想に感じた。



誰とも繋がりを持っていないように感じた。



確かに彼女には「普通」に家族がいて、友達がいるかもしれない。



ただ、その仕事からはそのことが感じ取れなかったのだ。



少年は気がついたら彼女に自分を重ねていた。



「同じかもしれない。」



少年には両親がいた。妹もいた。



もちろん今でもいる。



「普通」の家族だと思っていた。



だけど、今の少年には違う感覚があった。



「「普通」の家族ってなんだろう。」



「普通」を意識し始めて、家族を今までのように捉えられなくなった。



家族は仮面を被っているように思えた。



そんな思いを払拭するために少年は走った。



構内を全力で走った。



通り過ぎる人はみな「普通」の人間なのだろうか。



少年はそんなことを感じながら、ただ走った。



ひたすらに走った。



少年は駅の一番奥にたどり着いた。



これ以上道はない。



少年に振り返る勇気はなかった。



振り返った瞬間、「普通」の少年から外れてしまう気がした。



少年は泣いた。



ひたすらに泣いた。



周りには人が集まり始めた。



「大丈夫?」 「どうしたの?」



その声は少年にとって呪いでしかなかった。



「普通」の人間であろうとするために、発しているだけにしか聞こえなかった。



本当は自分自身のことを心配しているようには聞こえなかった。



少年は走り出すしかなかった。



その場を逃げるしかなかった。



一度通った道だった。



振り返ることのできない道のはずだった。



確かに少年は振り返りはしなかった。



ただ走り抜けた。



構内を駆け抜けた。



皆の視線が痛いほどに感じられた。














「きっと僕は今、「普通」の人間ではないのだろう。」











少年は理解していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る