空白の時間

ー左久良組の事務所に行く数時間前ー



「本気で言ってるのか!?若!!」



ユージとオヤジとあおいは、集まって話し合っていた。



「あくまでも可能性の話だけど、、、あながち間違いではないと思うんだ。」



ユージがタバコを吸いながら答える。オヤジは開いた口が塞がらない。



何故なら今回の依頼者である『昭和製薬』の社長でもあり、オヤジの知り合いでもある一文字がこの事件に、もしかしたら関わっていると言う話をユージがしたからだ。



「って事は田辺の誘拐自体は、、、狂言って事になるのか?」



オヤジは慌てた様子でユージに聞く。



「可能性は否定出来ないけど、とりあえず今の段階では、一番解決の糸口が近いキューピットの元締めでもある左久良組の事務所を調べてからじゃないと、なんともは言えないだろ?」



「あの、、、」



あおいがおそるおそる声を出した。



「ん?どうした?」



ユージは不思議そうにあおいを見る。



「始めてゲンちゃんと会ったあの日にカラオケで話した内容ではダメなんですか?」



あの時オヤジの強引な手段で聞き出したキューピットの実態。



あおいの知ってる事はオヤジに話されていたけど、実際問題そこで得た情報は先日ユージが懲らしめたチョコが太い客を担当して、それ以外の女の子はとりあえず普通のデートクラブと一緒。



だけど女の子にもノルマがあり何ヵ月か連続で達成出来ないと他の支店にさせられるらしいとの事だった。



「その内容だと情報が弱いって事は無いんだけど、左久良組が抱えてるエッチなお店1個ずつ回ってる時間が今無いからなぁ。」



ユージが腕を組みながら話すと、あおいが驚いた顔で、



「エッチなお店って!?」



ユージは唖然としていたが、そうかキューピットが他にも支店があると思っていたのか、と理解して



「言葉のまんまだよ。」



とユージがいやらしい手の動きも一緒にして見せるとオヤジが溜め息を付いた。



「どうした?」



ユージがオヤジに聞いた。



「若、、、流石に年齢を考えてやれ。」



呆れていた。あおいは顔を赤くしてうつむいた。











時を戻して左久良組事務所内。



4階にいるユージはあおいから得た情報を元に部屋を探していた。



この階には部屋が4つもあり、ピンポイントで部屋を当てるのは難しい。



ユージは天井を見つめ始めた。



何か閃いたように気持ち悪いにやつきを見せて天井に向かってジャンプした。



「あぁっ!!」



モニターを眺めていたあおいが驚いた。



「どうした嬢ちゃん?」



タバコを吸いながらオヤジが答える。



「赤いレーダーが消えたんです!!」



あおいはモニターを指しながら慌てる素振りを見せた。



「ガハハハハハハ!!」



オヤジが突然笑い始めた。



ユージの位置情報が衛星を伝ってモニターに表示される。しかし狭い空間や妨害電波が発される場所だと位置情報を掴めなくてモニターに表示されなくなる仕組みをあおいに説明した。



「多分通風口に入ったんだろうよ。そのうち表示されるから見てな嬢ちゃん。」



ほーっと言わんばかりの顔で頷いたあおいだった。



「やばっ。狭すぎだろここ。」



ユージは通風口のダクトをほふく前進で進んでいく。薄暗い通りを光りが何ヵ所か照らす。



一番奥の光ってる場所に向かっていった。サッシを取り外し部屋を覗いて、誰も居ないことを確認してから音をたてないようにして部屋に忍び込んだ。



部屋一面を見渡すと特に何も見当たらない。ダクトに戻り2つ目、3つ目の部屋に忍び込んでも特に手掛かりが無い。



「あっ!レーダーがまた消えた。」



モニターを見ていたあおいがオヤジに言った。



「嬢ちゃん。多分レーダーが出たり消えたりしてるって事は、正にさっき言った通りだよ。」



オヤジがパソコンを弾きながら答える。弾くスピードは増していき、オヤジの顔は笑っていた。



「よしきた!嬢ちゃんモニター見てな。」



オヤジがエンターキーを弾くとモニターには事務所の中の様子が映し出された。



あおいは驚きながら5個もあるモニター全部に目を通した。



「すごーい。あっユージさんだ。」



あおいは目を丸くしてモニターを見つめたらユージが1つのモニター映った。



ユージはカメラに気付くと笑顔で手を振る。



「オヤジ?見えてるだろ?」



無線を入れながら部屋を調べ始めた。



「若。この部屋はかなり怪しいぞ。」



「俺もなんとなぁく感じてるよ。」



オヤジが無線越しで説明する。セキュリティが堅い分、防犯カメラが少ないと語る。5階には1台も無く、4階はこの部屋だけと、、、



「ここがあおいの親父さんの部屋の可能性があるって事になりそうだな。」



説明を聞いたユージが無線で話をしていると1枚の絵画の前で足を止めた。



じーっと絵を見つめているとちょっと斜めっている事に気が付いた。



手を伸ばし絵画を直すと、、、



カチャン



何かが外れる音がした。音のする方向に振り返ると壁に少し窪みが出来ていた。ユージがゆっくりと窪みに近付き、手をかざした瞬間壁が横に開いていき目の前には新たな扉が現れた。



「こんなにも典型的な隠し扉って今時あるのかよ。」



ちょっと笑いながら独り言を呟いた後、扉を開けた。



そこには色んな試験管や薬品の匂い、見た感じ研究室の様な雰囲気がある。ユージは机にあるパソコンへと向かい操作を始める。



まずは一文字が言っていた新薬の資料に目を通した。



目を通すとそこには諸外国から沢山の金額が新薬にかけられていて、すべて佐久良組に流れていた。


USBを取り出したユージは、パソコンに接続し、データを移し始めた。



5分程経過しただろうか、ユージがデータを移してる間に部屋を調べてると、1つの手帳に目を奪われた。



手に取った瞬間無線が入った。



「若!忍び込んだのがバレたぞ!!構成員の奴らが血眼になって探し始めたぞ。」



手帳をつなぎの中に入れたら、銃を取り出して、



「了解。は?」



「出た形跡は無いから、多分まだ中にいる筈だ。」



「了解。オヤジに頼みたい事があるんだけど、、、頼めるか。」



ユージが神妙な面持ちでお願いを言っていく。次第にオヤジの顔が曇っていったのだが、



「分かったよ、、、」



「辛いだろうけど、俺よりもオヤジの方が適任だからな。頼んだぜ。」



無線を切ったユージは隠し部屋を後にした。












「、、、マジかよ。」



「ゲンちゃん?大丈夫?」



あおいから落ち込んでいる様に見受けられたのだろう。オヤジは無線が終わってから終始下を向いていた。



「嬢ちゃん。もしかしたらって思ったけど実際に一文字が絡んでたなんて言われると結構面を食らっちゃうもんだな、、、」



「ゲンちゃん、、、」



「悪いね。嬢ちゃんの方が俺よりも辛い思いをしているんだけど。」



あおいは首を横に振り否定して見せた。



「さて、若に頼まれた仕事だ。」



オヤジは運転席に座り、車を出した。



「一文字って人は友達なの?」



助手席からあおいが口を開いた。



「あぁ。昔のな。でも高校を最後に1度も顔を合わせて無かったからな。」



一呼吸置いてからオヤジがまた口を開いた。



「一文字は勉強も出来て、皆からも人望があった。だけど良く思わない奴らもいた。まぁどの時代もそうだろうけど。」



ー約30年前ー



青年1人に対して不良達が5人程で囲ってた。



「一文字てめぇ調子乗ってるみたいだなぁ?あぁ?」



金髪の不良がメンチを切りながら一文字の方に近付く。



「僕が調子に乗ってる?笑わせないでよ。」



一文字は笑い始めた。



「いい?僕は君達みたいな低俗な人間じゃないんだよ?君達がやったことを報告しただけじゃないか?」



金髪の不良が一文字に対して近付いて来たときに、、、



バシャン!!



大量の水が上から降ってきて、金髪はずぶ濡れになった。



「誰だ!?」



他の不良達が叫んだ先には、、、



「げ、、、源三!!」



ー時は戻って車の中ー



「ちょちょっと?」



あおいが話を止めた。



「ん?」



「ゲンちゃんって源三なの?」



「あぁ、、、」



あおいの肩が笑っていた。



「話を戻すぞ」



ーーーーーーー



「おめぇら情けないな相変わらず!」



源三が上から不良達に話すと、



「なにしやがんだよ?」



「降りてこい、てめぇも一文字共々ボコボコにしてやる。」



源三は挑発にのって、校舎の3階から飛び降りようとしたが、、、



「源三。大丈夫だよ。ほら見てみな。」



一文字の言う通りに見てみると竹刀を持った今で言う生活指導の先生が不良達に向かっていくと不良達はみるみる逃げていった。



一文字が、源三に親指をたててサインを送りタバコを吸いながらオヤジもサインを返した。



気付けば一文字と源三は一緒につるむようになっていた。



「源三は勉強も出来るし放って置けない性格だから将来人の役に立つと思うよ。」



源三は照れながら



「やめてくれよぉ。一文字には敵わないんだから、俺よりも人の役に立つ筈だ。」



ーーーーーー



「まぁこんな感じに俺達は気付けば一緒にいたんだ。」



車を進めながらオヤジは続けて話す。



「でもまた事件が起きたんだ。」



ーーーーーー



一文字が走りながら源三の元へとやって来た。



「どうした?一文字。」



「無いんだ!!」



「えっ?」



「僕が調べてた資料が!!」



「コンピューターグラなんちゃらの資料だよな?」



「そうなんだよ!!まずいよあれが無いと、、、」



一文字はあたふたしながら、源三に涙目で訴える。



源三は辺りを見渡したら不良達がそそっかしい様子で教室を出ていったのを見逃さなかった。



「一文字、、、お前はここにいろ。」



一文字は驚いた表情で源三を見る。



「まぁ任せろ。」



源三はそう言って立ち上がって教室を後にした。



不良達が校舎裏に集まって話をしていた。



「アイツの慌てた顔最高だったなぁ」



「泣き顔で廊下走ってる時は笑っちゃったよ」



「これは燃やすか。」



金髪のこの一言で不良達は更に盛り上がった。書類を手に取りライターを近付けた瞬間。



「楽しそうだな。俺にも混ぜてくれよ。」



不良達が驚いて振り返ると源三がいた。



「人の大事な物にまで手を出すとは、本当にお前らはクズだな。」



源三がそう言うと、いきなり殴られた。金髪が鋭く睨んで、



「てめぇには関係無いんだよ。」



他の不良達は源三を抑え込んで、金髪は源三を殴り続けた。



「効かねぇなお前のパンチ。」



源三はそう言いながら、唾を金髪に吐いた。金髪は怒りで震え、側に落ちていた金属バットを拾って源三に向ける。



「死ねぇぇぇぇぇえ!!」



金髪はバットを源三に振り抜こうとして、源三は目を瞑ったその時だった。



「うっ!!」



聞き覚えのある声が響き、源三が恐る恐る目を開けるとそこには一文字がうずくまっていた。



一文字が動かない。源三は必死に呼び掛けても返事がない。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



源三は叫んだ。



ーーーーーー



「そこから先は記憶が無いんだ。」



信号待ちしてる車の中。外は雨が降っていた。



「気付いたら少年院よ。先生曰く俺は血が昇った後、金属バットで奴らを半殺しにしたそうだ。んでそれ以来一文字と会う事は無かった。いや、会おうと思ったら会えたんだろうけど、自分から行かなかっただけなのかもなぁ。」



あおいがゆっくり口を開く。



「でも、、、会えて話せたじゃないですか。」



「あぁ若に感謝しないとだな。」



「私もゲンちゃんやユージさんのお陰で、、、」



2人の間に穏やかな空気が包んでいた。



しかし、無情なことに温かい時間は長くは続かず車を止めたオヤジが煙を吐きながら言った。



「さて、着いたぞ。昭和製薬だ。」












左久良組の事務所内。



数人の構成員がユージを追いかける。



「ヤクザ舐めとんの、、、うっ」



1人の構成員が床に倒れこんだが、それに続いて2人、3人とユージを追いかけた構成員達が全員眠りに着いた。



「舐めてるんじゃねぇ。嫌いなんだよ。」



ユージはそう呟きその場を後にした。



3階にある部屋の中。



高価な椅子に座ってる男が回りながら言った。



「待ってたよ。男。」



「どうもー。」



ユージがいつの間に部屋に入ってた。そしてバーで会った以来の対峙をしている。



「派手に暴れてくれたみたいで、んで俺を殺しに来たのか?」



「あいにく、俺は殺しはしない主義でね。」



平田が銃を構えて、



「そちらには無くても、俺には殺す理由があるんだよ。千代子の件もあるし、昨夜俺の右腕を貴方達に殺されたんだから。」



「ゴリラの件か、、、あいにくゴリラは俺の目の前で撃たれたよ。」



「そんな話を信じろと?お前達をあの倉庫に誘き寄せて、アイツがお前達を始末する予定だったんだから。」



「そんで5番倉庫に田辺を置いておけと偽の指示メールを送ったって訳か、、、ゴリラもいると思っていたけどな。」



「それはそうだろ。」



笑いながら平田は続けた。



「アイツはなにも知らないんだから。」



ユージは唇を噛んだ。焦れったさがそうさせているのだろう。



「俺はヤクザと企業の喧嘩に巻き込まれた。違うか?」



「そういうことかな。」



ユージはやれやれと言わんばかりのため息を吐く。



「佐久良組としては昭和製薬からの送金が止まり、デカい金が動くであろう新薬の開発者を懐刀に収めたかった。そんな所だろ?」



「鋭すぎる男も考えもんだぜ。ナイトメア。」



平田が立ち上がり、上着を脱ぎ始めた。



「でもな、、、俺は自分の娘がソープに行かされて、はいそうですかって言えるほどお人好しじゃねぇんだよ?ヤクザをあまり舐めるなよ?」



指をならしながら構えを取る平田。



「似たような事を娘にしといてよく言うよ。」



ため息を吐きながら、ユージも構え始める。



平田とユージが走り出し、互いに右手を出したが拳がぶつかり合いった。



直ぐ様ユージが蹴りを繰り出すが、平田がそれをかわす。



すぐに間合いを詰めて拳を繰り出すユージだが、大して平田には効かずに、不敵な笑みを浮かばせる。



平田はユージの拳を受け流し、正拳付きを腹部に入れた。



「ぐはっ!!」












左腕を抑え膝をつくユージ。



「じゃあ田辺は今どこなんだよ?ここにいた筈だろ。そして5番倉庫にもいたはずだろ?、、、」



突然平田が笑い始めた。



「本当におめでたい奴だな。」



なんだとと言わんばかりにユージが眉間にシワを寄せる。



「偽の指示メールで引っ掛かるとは、本当にの言う通りだ。」



ユージの背筋に戦慄が走り、更に耳と目を疑う。



「なぁ田辺。」



「うそだろ、、、?」



そこには眼鏡をかけた男。以前一文字から見せてもらった写真の死にかけて囚われていたはずの男。田辺がいた。



「はじめまして。田辺と申します。」



「お前達が仕組んだ狂言だったのか?」



平田が鼻で笑い、その横で田辺が答えた。



「利害が一致しただけですよ。私がそのタイミングを待っていて、たまたまそのタイミングが襲撃だっただけなのです。」



血が流れてる腕を抑えながら立ち上がるユージが呟いた。



「俺はデカイ奴らの喧嘩に巻き込まれただけかよ、、、んでなんで俺をキューピットに向かわせた?」



キューピットというフレーズが出た途端平田の顔が険しくなった。



「なるほどね。俺はネズミ取りに向かわされた訳だ。」



平田の険しくなった表情から察知したかの様にユージが語る。



形勢は2対1のまま、静かに時間が流れていき、ユージは右手で銃を構えた。



「多分、田辺の研究室だったんだろうけど、その部屋で見た資料だと、作っているのはドーピングと変わらない、、、増強剤だよな?」



田辺が眼鏡を直しながら



「私は自分で作ったこの増強剤で世界がどうなるのか見たいんですよ。」



「なんだと、、、?」



引き笑いをしながら語り始めた。




「私を拾ってくれたのは一文字さんですから今でも感謝はしてますよ。でもね、この増強剤を作ってる時に思ったんですよ。この会社からこの増強剤が出ても私が求めてる結果に繋がらない。田辺さんと一文字さんがこの増強剤で何やらやり取りをしてたのは知ってましたから、田辺さん側は世界各国にこの増強剤をばらまきたい。そしたらこの増強剤が世界を変えるんですよ!!」



銃を構えながらも出血の量が収まる傾向が見えないユージはめまいすら感じるようになっていた。



「純粋な、、、研究者が、、、一番恐いって誰かが言っていたな、、、」



ユージが静かに呟く。



「見ててください!これからは私が作った増強剤で、、、イヒッ!!イヒヒヒヒッ」



「狂ってる、、、。」



ユージが力を振り絞り田辺の元へと走り出す。直ぐ様懐に入り込みボディーに渾身の拳をかます。



がしかし、田辺は微動だにしない。



「!?」



「イヒヒヒヒッ。何か当たりました?」



田辺は右腕を振り抜き、ユージの顔面にあたり吹き飛ばされてしまう。



「田辺、最後の実験だ。あんたの作ったシロモノの効果を目の前で証明してくれ。」



平田は椅子から微動だに動くことなく、田辺に指示を出す。



叫び声をあげながら身体に力を入れると着ていた服や白衣が破け、上半身はまるで筋肉の鎧をまとっているかの様に膨れ上がった。



左腕の出血も伴い、吹き飛ばされて未だに立ち上がる事が出来ないユージ。ユージに向かって近づいていく田辺は両手を上げて降り下ろした。



床の割れる音が部屋に鳴り響く。



「!?」



一方、昭和製薬に着いたオヤジ達にも、、、



「ゲンちゃん!!」



あおいの叫び声が響いていた。








~続く~

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NIGHTMARE ブサイク猫 @nanman-novel77

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