13

 

 私は電話をもらってからすぐ大学の外へ飛び出した。焦りながらケータイを出して卓人を呼び出す。卓人は2コールで対応してきた。

 ケータイずっと握りしめでもしているのかしら。と、そんなことより!

「ちょっと、卓人くん!?さっきの何!?」

「あれ、里未さん?どうしたの?まだ大学だよね?」

 明るく能天気なトーンが返ってきた。一瞬でも気が抜けそうになる。どういうこと?

「さっきの話聞いて慌てたんじゃない!もし何かあるならって、おとなしくなんてしていられないよ。ちゃんと説明して」

「あぁー…そういうことね。本当に里未さんって真面目だし、優しいんだね。分かったよ、ごめん。今からそっち行くから裏門まで来て」

 すぐに電話が切られる。ケータイをギュッと握りしめる。車が来る間、卓人のことを考えていた。何も無いならそれでいいんだ。向きこまれた以上、あまり殺人をしてほしくはなかった。

 やがて青い車がやってくるのが見えた。

 車に乗り込み、私はさっそく口を開く。

「卓人くん、私ショックだったのよ!?」

「落ち着いて、里未さん」

「落ち着いていられない!何だったの、さっきの意味深な電話!」


 バンッ!!


 卓人が窓ガラスを叩いたのだ。

 いきなりのことにびっくりして自分の喉からヒュッと息が抜けるような音がする。

 反射的に縮こまってしまい、目も同時に瞑っていたようだ。慌てて目を開けて、卓人の様子を伺う。

「黙れ、一回で聞け」

 睨まれてしまう。冷たい声だった。卓人の荒い口調を初めて聞いた。

 びっくりした…。

 怒ったりするんだ。そりゃそうだよね。

「あの…ごめんなさい…うるさかったよね…」

 俯いて謝る。目を見るのが何故か怖かった。あの目でまた睨まれていたらと思うと見れなかった。

「…ッ…ごめん、大声出して。里美さんは悪くないよ。ただの八つ当たり。謝らせるようなことしてごめんね。…僕が怖い?」

 いつもの声とトーンで安心する。

「怖くない」

「そう…だったら顔を見せて。目を見てもう一度言ってよ」

 卓人の手が頬に触れる、髪に触れ、耳に髪を掛けていく。横顔が卓人に晒されていく。

 一つ一つの動作がゆっくりと丁寧で触れる手先が少し暖かい。慣れない行動に恥ずかしさが込み上げてくる。

 まただ…。

 恥ずかしい。こんなのもっと顔が見れなくなってしまう。やめてほしいとも思うのに、何故か何も出来なくなってまう。

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