21

 

「卓人くん…今日も夜、出かけるの?」

「行くよ。どうして?」

「…どうしてって…それは…」

 まさか聞き返されるとは思わなかった。

 理由なんて…あなたに人を殺して欲しくない、それだけなのに。

「どうしたの、俯いて。…そんな顔しないで。何か言いたいことがあるんでしょ?」

 そんな顔…って、私どんな顔してるの?分からない…言いたいことなんて山ほどある…でも言ってどうにかなるの?

 あなたにあまり殺しを重ねてほしくない。

 私には見守ることだけしか出来ない。だけど、もう…見ていられない。

 卓人の服の裾を掴む。

「あまり夜出かけていかないで…」

 それは言葉と共にごく自然に溢れたような感覚がする。

 しばらく卓人の反応を待っていたが、あまりにも何も返されないので不安になってきた。なんで何も言わないの?私、そんなにおかしな事を言った?

 おそるおそる顔を上げてみれば困惑する卓人の表情が見えた。

 うそだあ…。驚いた。

 目を丸くして、信じられないことを聞いたとでもいう様だ。これまで表情に変化のない機械みたいな人だと思っていたのだ。

「え、どういう感情なの、それ…」

「…えー…里未さんさ、それはこっちのセリフだよ…どうしてそんなこと言うの?」

「…そんなの、私にだって分からないよ…勝手に口から出たって言うか」

 だけど、あれが私の本心だ。

「んんー…あー…そっか…勝手に、ねぇ…里未さんってさ…やっぱいいや…あぁもう調子狂うな…分かったよ、行かない。行かないよ。…これでいいんでしょ」

 あ、顔が赤い。

 この表情は初めて見るな。口角が自然と上がるのが分かった。

「ありがとう」


 トクン…トクン


 心臓が高鳴る。私はこの鼓動のリズムを知っている。

 私は彼に恋をしてしまったんだ。その想いをもう否定しない。

 私はあなたに恋していることを認めよう。





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