9
「里未?どうかした?」
静かになった私を気にして聞いてきたようだ。
「え、あ…何もないのよ。考えてただけよ」
「何を?」
「容疑者が逆に怖がってるなんて変な話よね。それのことよ」
「あぁ…。確かに。本当に変な話」
そこで美咲は興味を無くし、話をやめてしまったけれど、私の頭はまださっきのことを考えていた。
きっと、容疑者になっているのは昨日の男だ。卓人にあんなことされたら口が裂けても話す気にはならないだろう…。でも…安心なんて出来ない。
私は無意識にスマホの卓人の番号を開いていた。登録名は平仮名で「たくと」と入れていた。有名な名前なだけ、本名を登録することは出来なかったし、禁止された。
…卓人の番号なんか見て…何してるんだろう私。
頭を降ってかき消し、スマホをしまう。
「何、もしかして、いまの彼氏?」
ケータイを覗かれていたらしい。
本当、危ない。人の目はどこにあるか分からない。
「か、かれしだなんて…な、何でそうなるの…」
顔が赤くなるのが分かる。
「えー?だって、顔がね?心配そうにしてたし。彼氏を想ってるそんな感じ」
アバウトすぎる。
「違うわよっ!違うからね!」
念押しし、顔を机に伏せる。
美咲があんな変なこと言うから意識しちゃうじゃない…!ただでさえ、本人の行動に意識させられて動揺しているのに。
絶対に、違う…そのはず。
あれ…そもそも美咲のからかいに間に受ける必要はなかった。
こんなテンパる必要もなかった。
私…慌てるくらい、卓人くんのこと…意識してたのかな…。
ハッとして今度こそ思考を遮るために円周率を頭の中に浮かべはじめた。
すると、タイミングよくスマホが着信を響かせた。
画面には卓人の名前があった。
何でタイミングが良いんだろう。
気まずい気持ちを追い払い、ケータイを取った。
「はい…」
うわずった声で答えてしまう。気づかれたかな?
『美里さん、なんか電話だと声可愛いね』
普段はどうだというのか?
「お世辞でしょ、ありがとう」
『素直じゃないよね、里美さんて。本当のことだよ。普段も素敵だしね』
恥ずかしい…卓人くんてどうして…。
変な余韻に浸っていたが、卓人はついに本題を口にした。
『そういえば里美さんは、聞いた?』
「え?」
本当はなんのことかわかっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます