あめんぼあかいなあいうえお

伊豆 可未名

第1話 入部初日です!

 ドキドキの瞬間が始まる――。

 丸く囲んだ椅子の隣の席の人が自己紹介を終わらせて、席に座る。パラパラと拍手が起こり、部長が「それじゃ、次の人」と私を指名する。

 私は立ち上がり、話し始めた。


 私、青山春羅はるらの高校生活は、「いっけな~い! 遅刻、遅刻~!」などというテンプレ的な始まり方はしなかった。大好きなアニソンがかかるように設定してあるスマホのアラームが鳴ると同時にエクセレント起床し、簡単な朝ご飯を食べ、何事も起こらず、無難な時間に登校した。

 そうしてあっという間に過ぎていった四月。ゴールデンウイークは中学時代の友達と遊んだり、撮り溜めたアニメを消化したりして過ごした。一ヶ月くらいじゃ、人の生活は何も変わらないし、ましてや中学校から高校に上がったくらいでは、授業の難易度と登校時間の長さとクラスメイトくらいしか変化がない。私はクラスでも席が近い人達とおしゃべりをできるくらいに仲良くなり、光の速さで書かれては消されていく黒板の文字を書き写すことにも慣れ、電車での通学も難なくこなせるようになっていた。でも、これはまだ序盤中の序盤。部活が始まって、やっと、本当の高校生活が始まる。

 私は演劇部に入りたかった。この高校を志望したのも、演劇部が幅広く活動しているという情報を得ていたからだ。部活見学でも、先輩は優しそうだったし、楽しそうなことがいっぱいできると思った。だから、五月になり、入部届には迷わず演劇部と書いて提出した。

 その最初の部活の日、私達一年生はそれなりに広い部室に集められ、椅子を丸く囲んで座って、自己紹介をさせられていた。

「一年四組の石塚麻美です。趣味は読書と映画鑑賞です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いしまーす」

 なんていうやり取りが約二十人分交わされるのだ。私はちょうど、最初の人と向かいの席に座っていたので、順番は真ん中くらいだった。

 隣の人が指名されて立ち上がる。私は自分の番が次だということしか意識になく、彼女の言葉を何一つ聞いていなかった。クラスの最初の自己紹介でも同じだった。緊張して、名前と出身中学と何か一言追加すればいいだけだったのに、混乱して何を言ったのか自分でも覚えていない。教室中がちょっと笑っていたから、多分好印象を持たれたのだと思う。その後も、クラスで変ないじられ方はしていないから、大丈夫。

「それじゃ、次の人」

 部長が私に向かって言った。私は元気よく立ち上がった。

「はい! 一年二組の青山春羅です! 趣味はアニメとお菓子パーティです。演劇部に入ったのは、声優になりたいからです!」

 私は畳みかけるように言った。

 どこからか「声優って……」という呟きが聞こえてきた気がした。私、何か変な事言ったのかな? 皆と同じように私も少人数からの拍手を受けて席に座った。


 その日の部活は自己紹介だけで終わった。上級生を合わせて五十人近い演劇部員全員の名前と顔を覚えるのは難しい。私は疲れ切ってカバンを斜めにかけて下駄箱に向かった。

「青山さんだっけ?」

 誰かが私の名前を呼んだ。演劇部員だろうと思って、私は振り向いた。

「私、石塚麻美。さっき演劇部で自己紹介したでしょ? 声優になりたいなら、なんで放送部にしなかったの?」

「ほうそうぶ?」

 私は石塚さんの話の意図がわからず、訊き返した。

「放送部だよ。校内放送とかやる部活。何でそっちにしなかったの?」

「えっ?」

 知らなかった。放送部なんていう部活があったのか。でも、何をするんだろう。石塚さんが言うには、声優に向いているのは放送部なのだそうだが……。

「何、その反応? もしかして、存在も知らなかったの?」

「知らなかった! 放送部って何するの? 声優目指してる人が集まってるの?」

 石塚さんは詳しくは知らないらしく、ちょっと困惑していた。

「いや、そこまではわからないけど」

「えー、じゃあ私、部活選び失敗したのかな……」

 私は肩をポンと叩かれた。

「まあ、いいじゃん。どっちでもそんなに変わらないよ」

「そうかな……?」

「それより、もう帰ろう。先輩達ももういないし、早く帰らないと先生に見つかるよ」

「そうだね!」

 帰りに、私は高校の公式サイトで放送部の活動内容を見た。あまり多くの情報は載っていなかったけど、昼休みの校内放送や、文化祭での朗読劇の発表など、もしかしたら演劇部よりは声優に近いことをやっているように思えた。

 私は高校に入学して、順調に事が進んでいるとばかり思っていた。だけど、一つだけ見落としていたことがあった。部活は慎重に選ぶべきだった。演技の勉強をするなら演劇部しかないと思い、放送部の存在すら調べなかったのだった。


 家に着くと、気に入ったアニメが始まる時間だった。

「ジャストタイミーング」

 テレビの電源を入れた瞬間、私は部活選びの失敗などすっかり忘れていた。楽し気なオープニングテーマを聞くと、自分の気分も上がる気がした。

 それから、私のウキウキ演劇部ライフが始まった。


(本作品は読者様の反響によって内容を考えていく方式を取っております。続きが気になる方はレビューをお書きいただくか、近況ノートにコメントを残していただければと思います。

 何の反響もなかった場合、一話打ち切りもあり得ます。どうぞ、よろしくお願いいたします)

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