5.いつもの世界
いつものように母さんの声で起きる。今日はいつもと違ってなんだかやけに人間臭い。昨晩の匂いが体に残ったのだろうか。確かこの家に住み着いて今日で5日目になる。
目を開け時計を見る。夜中の6時。そろそろ朝ご飯の時間。ふと自分の腕に目を落とす。指は分かれていて、肌色の肌に包まれた棒のような物が目に映る。
なんだ夢かと思い、二度寝をする為に再び目を閉じる。
しかしあまりの人間臭さに寝ることができず、目を開ける。やはり、肌色の肌に包まれた棒のような物が目に映る。
カーテンをその棒のような物で開け、外の景色を見ると、うっすらと人間がこちらを見ている。外はベランダ。つまり、家の中に人間がいる。しかも、こちらの動きを真似てくる。
少しずつ疑問が沸いてくる。尖った耳・・・は無い。丸まった尻尾・・・も無い。そう、人間に戻ったのだ。戻ってしまったのだ。ということは、先輩の話だと全ての『クエスト』を終えたことになるのだろうか。
初めてナナと会話した1日目。毎日退屈だけど、だからこそ、たまに来る違う日が百倍楽しいとナナが教えてくれた。
初めての景色と仲間に会った2日目。人間の自分は目的地まで一直線に向かい、寄り道は全くしない。しかし、一歩違うところへ踏み出してみると、まだまだ人間に壊されていない素晴らしい世界があることを知った。
人生の先輩に会った3日目。今までは嫌なことからは目を背けて生きてきたけど、嫌なことが起きた時は成長できる珍しいチャンス。何事も前向きに楽しむべきと先輩が教えてくれた。
初めての恋をした4日目。久しぶりに胸が高鳴り、ナナのことを一瞬忘れかけてしまっていた。しかし、ナナと作った思い出はたくさんで、ナナのことをもっと大切にしようと改めて思った。
この4日間で、自分は成長できたのだろうか。いや、きっとちっぽけな成長かもしれないけど、4日前よりもなんだか気分が優れているのは確かだ。
枕元にそっと一本だけ置いてある、ナナの大好物のいもスティックを半分にし、半分をナナの所へ、半分をポケットにしまい、この4日間の経験を無駄にしないように、再出発をした。ナナ、ありがとう。
犬のクエスト 祢音 @neon_novel
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