4.数年ぶりの初恋
犬になって4日目になる。茶色い毛に包まれた棒のようなものも見慣れてきた。
いつも朝ご飯の時起きているのはナナと母さんと自分だけだが、今日は父さんと妹も起きている。
そう、今日は休日。このあと、ドッグランに連れて行ってくれるらしい。365日の中の、65日の内の1日が今日。
ナナは移動用ケージに入れられトランクに、自分は後部座席に乗る。
2時間ほど経ち、ドッグランに着く。
目の前に広がるのは、緑色の芝に、青い空、白い雲。後ろには富士山も見える。
そして、色とりどり遊具。トンネル、吊られた浮き輪、坂、シーソー、ハードル、ポール。
既に他の犬が楽しそうに走り回っている。大型犬も、小型犬も、一緒に皆笑顔だ。
そして自分も走る。気持ちいい。これも人間ではできない体験だ。ナナ、見ているか?これが、本来の犬のあるべき姿だ。
そう思い、ナナの方を見ると、ベンチで食べている父さんのサンドイッチに夢中だった。相変わらず犬らしくない犬だ。
ベンチまでとぼとぼ歩いていると、ピンクのボールが目の前に転がってくる。転がってきた方を向くと、トイプードルが走ってくる。このボールは、そのトイプードルのか。
「あ、こんにちは!」
「こ、ここんにちは」
顔を傾け、にっこり笑い(そう見え)、ボールを咥えトイプードルは飼い主の元へと走っていく。
心臓の鼓動が早くなる。なんだ、この気持ちは。この胸の高鳴りは。足が止まり、呆然とトイプードルを見つめる。
「へえ、あんなのが好きなんだー」
「え、ナナ、いつの間に・・・」
気まぐれナナは神出鬼没だ。突然現れ、突然いなくなる。
すると、もう一度ボールが転がってくる。
「そちらは、お友達?」
トイプードルが尋ねる。
「・・・兄よ。あたしの、兄」
「兄妹なんだ!素敵なお兄さんね!」
(自分は茶色でナナは黒なのだが・・・)
「ノア!行くよー!」
「あ、呼ばれちゃった。またね!」
飼い主に呼ばれ、トイプードルは帰っていく。しかし、なんだこの気持ちは。これがもしかして、恋。犬としての、初恋・・・か。
そういえば、ナナがなんだか少し元気がない気がする。
「ナナ・・・?」
「さ、あたし達も帰りましょ!」
そして車に乗り、帰路に着く。ナナはすっかり疲れたようで眠っているようだ。
ノア・・・たしかに可愛らしく、あの時の自分は恋をしていた。
でもおそらく、もう一度会えることはほぼ無いだろう。叶わぬ恋をいつまでも引きずるより、目の前の仲間を大切にしなきゃ。
おそらく、ナナにとっては、自分が初めての犬としての仲間であり、唯一の犬としての仲間だ。
これからは、もっとナナを大切にしてあげよう。そう誓い、自分も眠りに就き、そして4日目が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます