6――補遺(読み飛ばし推奨)
★蛇足――
「ふぁ~っ。一時はどうなるかと思ったよ~。シシちゃんのおかげよね。ありがと~!」
「――あたしはルイの友人として、当然のことをしたまでよ――」
「またまた~。私、あなたを見直したわ。シシちゃんは私の親友よ! 大親友!」
「――受けた借りは返す、当たり前の感情を実践しただけよ――」
「返報性の法則よね~。お兄ちゃんが言ってたわ」
「――返報性、か――」
「そ~そ~。あ、もうすぐ私ん家に着くよ。上がって上がって! お兄ちゃんにも改めてお目通しさせたげる!」
「――ありがと、ルイ――お言葉に甘えるとするわ――」
「遠慮しないでっ。ただいま~お兄ちゃん! シシちゃん連れて来たよ~っ」
「お帰りルイ……と、シシちゃん? あるある、予告なく友人を連れ込むの、よくある」
「――ご無沙汰してます――ナミダお兄さん」
「やぁ、久し振り。先日は災難だったね。でも、おかげでルイの潔白は証明できたし、シシちゃんの友情も確認できた。僕も君の推理に感化されてしまったよ」
「――感化――そうですね――見事にみんなの気持ちを操れました――何もかも計画通りに事が進んで、助かりましたよ――」
「ふぇ? ちょっとシシちゃん、なんで不穏な口調になってるの~?」
「全く、見事な手際だったよ。人は共感する生き物だ。同調圧力に屈しやすいんだ。僕も表向きは浪川奈津さんが犯人だと納得せざるを得なかった。真実は人の心の数だけあるからね。多重解釈もよくあることさ」
「え、共感? 同調? お兄ちゃん、何言ってるの~?」
「……わたしが説明しましょうか……」
「あ、お母さんも居たんだ! ただいま!」
「……ルイ……よくぞ沖渚さんを連れて来てくれたわね……お疲れ様……」
「ほぇ? 別に頼まれたわけじゃないけど~」
「――やはり、あんたは見抜いてたのね――湯島
「……沖渚さん……わたしはあなたの主治医だったから……あなたの心が読めたわ……」
「え~? お母さん何言ってるの~? お兄ちゃんも教えてよ~」
「ルイは
「……そうね……他人に罪をかぶせる……それはまさに、家庭科室で浪川奈津さんが泰野洽湖さんにやってみせたのと同じ……それを意趣返ししたのね……」
「――目には目を、罪には罪を――あたしはなっちゃんに農薬を盛られたのに、彼女は逮捕されなかった――だから自分の手で復讐したのよ――」
「じゃ~シシちゃんも気付いてたの~? 私市さんとなっちゃんが農薬を仕込んだ『第二の犯人』だってことを~」
「――当然よ――だから、あたしは私市さんを殺して、その罪をなっちゃんに着せたのよ――皮肉の利いた仕返しだと思わない、湯島溜衣子?」
「……あなたは浪川奈津さんを模倣して『As ifの法則』にかかり……似た者どうしの似通った思考が『普遍的無意識の共有』を誘発した……その際、浪川奈津さんの記憶があなたにも流れ込み、浪川奈津さんの毒物混入を感知した……」
「普遍的無意識って~、病院の事件のときにも話してた心理学用語よね~?」
「……そうよルイ……沖渚さんは浪川奈津さんも毒物犯だと知り……同じ冤罪で仕返しした……双方が同じ思考を宿し、同じ行動を起こす……ある意味で似た者どうし……」
「言動がシンクロしてるっ?」
「……今回の私市さん殺しも……沖渚さんはルイをかばう振りをしつつ、事件を誤誘導していたのよ……友達というポジションを利用して……友達想いの振りをして……」
「う、嘘でしょ~?」
「――本当よ、ルイ――」
「シシちゃんっ!?」
「――あたしとなっちゃんは『As ifの法則』と共感作用で、思考が同化してたから――あたしの犯行をなっちゃんの記憶として思い込ませたのよ――」
「そんなこと、あり得るの~? ね~お母さん!」
「……心理学上では『普遍的無意識』による心の共鳴は実在する現象だから……理論的にはあり得るわ……空想科学とかSFの類になるけれど……」
「――あたしは、なっちゃんと同じファーファッションだった――駅のカメラに映ってるのはなっちゃんではなく、あたしなのよ――身動きや顔の化粧も『As ifの法則』で真似してたから、カメラにちらっと映った程度じゃ、人相鑑定も歩容認証も識別しづらい――混雑してて全身は映ってないでしょうし――」
「お互いを似せて、なりきって、同調する所まで、計算ずくだったの~?」
「……浪川奈津さんは本当に、イヤリングを事前にもらったのね……でも、沖渚さんが殺人現場を工作し、浪川奈津さんに偽の記憶を共有させて、真実を上書きコピーした……他人になりきらせる心理学を使って……」
「なっちゃんが首を左に傾げてたのは、コピーされた虚言を喋ってたからなのね~!」
「……沖渚さんは浪川奈津さんと心を通わせたことで……イヤリングのことも普遍的無意識を介して知ったのね……?」
「――そうよ、湯島溜衣子」
「ちょっと待ってよ~! じゃ~一五:四五に解散後、電車で海浜駅へ行って私市油見さんを殺したのは、本当にシシちゃんなの~?」
「――そうよ、ルイ」
「私の味方をしてくれたのも、恩返しではなく、なっちゃんに罪をなすり付ける布石?」
「――そうよ、ルイ」
「信じらんない! 私は親友だと思ったのに! やっと心を開けたと思ったのに~!」
「――なっちゃんは最初、あたしを懐柔するために接近して来たみたいだけど――あたしはまんまと逆利用してやったわ――そしてルイ、あんたともお近付きになれた――」
「見損なったわ、シシちゃん!」
「あるある。普遍的無意識による感情の共有。同じ思考と記憶が生じさせる言動の一致。シシちゃんは今までの事件で心理学を覚え、自ら悪用できる領域まで昇華させたんだ」
「――あたしはそれを『シンクロニシティの怪物』って呼んでるわ――」
「え! それって、死んだお父さんの~……」
「――感情の共有や一致は『偶発的な産物』だけど――仮にあたしの一存で恣意的に生むことが出来るとしたら、どうなると思う――?」
「あるある。自分の思想を他人に共鳴させ、洗脳し、操り人形と化せるね。亡き父さんの研究とも偶然の一致をしたわけか。よくあるパターンだ」
「普通ないわよお兄ちゃん!?」
「――感謝するわルイ――あんたに関わったおかげで、この境地に達したのよ――」
「ふざけないでよ~! シシちゃん正気?」
「――当然よ――なぜ疑うの? 私たち友達でしょ、ルイ?」
「気安く呼ばないでっ!」
「――痛っ。あたしを払いのけるの、ルイ? せっかく親友になれたのに――」
「うるさいっ。シシちゃん帰って! 家から出てって!」
「――仕方ないわね――さようなら。また会う日まで――」
「ふええ~ん、お兄ちゃんっ。私、私っ」
「よく頑張ったね、ルイ。僕も不甲斐なかったよ。流れに逆らうべきだったのかな。真実なんて心の在り方で変わると思っていたけど、これじゃあ勝ち逃げされた気分だよ。後悔先に立たずだね、あるある」
「ぐすっぐすっ。せっかくシシちゃんと親しくなれたと思ったのに~、どうしてこんな結末になっちゃうの~っ」
「……今は存分に泣きなさい、ルイ……」
「ふぇっ、お母さ~ん」
「……人は泣くことで成長するわ……心のわだかまりが蓄積し、感情が爆発したとき、はけ口として号泣する……落涙はまさに『心』を映す鏡……心理の象徴なの……」
「僕たちに『
「ひっく、うぐっ。そうだったんだ~」
「誇りに思おう、ルイ。自由に泣けるのは、心情が豊かな証拠だ。ルイは友達を得る喜びと、友達を失う悲しみを知った。それはとても貴重な財産だ。ひとしずくの
*
第十二幕――了(迷宮出口)
よくある兄妹-ふたご-の思考実験-thought experiment- 織田崇滉 @takao
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