いよ色モンスター蔓延る現実世界

後日談

休み明け火曜日、午後四時半頃。武和は学校帰り、先週金曜と同じショッピングセンターに立ち寄った。

　今日も来てるな、あの連中。

　武和は溌剌とした気分で、前に見た奴らと同じだろう不良高校生集団のもとへわざと近寄っていく。

「ねえきみぃ、おれら財布落として困っとるんじゃけんど、千円だけでもええから貸してくれへん？」

　またしてもからまれてしまったが、

　こいつら全員、今の俺の力じゃ平手打ち一発で楽勝だろうな。せいぜい姫だるまくらいの強さしかないだろう。弱いからこそ派手に着飾って大勢で群れてるんだよ。一丁前にタバコなんか装備しちゃってる奴もいるし。

　武和は嘲笑っているかのような表情で、

「あの、そういうバカげたことはやめといた方がいいよ。将来のことを考えて」

　こうきっぱりと言い張る。

「あぁ？　なんだと。ぶっ殺すぞっ！」

　一七五センチくらいあった一人に、あっさり胸ぐらをつかまれてしまった。

あれ？　全然効いてない？　こいつレベルアップした俺より強くねえ？

　相手の肩をポンッと手で押してみても全く動じてくれず、唖然とする武和。心拍数も恐怖心も急上昇だ。

「こらこら、きみたち何しよん！」

　そこへ恰幅のいい中年男性警備員さんが駆けつけてくれた。

「やべっ！」

　からんで来た奴のみならず、不良集団はみんな一目散に走り去っていく。

「きみ、大丈夫か？」

「あっ、はい。まだ特に何もされてないので」

　武和はやや涙目で答え、

　俺、かなり情けねえ。これじゃぁあの旅の前と同じじゃないか。

　しょんぼりした気分で帰路についた。

　　　※

武和は帰宅後。

「夢子ちゃん、俺、かなり強くなった気がしたんだけど、旅の前と全然変わってないような気もするんだ」

　夢子をゲーム内から飛び出させて不満を呟く。

「そりゃ変わってへんぞなもし。あれはゲームの世界やけん。リアルの日常生活には何の影響も及ぼさへんぞなもし」

　夢子はにこにこ顔で伝える。

「そんなっ！　旅館のパンチングマシンとかでは実際に強くなったのが実感出来たのに」

「それについてもゲーム内敵モンスター退治の旅の最中っていう特殊な状況下でのみ有効だったんじゃよ」

「それもファンタジー要素だな」

　そんな会話を弾ませていると、

「夢子ちゃん、稼いだお金が突然全部消えちゃったよ。なんでなん？」

「学力も全然上がってなかったよ。今日あった算数のテストもいつも通り悪かった。お守り持ってったのに。ママと文乃お姉ちゃんに叱られちゃう」

　柑菜と乃々晴が訪れて来て不満を呟いてくる。

「リアル愛媛県内に散らばった敵モンスターがゲーム内に全て戻されたけん、得たお金も学力も旅開始前にリセットされたんぞなもし」

「そこは現実に準拠して欲しかったよ。もうすぐ出る今期アニメのブルーレイとか買いまくる計画がぁ」

「あたしも新作ゲームとおもちゃ、いーっぱい買おうと思ってたのにぃ」

「俺もものすごーく損した気分だ」

「ゲームと現実との区別が付かなくならないようにと、製作者が配慮してくれたんじゃないかなぁ、っと思うぞなもし」

　夢子は楽しそうにこう意見したのであった。

　　　　　　　☆

翌日の午後二時四〇分頃、愛媛県立松山城陵高校。

やっぱこの能力も変化なしなのかな？

武和はそんな不安を抱えながら、次の七時限目の授業の行われる柔道場へ向かっていた。

「それじゃ、始め」

　授業開始後、準備運動を済ませたのち教科担任から合図で武和ら男子達は一斉に乱取りを始める。

「やっぱり。いってぇぇぇっ！」

　武和は彼より体格の勝る組み手にあっさり敗退。

　一本背負いを強引に食らわそうとして押し潰されてしまったわけである。

　同じ頃。

「あれあれ？　おかしいな。もっと軽快に動けると思ったのに」

「私も思うように動けないよ。今までと同じだよ」

「こらっ、友近さん、乗松さん、私語禁止じゃっ！」

　光穂と文乃はダンスの授業で前回までと同様、見苦しい動きをしてしまった。教科担任に注意もされてしまう。

　　　　　　　　☆

「夢子ちゃん、俺、柔道の授業で肩と腰と手首痛めたよ。回復アイテムで俺の怪我も瞬時回復しないのか？」

「そりゃそうじゃ。ゲーム内の回復アイテムは、ゲーム内の敵モンスターから受けたダメージのみに有効なんぞなもし」

「やっぱその点もファンタジーな設定なのか。いたたたぁ」

その日帰宅後、飛び出させた夢子から聞かされ武和はがっかり気分に。　

　　　　　　　　☆

「大阪のおばちゃんのモンスター、バッグの振り回し攻撃強過ぎ。宇和島闘牛の突進より攻撃力高いって風貌的におかしいだろ……倒したら、やはり飴ちゃんが手に入ったか」

武和はあれ以降、夢子が飛び出て来たデータにはこれ以上旅日記を付けさせず、別のデータで新たにゲームを進めている。そちらにも夢子ちゃんはいたが、飛び出てくることはなかった。学力仙人戦で苦戦しつつも愛媛編をクリアさせたあとは、伊予鉄松山市駅前から高速バスで大阪へ向かった。

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「ふたみシーサイド公園もリアルにそっくりね。夕日もきれーい。恋人岬にカップルさんがいるのもなんかリアル。次は下灘駅に行ってみよっと♪　わわっ！　ここにも敵モンスターさんがいるのね。名物の夕焼けソフトクリームだ。美味しそう♪　でも攻撃強い。主人公さんソフトクリーム塗れにされて身動き取れなくなっちゃったわ。これはまずいかも。夕日丼やラヴじゃこ天のモンスターもいそう」

光穂はあのゲームを観光地巡りをメインに毎日二時間以上は楽しんでいる。

試しに液晶画面に麦茶をかけてみたが、こちらの夢子ちゃんも飛び出てくることはなかった。それが極めて普通のことだろうけど。

　　　　　　　※

十月の三連休初日早朝六時頃、乗松宅。

「リアル徳島のマチ★アソビ、よいよ楽しみぞなもし。リアル高速バスに乗れるんも」

「ワタシも今回見たいイベント多いけん、すっごい楽しみよ。出来れば泊りがけで三日間とも見に行きたいくらいじゃ。ほな行ってこーわい」

「柑菜、それから、夢子ちゃんも、来週の中間テストの勉強も怠らないようにね」

「文乃お姉さん、分かっとるよ。否応なくやってくる現実思い出させんといて」

「ゲーム内時間ではまだ夏休みぞなもし。というより武和様が旅日記更新せん限り永久に夏休みぞなもし」

「ええなあ夢子ちゃん。中間テスト間近やけんマチ★アソビ見に行けんって子も、ようけおるじゃろうね。ワタシ、今度の中間マジやばいんよ。特に数学と理科と英語」

「柑菜様、うちはその科目得意ぞなもし。いっしょにテスト勉強頑張ろう」

夢子はあれ以降も頻繁にゲーム内から現実世界に飛び出して来て、武和達と交流している。

「柑菜、夢子ちゃんと仲良くやれてるみたいね」

「うん」

　ちなみに三姉妹の母は、夢子が大阪からの転校生であるとまだ思っているようだ。

（おしまいぞなもし）