第二話 武和達、愛媛ご当地モンスター退治の旅始まるぞなもし

翌朝、六時頃。

「もう朝かぁ」

 武和は目覚まし時計の音で目を覚ますとすぐに普段着に着替え、あのゲームの電源を入れた。雅楽の音色で奏でられた和風BGMと共にスタート画面が表示されると、武和は続きからを選ぶ。

 茶店内部に夢子の姿が映った瞬間、

「おはようございます武和様。体力は全快しましたか?」

 夢子はゲーム画面から飛び出て来た。

「おはよう夢子ちゃん、出て来れてホッとしたよ。俺、リセットしたらもう出て来れなくなるんじゃないか心配だった」

「うちも飛び出せるかちょっと不安じゃったぞなもし」

「今日は浴衣じゃないんだな」

「動きやすい格好で行きたいけん」

「そうか。あの件、今朝のニュースではやるかな?」

 武和は地上波受信モード切り替え、ローカルニュースが流れるチャンネルに合わせる。

『この時間は、松山のスタジオからニュースをお伝えします。今日未明から、愛媛県内各地で怪奇現象が起きているとの報告が多数寄せられました。松山市内では巨大ないよかんや坊っちゃん団子ががぴょんぴょん飛び跳ねたり空を飛んだりしていた、今治市では菊間瓦が生き物のように動き回っていた、宇和島市や久万高原町では異様に巨大な鹿やカエルや牛の姿を見かけたなど……』

 トップでこんな報道が。

「目撃情報はいくつかあるけど、人的被害はないようだな」

 武和はとりあえず安心する。

「ゲーム内におるべき敵モンスターが、現実世界に長期滞在すると一般人に被害を与える可能性も無きにしも非ずやけん、遅くとも明日までにはボスも退治しちゃいましょう。雑魚は無限増殖するけん全滅は不可能じゃけど、ボスさえ倒せば残る雑魚は自動的にゲーム内に戻ってくれると思うぞなもし」

     ☆

 午前六時五〇分頃。武和の自室に武和、三姉妹、光穂、夢子が集った。

夢子がゲーム内から用意した竹刀などの装備品や、坊っちゃん団子、母恵夢、一六タルトなどのご当地回復アイテムが床やベッドの上に並べられる。

「装備品と回復アイテムはおもちゃ屋やスポーツ用品店、うちのお店などから用意して来ました。回復アイテムはリアル愛媛でも売られとるものばかりじゃけど、体力回復効果は桁違いぞなもし。このゲームでは回復魔法がないゆえ体力回復手段は食べ物か宿泊、入浴するくらいしかないけん、種類豊富に揃えられとるんぞなもし。ただ、回復アイテムは賞味期限がありまして、ゲーム内時間の期限を過ぎて使用すると食中毒になって体力下がっちゃう。最悪の場合0になっちゃうぞなもし。まあ今回は一泊二日の短期決戦やけん、ほとんど関係はないけど」

「そこも従来のRPGとは違いますね。あのう、このみかんの葉っぱのような形のは、薬草かしら?」

 光穂は十本くらいで束ねられたそれを手に掴んで質問する。

「はい、毒消しの薬草ぞなもし。山間部は猛毒持っとる敵もおるけん」

「これはリアルでは見かけないな」

 武和も興味深そうにそのアイテムを観察する。

「猛毒持ってる敵もいるのかぁ。怖いなぁ」

 文乃は不安そうに呟く。

「文乃お姉さん、ワタシはますます闘争心が沸いて来たよ」

「あたしもだよ」

「鎧とか盾とか、防具らしい防具は用意してないんだな」

「ゲーム上と同じく、愛媛編では防具は普段着で特に問題ないと思うぞなもし。いきなりボスの巣食う四国カルストへ向かうことも可能じゃけど、皆様の今の力では確実に瞬殺されちゃうじゃろうけん、まずは最弱雑魚揃いの松山市内、続いて今治、内子、大洲で多くのご当地敵モンスター達と対戦して経験値を稼ぎ、レベルを上げていきましょう。日本全国、各庁所在地の敵が一番弱く、田舎の山間部ほど強くなる傾向にあるぞなもし」


 武和  身長 168 体重 51

防具 Tシャツ ジーパン 

     武器 竹刀 マッチ


 文乃  身長 159 体重 ?

防具 チュニック プリーツスカート 麦藁帽子

     武器 ヴァイオリン 和傘


 柑菜  身長 161 体重 ?

防具 カーディガン プリーツスカート 眼鏡

     武器 プラスチックバット 手裏剣 マッチ Gペン 黒インク カッター

 

乃々晴 身長 131 体重 30

防具 サロペット ダブルリボン 

     武器 フルメタルヨーヨー 生クリーム絞り器 水鉄砲 手裏剣 ドライヤー


 光穂  身長 155 体重 ?

防具 ショートパンツ ブラウス 眼鏡 

     武器 特大伊予かすり扇子 マッチ


 夢子  身長 153 体重 ?

     防具 ワンピース


 こんな装備に整えた武和達六人は、回復アイテムなどが詰まったリュックを背負い武智宅から外へ出て、いよいよ敵モンスター退治の旅へ。

第一目標の伊予鉄松山市駅前を目指し、最寄り路電駅へと向かって住宅地をまとまって歩き進む。

「怖いなぁ。敵、一匹も出て来ないで欲しいなぁ」

 恐怖心いっぱいの文乃は最後尾、武和のすぐ後ろを歩いていた。

「文乃さん、みんな付いてるから怖がらないで。わたしはいつかかって来られても大丈夫なよう、心構えていますよ」

「あたしも戦闘準備万端だよ。敵モンスター達、早く現れないかなぁ」

「ワタシも早く戦いたいよ」

「柑菜様、気持ちは分かるけど戦闘になるまでバットは武和様の竹刀のようにケースに入れて運んだ方がいいぞなもし。お巡りさんに注意される可能性もあるけん」

「それもそうじゃね」

 柑菜は素直に従って専用ケースにしまう。

「きゃぁぁぁっ!」

 文乃は突然悲鳴を上げた。そして顔をぶんぶん激しく横に振る。

「もう敵が出たのか?」

 武和はとっさに振り返る。

「あーん、飛んで行ってくれなーい。誰か早くとってぇぇぇ~。髪の上」

 街路樹の葉っぱから飛んで来た虫が止まったようだ。

「なぁんだただの虫かぁ」

 武和はにっこり微笑む。

「なぁんだただの虫かぁじゃないよ武和くん、背筋が凍り付いたよぉぉぉ~。まだ飛んでくれなーい」

 文乃は今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。

「カナブンが乗っかってるね。この場所がお気に入りなんだね」

 乃々晴は楽しそうに眺める。

「文乃お姉さん、カナブンくらいで怖がってちゃあかんやん。ここは武和お兄さんが取ってあげて」

「分かった」

 武和は文乃の後頭部を軽くぺちっと叩いた。

「あいてっ」

するとおでこにかかった前髪に潜り込むようにとまっていたカナブンは、弾みでようやくどこかへ飛んで行ってくれた。

「武和くん、痛かったよ」

「ごめん文乃ちゃん」

「武和お兄さん、なんで直接掴まなかったん?」

「虫を直接手で触るのは、ちょっと抵抗が」

「武和お兄さんも情けないよ。二人とも、高校生なんやけん昆虫嫌いは克服しなきゃ」

「虫の類は大人になるに連れて嫌いになっていくものだと思うけど俺は」

「私もそう思う」

「わたしは今も大好きですけど」

 光穂は微笑み顔できっぱりと言い張った。

「文乃様にとっては、身近な生き物も敵モンスター扱いのようじゃね」

 夢子はくすっと微笑む。

「姫だるまとかいよかんの形した敵は現れたら明らかに敵だって分かるだろうけど、生き物型の場合、本物との見分けちゃんと付くのかな?」

 武和はちょっと気がかりになった。

「敵モンスターの形状は現実世界でもCGやアニメ絵っぽく見えるじゃろうし、壁すり抜けるとかあり得ない挙動をしたり、生き物型なら異様に大きかったりもするけん、見分けは簡単に付くぞなもし」

     ☆

「リアル松山の路電も、なかなかの乗り心地じゃったぞなもし♪」

路電を乗り継いで松山市駅前に到着後は、東側に聳える銀天街北側の千舟町通りを歩き進んでいく。

「さっそくいよかんこまちが現れたぞ」

 ゲーム内で見たのとそっくりな敵モンスターの姿を発見するや、武和は嬉しそうに伝えた。みんなの前方に計八体現れ、浮遊しながらどんどん近づいてくる。直径は四〇センチくらいでリアルないよかんより巨大だ。

「すっごくかわいい。攻撃なんてかわいそうで出来ないよぅ」

 文乃はうっとり眺める。

「文乃様、いよかんこまちはリアル蚊よりちょっと強い程度で、リアル世界のか弱い女子高生でも平手打ち一発で退治出来ると思うけど、油断してたら危険ぞなもし」

 夢子が注意を促した。その直後、

「いたっ、指噛まれちゃった」

 文乃はさっそくダメージを食らわされてしまった。

「こいつめっ、文乃ちゃん、大丈夫?」

 武和は文乃の指をカプリと噛んだいよかんこまちを平手打ち一発であっさり退治した。

「ちょっと血が出てる。痛い」

「文乃様に1か2のダメージじゃね。坊っちゃん団子一本で完全回復出来るぞなもし」

「本当?」

 文乃は夢子から差し出された坊っちゃん団子を食してみる。

すると指の傷が一瞬で元通りに。

「すごいっ!」

 この効能に文乃自身も驚く。

「おう、これはファンタジーっぽいよ」

 柑菜は別のいよかんこまちをバットで楽しそうに攻撃しながら感心していた。

「動き遅いですよ」

 光穂は指に噛み付こうとして来たいよかんこまちを扇子一発で撃破。

「くらえーっ!」

 乃々晴もヨーヨー一撃でいよかんこまちを退治した。

「倒したら姿が消滅するのもファンタジーだな。全滅させたら何か落としていったぞ。一六タルトか」

 武和は拾ってアイテムに加えた。

「これはゲーム上では体力10回復するぞなもし。ちなみに道後温泉に浸かってもゲーム内のは毒などの状態異常完治&体力全快効果があるんよ。皆様、財布の中を見てつかーさい」

「おう、小銭が増えとるよ」

「本当だぁ」

「いよかんこまち八体倒して二百円ゲットか。ゲーム上の設定と同じだな」

「これもファンタジーですね」

「ワタシますます戦闘モチベーションが沸いたよ。敵モンスター倒しまくってお小遣い増やしてアニメグッズ買いまくるよ。もっと出て来ぉい!」

「あたしもお小遣いもっと増やしたいから、敵モンスターさん、どんどん出て来て」

「お小遣いが増えるのは嬉しいけど、私はもう出て来て欲しくないよ」

「わたしは戦ってお小遣いいっぱい増やしたいです」

「俺も。こんな方法で金が入るって、最高過ぎるだろ」

 文乃以外のみんなの願いが叶ったのか、ほどなく、

野球するなら こういう具合にしやしゃんせ♪ ソラしやしゃんせ♪

 こんな歌がBGMと共に流れて来て、浴衣や法被などを身に纏った背丈1.6メートルくらいの数体のお姉さん達がそれに合わせて踊りながら近付いて来た。

「野球拳女の体力は9。竹刀なら一撃と思うぞなもし。ちなみにそれよりちょっと強い男の方は12ぞなもし」

「なんか、かわいいからちょっと攻撃しづらいけど、敵だしな」

武和は見事な踊りっぷりにちょっとときめいてしまいつつも、竹刀で腰部を容赦なくぶっ叩いて一撃で消滅させた。

「まさに松山らしい敵ですね。踊りの上手さはリアルの有名連さんに引けを取らないかも」

「お小遣い稼ぎのためには戦わなきゃアウトだね♪」

 光穂と乃々晴も攻撃し始めてすぐ、

「ぐはぁっ!」

 柑菜が別の一体に弾き飛ばされた。

「大丈夫? 柑菜」

 文乃は心配そうに側に駆け寄る。

「この敵、攻撃力どのくらいあるのかわざと当たって確かめてみたけど、予想以上にダメージ受けちゃったよ。あばらにひび入っちゃったかも。ほうとう痛いよ」

 柑菜は脇腹を押さえながら、苦しそうな表情を浮かべていた。

「じゃあ早く、病院行かなきゃ。一人で立てる?」

 文乃は優しく手を差し伸べてあげる。

「柑菜様、これを食してつかーさい」

 夢子はリュックから取り出した一六タルトを柑菜の口にあてがった。

「おう、痛みがすっかり消えたよ。すごいわ~これ」

 柑菜は飲み込んだ瞬間に完全復活。自力で立ち上がる。

「あらまっ!」

 文乃は効能に驚く。

「リアルな一六タルトじゃ絶対起こりえないよな」

 武和は感心気味に呟いて、柑菜を襲った一体を竹刀二発で退治した。薄墨羊羹を残していく。

「このようにリアルなら入院、絶対安静レベルの大怪我でも瞬時に治るけん、皆様、怪我を恐れずに戦ってつかーさい」

「想像以上の治癒効果ですね。これは心強いわ」

「あたし、思いっ切り暴れまくるよ」

「すぐに治るって分かってても、私、痛い思いはしたくないよ」

「文乃ちゃん、俺が敵の攻撃から守るから安心して」

「大丈夫かな? 武和くん力弱いでしょ?」

 逆にちょっと心配され、

「俺を頼りにして欲しいな」

 武和は苦笑いする。

「また新たな敵モンスターが近づいとるけん、武和お兄さんが一人で倒していいとこ見せてあげなよ」

「分かった。姫だるまか。ゲームと同じく防御力は少し高そうだな」

「姫だるまは松山市内の敵では一番防御力高いぞなもし。ちなみに体力は11ぞなもし」

「二発くらいか?」

 武和はそいつに立ち向かっていき、竹刀を振り下ろそうとしたら、

「うぉわっ、びびった。こんな技も使えたのか」

 思わず仰け反ってしまった。

今しがた、髪の毛が伸びて彼の腕に絡み付こうとして来たのだ。

「モンスター化した姫だるまにはこういう仕掛けもあるんぞなもし」

 夢子が微笑み顔で豆知識を伝えた。

 同じ頃、

「なかなか素早いわね」

「あたしもヨーヨー攻撃かわされちゃった」

 光穂と乃々晴は近くに現れた、派手な衣装で豪快に乱舞する野球拳男二体と対戦中。

協力して一体をなんとか倒した直後、

「ワタシも協力するよ」

 柑菜は残る一体の背後からバット攻撃を見事命中させた。

「柑菜お姉ちゃんすごいっ! 一撃で倒しちゃった」

「バットはやはり攻撃力高いわね」

「ワタシも一撃で行けるとは思わんかったよ。会心の一撃が出たみたいじゃわ。武和お兄さんはまだ頑張っとるね」

「危ねっ。首絞められかけた」 

 武和は黒髪絡み付き攻撃をかろうじて避けると、姫だるまの顔面を竹刀で二発思いっ切り叩いた。これにて消滅。

「武和くん、強いね。これは本当に頼りになってくれそう」

「これくらい楽勝だったよ」

 文乃に満面の笑みで褒められて、武和はちょっと照れてしまう。

ほどなく、ラテン系の音楽が聞こえて来て踊りながら近づいてくる、煌びやかな衣装を身に纏った五体のお姉さん達がみんなの目の前に姿を現した。

「野球サンバのお姉ちゃんだぁっ!」

 乃々晴は満面の笑みが浮かべ、興奮気味に叫ぶ。

「野球サンバ姉ちゃんの体力はどの容姿も15ぞなもし。野球拳の踊り子より若干手強いくらいで特に問題ない雑魚ぞなもし」

 夢子が説明している最中に、

「ぐわぁっ!」

 武和は一体に腰振りで弾き飛ばされてしまった。

「武和くん、これ」

 文乃は薄墨羊羹を差し出し回復させる。

「武和お兄さん、見惚れてたじゃろ? 気持ちはよく分かるけど敵やけん油断はいかんよ」

柑菜もエロティックな姿にちょっとときめいてしまいつつも、容赦なく野球サンバ姉ちゃんの丸見せなおへそ付近をバットでぶっ叩いて一撃で消滅させた。

「サンバのお姉ちゃん、くらえーっ!」

 乃々晴は手裏剣と水鉄砲攻撃を同時に食らわし、二体まとめて消滅させた。

「モンスター化されてるのが勿体無いくらい見事な踊り方ですね」

 光穂はマッチ火を投げつけ、一体を消滅させる。

「炎魔法の代わりじゃね。ワタシもそれ使おう」

 残り一体も柑菜のマッチ火攻撃で消滅させた。

「あら、マッチ棒使ったのに減ってないわ」

「ほんまじゃ。魔法のマッチ棒じゃね」

「あたしの手裏剣の枚数も、よく見たら水鉄砲の中の水も全然減ってないよ。満タンのままだ」

「ゲーム内の武器やけん無限に使えるぞなもし。生クリームと黒インクとGペンもね」

「それはええこと聞いたよ。これから使いまくろっと」

「ちなみにマッチ火、外して草木とかに投げちゃっても火事の心配はないぞなもし」

「それも便利じゃね。おう、アニヲタっぽい男の子も前から来とるよ」

「あれも敵なのかしら?」

「俺も昨日あれからも計二時間近くはプレーしたけど見たことないぞ。でもCGっぽいし、本物の人間には見えんから敵だろう」

「一応ほうじゃ。いよのアニヲタ君、どの容姿も体力は8。レアな敵ぞなもし。オタク系の敵は各都道府県主に庁所在地やアニメの聖地に現れるぞなもし」

開店前のらしんばん松山店近くで遭遇したそいつは面長、七三分け、四角い眼鏡、青白い顔。まさに絵に描いたような気弱そうな風貌で、萌え美少女アニメ絵柄のTシャツを着てリュックを背負い、両手に萌え美少女アニメキャライラストの紙袋を持っていた。

「まさにうらなりって感じで見るからに弱そうだな。素手でも勝てそうだ」

 武和は得意げになる。

「攻撃するのはかわいそう」

 文乃は憐れんであげた。

「この敵、リアルからゲーム画面越しに見たらキャラに黒線やぼかしがかかっとるはずじゃけんどここでは消えとるね。リアルに現れたらこうなるんかぁ。っていうかゲーム内のと作品違うぞなもし。まあ流行りのアニメにはリアルとゲーム内でタイムラグあるけんね。皆様、護身用のナイフ攻撃をしてくる可能性もあるけん気をつけてつかーさい」

 夢子は感心しながら注意を促すも、

「面白そうなお兄ちゃんだね」

「ワタシもこのアニメ大好きよ。きみ、ユー○ォーテーブルと京○ニのアニメ好きそうじゃね」

 乃々晴と柑菜は躊躇いなく、いよのアニヲタ君のもとへぴょこぴょこ歩み寄っていく。

「……ボク、今忙しいんよ。ほっ、ほなね」

 すると、いよのアニヲタ君は慌てて逃走してしまった。

 これによりみんな、お金と経験値は得られず。

「ありゃりゃ、逃げんでもええのに。お話出来なくて残念じゃ」

「あのお兄ちゃん、百メートル十秒切りそうな速さだったね。壁もすり抜けてたね」

「全国どこのアニヲタ君も弱点は三次元の女の子なんぞなもし。体力と攻撃力はいよかんこまちより上じゃけど、すぐに逃げられるけんこのゲームでほんまの意味での最弱敵モンスターなんぞなもし。倒した時に貰える金額は二万円。松山市に出る敵モンスターでは破格なんぞなもし」

「それはぜひとも倒したいものじゃ。さすがアニヲタは金持っとるね」

 柑菜が感心気味に呟いていると、

「うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! ななちゃん、ななちゃん、ななちゃぁぁぁーんっ! 大大大好きだぁぁぁぁぁっ! シ○プリで亜○亜の声やってた頃からずっと応援してるよ。声優初の紅白出場者になれるっておれは当時から信じてた。ななちゃんは愛媛の誇りだぁぁぁっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ! ふぅっ!」

 こんな掛け声を上げながら時折ジャンプしつつ、青のサイリウムを両手でブンブン激しく振り回していた、背丈は一六〇センチくらい、体重は百キロを超えてそうなぽっちゃり体型青の法被を身に纏った三十代後半くらいの男の姿が。みんなの方へどんどん近づいてくる。

「武和くん、あの人怖いよ」

 文乃は武和の背後に隠れる。

「俺もそう思う」

「わたしも同じく」

 武和と光穂は動きを見て思わず笑ってしまう。

「夢子ちゃん、あれはCGっぽいけん敵じゃろう?」

「その通り。あれもレア敵、いよの声ヲタ君ぞなもし」

「声ヲタ君かぁ。ねえねえ、そっちの世界ではどんな声優さんが人気あるん?」

「お相撲さんみたいだね」

 柑菜と乃々晴はそいつにぴょこぴょこ近寄っていく。

「ぐはぁっ、いきなりサイリウム投げつけられたよ。もう逃げられてるし」

 柑菜は腹部にその攻撃を受け、弾き飛ばされてしまった。

「あたし、手裏剣投げたんだけどすごい勢いで逃げたから当たらなかったよ」

 乃々晴は唇を尖らせて残念がる。

 いよの声ヲタ君も、逃走によりお金と経験値得られず。

「いよの声ヲタ君は勇者達に出遭った瞬間、サイリウムで攻撃してすぐに逃げるんが特徴なんぞなもし。倒すんはかなり難しいぞなもし。ちなみに東京、大阪、名古屋、福岡ではご当地声ヲタ君以上に激しく狂喜乱舞して雄叫びを上げるアイドルオタクのモンスター、ドルヲタ君って敵も出るぞなもし」

 夢子がそう伝えた直後、

「アタシ、お兄ちゃんといっしょに遊びたいにゃん♪ お兄ちゃん、アタシのお写真撮ってぇ。お願ぁい♪」

 背丈一五〇センチちょっとくらい、ゴスロリファッションでネコ耳&紫髪ポニーテールな若い女の子にとろけるような甘い声で誘われ、武和は腕をぐいっと引っ張られた。

「あの、今忙しいから。って、こいつも、敵モンスターみたいだな。宙にちょっと浮いてるし、アニメ絵っぽいし」

武和はちょっと躊躇いつつも竹刀で腹部を叩き付けると、

「痛いにゃぁんっ!」

猫なで声を出してあっさり消滅した。

「武和様、惑わされんかったのはさすが女の子慣れしとるだけはあるぞなもし。レア敵のマツヤマッドレイヤー&メイドちゃん、容姿違いはあるけどどれも体力は10でレベル1でも竹刀一撃で倒せる雑魚じゃけど、あの敵についていったらええ体験は出来るけどお触り料とか撮影料とか請求されて全財産奪われるぞなもし。ゲーム上でも遭遇したら即攻撃するか逃げた方がいいぞなもし」

「敵モンスター名通り、悪質なレイヤーとメイドだな」

 武和は顔をやや顰めた。

「メイド、レイヤー系の敵はオタク街と呼ばれとる所が高頻度出没スポットぞなもし。地方都市でもけっこうおるよ」

「おう、レイヤーちゃんメイドちゃんまた登場じゃ♪ 壁から突然出て来たよ」

 柑菜は笑みを浮かべて喜ぶ。

さっきのとは容姿違いが計七体、みんなの前に行く手を塞ぐように現れた。

「きさまぁ、さっきはよくもウチの百合友を消してくれたなっ。許さんぞなっ!」

 チャイナドレスコスプレの子が怒りに満ちた表情でいきなり武和に飛び蹴りを食らわして来た。

「危ねっ! おう、消えた。武闘派っぽい風貌だったけど、たいしたこと無かったな」

 武和はひらりとかわしてこの一体の背中を竹刀で叩くとあっさり消滅。ちょっと拍子抜けしてしまう。

「お嬢様、どうぞこちらへ」

「いえ、いいです。興味ありませんから」

 文乃は青髪ショートな黒スーツ執事コスプレの子に手首を掴まれ引っ張られてしまう。

「客引き禁止!」

光穂がすぐに背後から扇子で頭をぶっ叩いて消滅させた。

「美味しくなりよ、美味しくなりよ。萌え萌えきゅんっ♪」

「うひゃっ、ケチャップぶっかけて来たかぁ。ワタシの顔はオムライスやないんよ」

 柑菜はパティシエメイド服姿栗色髪ツインテールなそいつのお顔に黒インクをぶっかけ、休まずバットで攻撃し消滅させた。

「ぶはっ、ミートスパゲッティまで」

 その直後に柑菜はまた顔にたっぷりぶっかけられてしまう。

「ごめんなさぁい、お嬢様。きゃぁんっ」

 巫女服姿で黒髪にカチューシャをつけ、眼鏡をかけた子がすぐ横にいた。とろけるような甘い声で謝罪するや、すてんっと転げて前のめりに。

「ドジッ娘ちゃんタイプかぁ。ほじゃけど敵やけん容赦はせんよ」

「きゃぅっ!」

 柑菜はその一体にもバットでお尻を叩き消滅させた。

「べつにあんたのために作ったわけじゃないんやけんねっ! たまたま作り過ぎちゃって、それで、捨てるのは勿体ないかなぁって、思ったんじゃ」

 乃々晴は背丈一五五センチくらい、セーラー服姿黒髪ロングの子から不機嫌そうな表情ながらも照れくさそうに、フルーツケーキをプレゼントされる。

「ありがとうコスプレのおばちゃん、すごく美味しそう♪」

「おばちゃんじゃなくてお姉ちゃんじゃろ。あたくしまだ十七歳なんやけん」

「えっ、どう見ても二十五歳くらいに見えるよ」

「そっ、そんなこと、あるわけないじゃろ」

「おう、学園モノのツンデレタイプじゃ。年齢は自称じゃけど」

 柑菜は嬉しそうに微笑む。

「乃々晴様、そのケーキ睡眠薬入りやけん食べたらあかんよ。マツヤマッドレイヤー&メイドちゃんはこんなあざとい攻撃もしてくるぞなもし」

「そうなの。やっぱり敵なんだね」

「ちょっとそこの三つ編みのあんた、営業妨害で訴えるけ、ん、ぶほっ、きゃんっ!」

 夢子から警告されると乃々晴はすぐに生クリームをこのメイドのお顔にぶっかけて、休まず腹部をヨーヨーでぶっ叩いて消滅させた。

その直後、

「この子、よいよかわいい。妖精さんみたいじゃ。お尻にお注射したいな。えへへっ」

「あーん、助けてー。あたしお注射嫌ぁい」

 乃々晴はナース服姿で緑髪ミディアムウェーブ、虚ろな目つきの一体にお姫様だっこされ、そのまま持ち運ばれてしまう。

「誘拐はダメですよ」 

 光穂はすぐに追いかけて扇子で背中を叩き消滅させた。

「あれはヤンデレタイプっぽかったよ」

 柑菜はにっこり微笑む。

「お兄ちゃん、アタシのお店『メランコリーメイドカフェ+』へ遊びに来て♪ お願ぁい。六百円から遊べるよ。萌え萌え萌え♪ ひめキュンキュン♪ ぞなもし♪」

「俺自身がそこへ行くのはまず無理だな」

 武和は若干呆れ顔で、背丈一四〇センチ台パジャマ姿ピンク髪ロングボブ、クマのぬいぐるみを抱えていた一体にマッチ火を投げつけて消滅させた。

 マツヤマッドレイヤー&メイドちゃん、これにて全滅。

「さっきの戦いはほうとう楽しかったよ♪」

 お顔の汚れもきれいに消えた柑菜は大満足だったようだ。

 引き続き大街道へ向かって歩き進めると、白衣に菅笠、金剛杖などを身に纏った、お遍路さんの格好をしたお爺さんが三体近づいて来た。

「あの敵モンスターはお遍路爺、体力は13ぞなもし」

「こいつ、ゲーム上では金剛杖の連続振り回し攻撃がかなりきつかったな」

 武和は攻撃される前に一体を竹刀ですばやく二発叩いて退治。

「かわいいお嬢さんじゃ。これからわしといっしょに浄瑠璃寺行こう」

「いやぁん、このお遍路のお爺ちゃん、エッチだよぅ」

 他の一体が金剛杖を使って文乃のスカートを捲って来た。

「四国全域に出没するお遍路爺はこんな猥褻な攻撃もしてくるけん、CEROがBになっとるんぞなもし。ゲーム上でも女の子を仲間にしてから遭遇させると見れるぞなもし」

 夢子はにこにこ笑いながら伝える。 

「煩悩まみれだな。っていうかリアルお遍路さんに失礼過ぎるだろ。訴えられかねんぞ」

 みかん柄のショーツを見てしまった武和は、とっさに目を背ける。

「お遍路爺さん、ダメですよ」 

 光穂がすばやくこの一体を扇子三発で退治。

「あーん、ワタシのスカートまで捲って来たよ。武和お兄さん、助けてー」

「俺じゃなくても倒せると思う」

 柑菜の純白ショーツをばっちり見てしまい、武和はまたも目を背けた。

「柑菜お姉ちゃん、あたしがやるぅ。くらえーっ!」

 乃々晴は楽しそうにヨーヨーで二発叩いて退治した。

 これにて全滅。道後ビールを落としていく。

「お遍路爺が稀に落とすこれも回復アイテムじゃけど、未成年の皆様が使うと体力減っちゃうぞなもし。ゲーム上では町中でアルコール飲料使ったら即効お巡りさんに説教されるぞなもし」 

「そんなイベントも起こるんかぁ。さすがリアル近似じゃ。せっかくのアイテムやけん持っとくよ。そういえば、夢子ちゃんは敵から全然攻撃されんね」

「そりゃぁうち、案内役やけん。RPGでも村人は攻撃されんじゃろ?」

「確かにほうじゃね。夢子ちゃんもいっしょに勇者として戦ったらええのに。スカッとするよ。あっ、あっつぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 柑菜は背後から全身に熱々の出汁をぶっ掛けられた。

 振り返るとそこには、高さ七〇センチ、直径一メール以上はあると思われる巨大なアルミ鍋に入ったうどんが。湯気も立っていた。

「ほうとう痛いよぅ」

 涙目になり苦しがる柑菜。

「柑菜、早く冷やさなきゃ」

 文乃は心配そうに近寄る。

「柑菜様、これを。他の皆様も熱々出汁のぶっかけに気をつけてつかーさい」

 夢子は母恵夢を柑菜に与えてあげた。

「鍋焼きうどんがモンスター化したやつだな」

「こんなのもいたのですね」

「俺はあれからも少し遊んだらこの敵にも遭遇した。ゲーム上でも熱々出汁攻撃は脅威だったな。レベル1の時に出遭ってたら勝てなかったと思う」

 光穂と武和がどうやって攻めるかを考えているうちに、

「柑菜お姉ちゃんを火傷させるなんてひどいうどんだね」

 乃々晴はヨーヨーで鍋側面を攻撃しようとした。

「飛び跳ねたっ! あつぅぅぅーい」

 しかしかわされ、腕に少し熱々スープをかけられてしまう。

「ワタシがとどめさすよ。仕返しじゃっ!」

 全快した柑菜はバットで鍋側面を叩こうとしたが、

「うひゃっ! 緊縛プレーまでしてくるなんてこのうどんもエッチじゃ」

 飛び出した麺に全身絡み付かれて身動きを封じられてしまった。

「おい鍋焼きうどん、麺の使い道間違ってるぞ」

 武和が竹刀ですばやく鍋側面を二発叩いて消滅させたのを見計らったかのように、

「うわっ、なんだこれ?」

 彼は背後から豚カツ、キウイ、りんご、オレンジなどがまじった生クリーム&アイスクリームをぶっかけられた。

「きゃっ!」

 文乃、

「何じゃこれ?」

 柑菜、

「体中べたべただぁー」

 乃々晴、

「これはひょっとして、とんかつパフェかしら?」

 光穂、

「その通りぞなもし。これは」

 夢子も巻き添えを食らった。

高さ二メートルくらいの巨大なグラスに盛られたパフェ型モンスターがそばにいた。

「こんな敵もいたのか。俺これは初めて見たぞ」

「とんかつパフェちゃんの体力は11、弱点は水ぞなもし」

「じゃあこれ使えばいいんだね」

 乃々晴は水鉄砲を取り出すと、すぐに発射。

 とんかつパフェちゃんはこれにてあっさり消滅した。

「べたべた感もなくなったぞ」

「わたしもすっきりしたわ」 

「汚される系のダメージは、戦闘が終わるとにおいと共に自然に消えるようになっとるんぞなもし。服の破れもね」

「それは便利だね」

 文乃はホッとした表情を浮かべる。

「確かにワタシについたうどん出汁の汚れもにおいもすっかり消えとるね。ほじゃけどさっきのはもう少し食べたかったよ」

「あたしもーっ。すごく美味しかったのに」

 柑菜と乃々晴がちょっぴり名残惜しそうにしていると、

「ぃやぁーん、醤油餅のモンスターが、服の中に潜り込んで来たぁ。あぁん、おっぱい吸い付かないでー」

 茶色く平べったいお餅型モンスターが数体、文乃に襲いかかった。

「醤油餅くん、色違いはあるけどどれも体力は9。こいつも最弱雑魚ぞなもし」

「やっぱあれもモンスターになっとるんじゃね」

 柑菜はバットで、

「俺はゲームではすでに何度か戦ったよ。女の子相手だとこんな攻撃もしてくるんだな」

武和は竹刀で直径三〇センチほどある醤油餅くんを次々と倒していく。

時同じく、

「これ全滅させたら、じゃこ天が貰えるのかなぁ?」

「そうだといいですね。きゃんっ! ジャンプして突進して来たわ。動き機敏ね」

「じゃこ天さん、体力は15でなかなか手強いぞなもし」 

乃々晴はヨーヨーで、光穂は扇子で近くに現れた、高さ一メートルくらいのじゃこ天型モンスター数体と戦闘を繰り広げていた。 

「武和くぅーん、助けてぇぇぇー。この巨大な一六タルトさんが、いきなり巻き付いて来て、胸を揉んでくるのぉぉぉー」

 その最中に文乃はまた新たな直径八〇センチくらいの一六タルト型敵モンスターに背後から襲われてしまった。

「あの巨大タルト、文乃お姉さんにエッチなことして幸せそうじゃね」

 柑菜は残る醤油餅くんをバットで攻撃しながら楽しそうに眺める。

「一六タルトん、体力は14。身動き封じの巻き付き攻撃に注意すれば雑魚ぞなもし」

「確かに雑魚だったな。柑菜ちゃん、あとは頼んだ。文乃ちゃん、ごめんね。敵の攻撃から全然守り切れなくて」

「気にしないで武和くん。何もない空間から突然現れるんだもん。対処しようがないよ」

 ゲーム上ですでに対戦経験ありな武和が竹刀で柚子餡部分をぶっ叩くとあっさり消滅した。

残りの醤油餅くん、じゃこ天さん、共に全滅させてみんなもう少し歩き進んでいくと、

「うわぁっ、おい、やめろっ!」

 武和が突如、背後から襲われた。

「武和くぅん!」

 文乃は深刻そうな面持ちで叫ぶ。

「おう、武和お兄さん緊縛プレーされよるぅ。これは萌えるよ」

 柑菜は嬉しそうにスマホのカメラに収めた。

「かっ、柑菜ちゃん、撮るなよ」

 皿から伸びて来た素麺で全身絡み付かれたのだ。

「五色素麺くん、体力は12。絡みつき身動き封じが得意なんぞなもし」

「武和お兄ちゃん、今助けるよ」

 乃々晴は遠くから手裏剣で皿側面を攻撃。

 見事命中。

「これは接近し過ぎたらやばそうじゃね」

 柑菜も手裏剣で皿側面を攻撃した。

「武和さん、お任せ下さい」

 光穂はマッチ火を武和に当たらないように投げつけた。

 これにて消滅。五色素麺の生麺を残していった。

「けっこうダメージ食らってしまった」

 武和も解放される。彼は坊っちゃん団子を三本食して全快させた。

「ひゃぁん、またエッチな敵が来たぁ~」

 文乃は今度は直径三〇センチくらいの、ピンク、茶色、よもぎ色などなどカラフルな蒸し菓子型モンスター十数体にまとわりつかれる。

「労研饅頭(ろうけんまんとう)のモンスターだぁ! あたしこれけっこう好き♪ 特にココア味の」

 乃々晴は嬉しそうににやけ、さっそくヨーヨーで数体まとめて攻撃し消滅させた。

「労研饅頭くんはどの味のタイプも体力10。ゲーム上でも集団で襲ってくるぞなもし」

「俺は正直、そんなに好きじゃないけどな」

 武和が竹刀、

「これ、おへんろ。二九話でも紹介されとったね」

 柑菜がバット、

「相変わらずリアルのより巨大ですね」

光穂が扇子攻撃を加え、あっさり全滅。モンスター化状態時と同じ種類の労研饅頭を残していった。

 みんなはまもなく大街道商店街へ差し掛かる。

「人通りが増えたためか、敵モンスターの姿全然見られなくなりましたね」

「よいよ全然会わんなったね」

「まあ大抵のRPGって街中には敵出ないもんな」

「敵さん、襲って来て欲しいなぁ」

 しばらく北方向へ歩き進み、三越の近くまで来ても一体も遭遇出来ず、光穂、柑菜、武和、乃々晴は残念そうに呟く。

「私はこのままずっと敵出ないことを願うよ」

「ゲーム上では大街道でも遭遇率高いけどね。皆様、このあとはよりユニークな敵が出没する道後温泉へ向かいましょう」

      ☆

 みんなは大街道停留場から路面電車に乗り、終点の道後温泉駅で下車。

「リアル坊っちゃんからくり時計、見れてよかったぞなもし」

 夢子は駅前に広がる放生園のからくり時計前でも、

「リアル道後温泉本館もなかなか風情あるぞなもし」

 道後ハイカラ通りを抜けた所に聳える本館前でも自前のデジカメで嬉しそうに写真撮影した。

 みんなは本館付近の路上を散策していくと、高さ1.5メートル以上はある、串に抹茶、黄、小豆の三色三つ刺さった巨大な団子型モンスターが多数、ぴょんぴょん飛び跳ねながら襲い掛かって来た。

「リアルジャンボ坊っちゃん団子よりも遥かにでかいな」

 武和は竹刀攻撃で容赦なく次々と退治していく。

「坊っちゃん団子くんは体力11ぞなもし。特に問題ない雑魚じゃ」

「火が弱点みたいね」 

「ほうとう美味そうじゃ。齧り付きぁい」

 光穂、柑菜はマッチ火を投げて一蹴した。

「あたしはこれで攻撃するよ」

 乃々晴も楽しそうに手裏剣で一蹴する。

 全滅後、坊っちゃん団子と、一本で通常サイズの九個分使われているジャンボ坊っちゃん団子を落としてくれた。

「坊っちゃん団子はゲーム上では一本につき体力5回復するのに対し、ジャンボ坊っちゃん団子は45回復するぞなもし」

「回復量、サイズに比例しとるんじゃね。おう、今度はマドンナじゃ。ええ匂いもして来たよ」

 柑菜は嬉しそうに呟く。背丈一五五センチくらいの色白でハイカラ頭、洋傘を差し袴姿で朗らかな表情をしたお姉さんが近づいて来た。

「オレンジみたいですね」

「私、オレンジの香り大好き」

「あたしもー。気分が安らぐね」

「武和様は、この匂い嗅いじゃあかんぞなもし。あっ、遅かったかぁ」

「あんぅ、武和くん、やめて」

「ごめん、なんか俺、文乃ちゃんの汗まみれのパンツ見たくてしょうがないんだ」

 武和はとろんとした目つきで文乃のスカートを捲ってしまう。

「武和お兄ちゃんが、エッチなお兄ちゃんになっちゃった」

 乃々晴は楽しそうに笑う。

「武和さん、普段は絶対そういう猥褻なことする人じゃないのに。この敵の力のせいね」

「マドンナの男の人によく効く魅惑の香水の力で、武和様はムラムラ状態に侵されちゃったんぞなもし」

「文乃お姉さぁん、大好きよ♪」

「かっ、柑菜ぁ。やめて。武和くんも柑菜も変だよぅ」

 柑菜からはほっぺたにディープキスをされてしまった。

「柑菜様、女の子なのに効いちゃうなんて、百合の気質を持ってるのかも」

 夢子は楽しそうににっこり微笑む。

「文乃ちゃん、俺、パンツの匂いも嗅ぎたい」

「文乃お姉さぁん、舌入れさせてー」

「んもう、武和くんも柑菜も早く正気に戻ってぇぇぇぇぇ」

 文乃は中腰の武和にショーツ越しだがお尻に鼻を近づけられ、柑菜に口づけを迫られる。

「すみやかに倒しましょう」

「マドンナのおばちゃん、くらえーっ!」

 光穂の扇子、乃々晴の生クリーム&ヨーヨーの容赦ない三連続攻撃によりあっさり消滅。いちご、ミルク、カフェオレ。三種類の味のお団子が串に刺さった【マドンナだんご】を残していく。

「あれ? 俺。うわっ、なんで文乃ちゃんの尻が俺の目の前に!?」

「ありゃ、ワタシさっきまで何を」

 武和と柑菜は途端に平常状態へ。

「武和お兄ちゃんと柑菜お姉ちゃん、文乃お姉ちゃんにずっとエッチなことしてたよ」

 乃々晴は楽しそうに伝えた。

「ごっ、ごめん文乃ちゃん!」

武和はすみやかに文乃から離れてあげ深々と頭を下げた。

「文乃お姉さん、百合なことしちゃったようで申し訳ない」

柑菜は文乃のお顔をじっと見つめたまま頬を火照らす。

「べつに、気にしてないよ。さっきの敵のせいだもん。きゃっ、ひゃぅっ!」

 文乃は新たな敵に背後から襲われてしまった。

「かわいいお嬢さんじゃのう。ええ桃尻じゃ。なあお嬢さん、わしといっしょに宿屋行こう。マドンナはおばさんやけんもう用済みじゃ」

「いやぁん、この赤シャツさん、エッチだよぅ。お尻にじかに触らないでぇぇぇ~」

 赤いシャツを身に着けた、カイゼル髭のおじさんにスカートを捲られ、もう片方の手でショーツの中に手を突っ込まれてしまう。

「いい光景でげす」

 その傍らに、透綾の羽衣を着た坊主頭の人物もいた。

「また『坊つちゃん』登場人物のモンスターか。赤シャツの腰巾着設定な野だいこもいるな」

 武和は思わず笑ってしまう。

「ゲーム上でも道後温泉に出没する夏目漱石の小説『坊つちゃん』登場人物型モンスターのデザインは、からくり時計と道後坊っちゃん広場の人形を参考にしたらしいぞなもし。赤シャツくんの猥褻攻撃は、ゲーム上でも女の子を仲間にしてから遭遇させると見られるぞなもし」

 夢子はにこにこ笑いながら伝える。 

「文乃ちゃん、すぐに退治するから」

 いちご柄ショーツをばっちり見てしまった武和は、竹刀を構えて赤シャツくんに立ち向かっていく。

「ちょっと待って武和様も、他の皆様も、もう少ししたら面白いイベントが起きるけん。文乃様、あとちょっとだけ我慢してつかーさい」

 夢子は申し訳なさそうにお願いする。

「早く何とかしてぇぇぇ」

 文乃が涙目で叫ぶと、どこからともなく二人の男の姿が。

五分刈りで袴姿な好青年と、ニッケル製の懐中時計を身に着けたあごひげのおじさん。

小説『坊つちゃん』の主人公坊っちゃんと、山嵐であった。

「だまれ」

 そう言って、山嵐は赤シャツくんに拳骨を食らわした。

「これは乱暴だ、狼藉である。理非を弁じないで腕力に訴えるのは無法だ」

 赤シャツくんはよろよろしながら主張する。

「無法でたくさんだ。貴様のような奸物はなぐらなくっちゃ、答えないんだ」

 山嵐はぽかんと殴って、さらにぽかぽか殴り続ける。

 時同じく、坊っちゃんも野だいこを散々に擲き据えていた。

「もうたくさんか、たくさんでなけりゃ、まだ撲ってやる」

 二人してぽかんぽかんと殴ったら、

「もうたくさんだ」

 と赤シャツくんは言った。

「貴様もたくさんか?」

 坊っちゃんが野だいこにも訊くと、

「無論たくさんだ」

 と答えた。

「貴様等は奸物だから、こうやって天誅を加えるんだ。これに懲りて以来つつしむがいい。いくら言葉巧みに弁解が立っても正義は許さんぞ。おれは逃げも隠れもせん。今夜五時までは浜の港屋に居る。用があるなら巡査なりなんなり、よこせ」

 山嵐と、

「おれも逃げも隠れもしないぞ。堀田と同じ所に待ってるから警察へ訴えたければ、勝手に訴えろ」

 坊っちゃんがこう言って、二人してすたすた歩き出すとまもなく姿が消滅し、その刹那に赤シャツくんと野だいこの姿も消滅した。

坊っちゃん団子と、伊予絣の浴衣も残していく。

「こんなことが起きるんか。なかなかええもんが見れたよ」

「面白い劇だったね」

 柑菜と乃々晴は楽しそうにくすくす笑っていた。

「原作通り、坊っちゃんと山嵐が赤シャツさんに天誅を加えましたね」

「セリフも原作そのままだし、なんとも滑稽だったな」

 光穂と武和も微笑んでしまう。

「解放されて助かったけど、赤シャツさんもあんなひどいやられ方されちゃうなんてかわいそうだよ」

 文乃はホッとした表情を浮かべるも、赤シャツくんに同情もしていた。

「ゲーム上では女の子を仲間にしてから赤シャツくんと遭遇させて、女の子が襲われた後、しばらく攻撃せずにいるとこういう光景が見れるぞなもし」

「別に見たくはないけどな。ぐはっ、いってぇぇぇっ! 誰だ?」

 武和は微笑み顔できっぱりと主張した直後、後頭部に野球ボールをぶつけられた。

 そのボールは地面に落ちた瞬間に消滅する。

「大丈夫? 武和くん」

「うん、なんとか」

「間違いなく正岡子規肖像画のしわざぞなもし」

 夢子の推測通り、

「どうじゃ」

正岡子規の肖像画型モンスターが。人間の言葉でしゃべった。高さは一メートル、横幅も一メートルくらいだった。

「こいつまでモンスターになってるのかよ」

「さすが松山ですね」

「よく見る横顔のだね」

「あたしも知ってるぅ。俳句と野球の人だよね」

「道後公園や子規堂、坊っちゃんスタジアム付近にも出没する正岡子規肖像画。体力は16。得意技は俳句詠唱、糸瓜と野球ボールの射撃ぞなもし。紙だと侮っていると痛い目に遭うぞなもし」

「漱石攻め子規受けで同じ部活の子でBL描いとった子がおったよ。ワタシは正直絵が気に入らんかったけど」

「ホホホ、BLとは何かは全く知らぬがそこのボサボサ髪のお嬢さん、この糸瓜を一輪だけにしてみんかな?」

 正岡子規肖像画は柑菜目掛けて数輪の糸瓜を投げつけて来た。

「切り裂いたるよ」

柑菜は楽しそうにカッターでズバッと切り付ける。

十輪あった糸瓜が三輪に減った。

「いたたたぁっ」

 地面に落ちた七輪の糸瓜はぴょんっとジャンプして柑菜の頬を花びらでパチンッと思いっ切りビンタした。柑菜の頬もスパッと切れて血が噴き出してくる。

「危ない糸瓜さんね」

 光穂がこの糸瓜にマッチ火を投げつけて消滅させた。

「柑菜、お花を傷付けるのは罰当たりだよ」

「まさかあんな攻撃してくるとは思わんかったんよ」

 文乃から受け取った労研饅頭よもぎつぶあん味を食して、柑菜の頬の傷は瞬く間に消える。

「えいっ!」

 光穂は正岡子規肖像画を扇子で仰いで対抗すると、

「秋風の姿すゝきになかめけり」

 正岡子規肖像画は吹き飛ばされてしまったものの、自身の詠んだ句を呟く。

「やっぱ紙だね。水攻めにしちゃえーっ!」

乃々晴は水鉄砲で子規の顔面を攻撃。

「世の塵を水に流すや向島」

 正岡子規肖像画はこう呟いて得意げに笑っていたが、紙はしっかりふやけていた。

「こんな表情の子規さんが見れるなんて得した気分♪」

 光穂の表情も綻ぶ。

「さっきより動き鈍ってるよな」

 武和はにやりと微笑み、竹刀で横顔をぶっ叩いた。

「零落や竹刀を削り接木をす」

 正岡子規肖像画は涙目を浮かべ、こう呟くと、

「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」

 こんな名句を呟いて懐から柿を取出し、食した。

 するとリアル肖像画通りの表情へ戻った。

「回復しよったよ。子規ちゃん、なかなか渋い声じゃね。声優誰なんじゃろ?」

 それでも柑菜がバットでもう一発禿げ頭をぶっ叩くと、

「糸瓜咲て痰のつまりし仏かな。痰一斗糸瓜の水も間に合わず。をとヽひのへちまの水も取らざりき」

正岡子規肖像画はこう言い残して消滅した。伊予柑乳菓【坂の上の雲】を残していく。

「有名な句呟いていったな。うわっ、眩しいっ! 今度は何だ?」

 武和が楽しそうに微笑んでいると、突如まばゆい光が彼の目をくらました。

「ぐわっ、さっきボスンッて体当たりされたぞ」

 直後に武和は腹部に軽いダメージ。ガラスで出来た、高さ十五センチほどのグラス型の物体が縦横無尽に空中を動き回っていた。

「ぎやまんガラス美術館の展示品のモンスターみたいじゃね。うひゃっ、眩しいよぅ」

「太陽直接見たみたいだよ。ハエみたいな動きだね。当たらないよう」

 バット攻撃をしようとした柑菜、ヨーヨー攻撃をしようとした乃々晴にも青色発光攻撃を食らわす。

「いたぁっ、尖ってるけん効くわ」

「痛い、痛い。突き刺されちゃった」

 さらに体当たり攻撃も受けてしまう。

「どの種類も体力10のぎやまんガラス工芸くんに対しては、ゲーム上ではサングラスを装備すると光攻撃防げるぞなもし」

「この敵の弱点は?」

 光穂が問いかけると、

「光ぞなもし」

 夢子がすぐに教えてくれた。

「光かぁ。得意技が弱点になってるなんて、カメムシさんが自分のにおいで気絶するような感じなのね。これを使おう!」

 光穂はデジカメを取り出し、ぎやまんガラス工芸くんをフラッシュモードで撮影する。

 これであっさり消滅。JR松山駅の駅弁として長年親しまれている【醤油めし】を残していった。

「やっと普通に目が見えるようになった」

「なかなか強敵じゃったよ」

「光穂お姉ちゃん、デジカメが武器になったね」

 武和、柑菜、乃々晴の視力も瞬時に元の状態へ戻る。

「光穂ちゃん、機転を利かせた攻撃だったね」

 文乃は深く感心した。

「皆様、とべ動物園に出る敵もぎょうさん散らばってしもうとるみたいやけん、今治行く前にまずそこを攻略していきましょう。そっちのが敵弱いけん」

「ダンジョン攻略かぁ。魔物がいっぱいいそうで楽しみじゃ」

「あたしもわくわくして来たよ♪」

「俺もRPGの博物館や図書館のダンジョンはけっこう好きだな」

「わたしも好きですよ」

「私がちっちゃい頃からよく行ってるとべ動物園にまで敵が出るなんて、嫌だなぁ。怖いなぁ」

「文乃様、一般人が多かったら敵は出んと思うけん、安心して歩いてつかーさい」

           ☆

道後温泉駅から路電を乗り継ぎ伊予鉄松山市駅前へ戻ったみんなは、そこからはバス利用で、とべ動物園を訪れた。

園内を散策し始めてすぐに、とある展示動物が空間上に突如現れ、

「クサガメからご登場か。防御力高そうだ。スネークハウスにいるやつだな」

 武和は感心気味に呟く。

「あいつはとべ動物園クサガメ。体力は19。攻撃力、防御力共に高いぞなもし」

「松山市内よりやっぱ強いんじゃね。とりゃっ!」

 柑菜は甲長二メールくらいあったそいつの甲羅にバットでさっそく攻撃し始める。

「五発で消えたよ。一発叩いたら体引っ込めて何もして来なくなったよ。楽勝過ぎじゃ」

 ダメージ食らわされず簡単に倒して、自慢げに伝えた。

 砥部焼の登窯を模した乳菓【登窯の里】を残していく。

「登窯の里は体力が20回復するぞなもし」

「確かに体はリアルクサガメよりでかくて甲羅も硬いけど弱過ぎだな。俺は四発だ」

「あたしは五発ぅ。最初は口を開けて襲ってくるけど動き遅いし、一発食らわせたら勝ったも同然だね」

 近くに現れたもう二頭を武和は竹刀、乃々晴はヨーヨーを用いて手分けして倒した。またしても登窯の里を落としていく。 

「柑菜、武和くん、乃々晴。亀さんいじめちゃダメだよ。かわいそう」

「文乃さん、そんな気持ちではまた攻撃されちゃいますよ」

「文乃様、とべ動物園クサガメの噛み付き攻撃はかなり痛いんぞなもし」

「文乃お姉さん、旅始めてから一回も敵攻撃してへんやん。ここは心を鬼にして退治しなきゃ」

「それは、かわいそうで出来ない」

 文乃は困惑顔でぽつりと呟く。

「文乃様、敵モンスターは触感はあるけどグラフィックで出来てて命は宿ってないけん、容赦なく攻撃したらええんぞなもし」

「グラフィックでも、やっぱり無理だよ」

「文乃様、そんな甘いこと言ってるうちに背後に敵が」

 夢子はやや表情を引き攣らせ、慌てて伝える。

「えっ!」

 文乃はくるっと振り向くや、

「ぎゃあああっ!」

 甲高い悲鳴を上げて、そこにいた敵を和傘で殴りつけた。

 一撃で消滅。体長一メートル以上はある巨大な爬虫類型モンスターがいたのだ。

「さっきのはとべ動物園グリーンイグアナ、体力は17ぞなもし。姫だるま以上に防御力高いけど文乃様、会心の一撃が出ましたね」

「文乃お姉ちゃん、すごぉい!」

「やるやん文乃お姉さん」

「お見事でした。文乃さんに爬虫類や昆虫、節足動物、両生類型の敵と戦わせると、常に会心の一撃を出せそうですね」 

 乃々晴と柑菜と光穂はパチパチ拍手する。

「怖かったよぉ~」

 文乃は涙目を浮かばせ、武和にぎゅっと抱き付いた。

「確かにあんなにでかいイグアナは怖いよな。あの、文乃ちゃん、わざわざ抱き付かなくても。あっ! アシカも来たぞっ!」

 武和はちょっぴり照れくさい気分で接近を伝えた。

「ほんまじゃ。アシカが宙を舞ってるし」

「アシカさんだぁ。あたしこの動物大好き♪」

「私も大好きだな」

「この敵はどんな攻撃をしかけてくるのかしら?」

「とべ動物園アシカの体力は34ぞなもし」

 夢子が伝えた直後。

 ア~オ、アォアォアォアォアォアォアォォォォォォォーッ!

 とべ動物園アシカは大きな鳴き声を上げた。

「不気味過ぎるわこの鳴き声、精神がおかしくなりそうじゃ」

「これはやばいな」

「あたしも変になっちゃいそう」

「私もだよ」

「わたしも同じく。リアルなアシカさんの鳴き声と違い、不気味ですね」

 武和達は動きが鈍ってしまう。

「皆様、耳を塞いで聞かないようにしてつかーさい。混乱状態になっちゃうよ。こいつの弱点は音ぞなもし。文乃様。早くヴァイオリンを」

 夢子は注意を促した。彼女にはなぜか効果がなかったようだ。

「分かった」

 文乃は急いでリュックからヴァイオリンを取り出し、メリーさんの羊を演奏し始めた。

 すると、とべ動物園アシカは叫ぶのをやめてくれたのだ。

「文乃ちゃん良くやった。鳴き声さえなければ弱そうだ」

武和の竹刀二連打で頭を叩いて退治完了。

「文乃様、上手くいきましたね。不気味な声には耳障りな音で対抗するのが一番いいんぞなもし」

「私のヴァイオリン、やっぱり耳障りなんだね」

 文乃はしょんぼりしてしまう。

「文乃お姉さん、今回は楽器の下手さが武器になったけん喜びなよ」

 柑菜はにっこり笑って慰めてあげた。

「あたしはそんなに耳障りじゃなかったよ」

「おーい、今度はマレーバクが来たぞ」

 武和が体長二メートルくらいの哺乳類型モンスターの接近に最初に気付く。

「なんか私、眠くなって来ちゃった」

「あたしもー」

「ワタシもや」

「俺も、急に睡魔が」

「わたしも眠いですぅ」

「皆様、とべ動物園マレーバクちゃんは催眠術を使ってくるよ。眠ったところを突進してくるのがこいつの攻撃方法ぞなもし。こいつの顔を見ないように」

 夢子も眠たそうにしながら注意を促した。

「さっさと片付けないとな」

 武和が寝惚け眼を擦りながら竹刀二発で退治。

 すると途端にみんなの眠気が冴えた。

 引き続き園内を歩き進んでいると、

「いたたたぁ。ドジョウ当てられたぁ」

 乃々晴は死角になっている所から先攻された。

「これは絶対コツメカワウソのしわざだろ」

 武和の推測通り、体長一メートルくらいのコツメカワウソ型モンスターがまもなくみんなの前に姿を現した。

「とべ動物園コツメカワウソ、体力は29ぞなもし」

「よくもやったなぁ。仕返しーっ!」

 乃々晴はヨーヨーを頭に叩き付けた。

 キュィ、キュィーン!

 とべ動物園コツメカワウソは痛がっているような鳴き声を上げる。

「なんかかわいそうだよ」

 文乃は同情してしまった。

「でも敵なんだよ」

 乃々晴は警告しておく。

「コツメカワウソちゃん、ドジョウよりこれのが美味いけんこれ飲み」

柑菜は道後ビールをぶっかけた。

 すると、とべ動物園コツメカワウソは頬を赤らめて笑い出し、ふらふらしながら小石を自分の頭にぶつけて自滅したのだ。

「ありゃまっ」

 柑菜は拍子抜けしたようだ。

「酩酊状態になっちゃうと、自分で自分を攻撃したり仲間を攻撃したりして自滅する場合もあるぞなもし。この場合は経験値とお金入るよ」

 夢子は微笑み顔で伝える。

「それはええこと聞いたよ。一回使ったら消えてまうんは勿体ないよなぁ」

「シロクマちゃんはモンスター化して登場しないのかなぁ?」

乃々晴はシロクマの檻の前でわくわく気分で呟く。

「人気者の動物をモンスター化するのは良くないよなという製作者の意図で、ゾウとかトラとかライオンとかもされてないぞなもし」

 夢子はにっこり笑顔で伝えた。

「そっかぁ。ちょっと残念」

「そもそも動物園の動物さんをモンスター化するのはおかしいよ。ご当地色も薄いし」

 文乃は困惑顔で主張しておいた。

「おーい、みんな、今度は砥部焼が襲って来たぞーっ!」

「砥部焼のモンスター、ここでも現れるのね」

 直後に武和の光穂の声。直径三〇センチくらいある砥部焼の皿型モンスターが計四枚、ひらひら宙を漂っていたのだ。

「砥部町内全域に出没する体力25の砥部焼衛門はかなり防御力高いぞなもし」

「高級感漂ってて攻撃し辛いな」

 武和は竹刀三発で、

「よいよ高そうじゃね。ほじゃけどモンスターやけん容赦なく割っちゃうよ」

 柑菜はバット攻撃四発で一枚を消滅させた。

「きゃんっ。痛いっ!」

 光穂は残る二枚のうち一枚を扇子で叩こうとしたがかわされ、腹部に突進されて少しダメージを負ってしまう。

「まとめて割っちゃえーっ!」

 乃々晴のヨーヨーぶん回し攻撃連続三回転で二枚ほぼ同時に消滅させた。

そのあとは敵モンスターに遭遇することなく、とべ動物園から脱出出来たみんなはバス&路電利用でJR松山駅前まで戻ると、

「今治行くのは中一の時以来だな」

武和が代表して六人分の今治までの乗車券&特急券を購入した。

「バリィさんは敵モンスターとして出て来ないのかなぁ?」

 乃々晴は駅構内設置のバリィさん像を眺めながらわくわく気分でこんなことを呟く。

「敵としては出て来ないぞなもし。みきゃんもね。さすがにゆるキャラをモンスター化するのは著作権的にも無理ぞなもし」

 夢子はにっこり笑顔で伝えた。

「やっぱりそっかぁ。残念だなぁ」

「ワタシもバリィさんやみきゃんと戦いたかったよ」

「俺も」

「わたしも、ちょっと」

「みんな、バリィさんやみきゃんを攻撃対象物として見ないで」

 全国のゆるキャラ好きな文乃は、ぷっくりふくれてちょっぴり不機嫌そうに苦言を呈しておいた。彼女はバリィさん&みきゃんグッズもけっこうたくさん所有しているのだ。 

     

ともあれみんなは岡山行き特急しおかぜに乗り込み、今治駅到着後。

「戦う前にお昼ご飯食べよう。もうお昼過ぎとるけん。ワタシ、回復アイテムけっこう使ったけど普通にお腹すいて来たよ」

「回復アイテムは食糧代わりになるほどカロリーないけん、よほど大量に摂取せんと満腹感は得られんぞなもし」

「リアルのものと同じか凌駕するくらいの美味しさなのに、そんな仕組みになっているのは素晴らしいですね」

「ちなみにゲーム上では日中、ゲーム内時間で七時間くらい食事させずに旅させ続けとったら空腹の表示が出て敵からダメージ受けんでも体力減ってくるぞなもし」

「そこも面倒なリアル感だな」

 まずは駅近くのファミレスにて昼食を済ませ、そのあとバス利用で来島海峡&しまなみ海道絶景スポットとなっている糸山公園を訪れた。

展望館付近を散策し始めてほどなく、さっそくご当地の敵モンスターとご対面。

いろんな種類のタオルが浮遊したり跳ねたりしながら近づいて来た。

「やはりタオル製品の数々がモンスターになってましたか」

「お土産に欲しいなぁ」

 光穂と文乃はその姿を見て和んでしまう。

「ゲーム内ではタオル美術館内にも出没する今治のタオル達。体力は14から37まであるけんどどれも雑魚じゃ。ゲーム上では一回の戦闘につき五種類くらいで襲ってくるぞなもし」

「確かに弱そうだけど、素早過ぎる。なかなか当たらんぞ」

 武和が竹刀、

「ひらひらして当たりにくぅい」

乃々晴がヨーヨーでぶっ叩き、

「いたたたっ、首絞めてこようとして来やがったよ」

柑菜がバットとGペンを用いて、三人で何度か空振りになりながらも一分足らずで全滅させた。モンスター化状態時と同じ柄の今治タオルを残していく。

またすぐに新たなご当地敵モンスターが。

「今度は鯛だぁ。美味しそう。あたしお刺身で食べたいな」

「ワタシも刺身派よ」

「私もー。愛媛の鯛はすごく美味しいよね」

「わたしは鯛めしも大好きですよ。あの大きさなら、かなりの人数分ありそうですね」

体長は二メートルくらいあり、海中で泳いでいるのと変わらぬ動きで宙を漂っていた。

「来島海峡の鯛ちゃん、体力は28。お隣徳島編の鳴門の鯛ちゃんに比べればかなり弱いぞなもし」

「的が大きいから楽に勝てそうだ」

 武和が果敢に立ち向かっていったら、

「うぉわっ!」

 急にくるっと向きを変えた来島海峡の鯛ちゃんに体当たりされ吹っ飛ばされてしまった。

「鯛の体当たり食らったら大ダメージ貰うぞなもし。他の皆様も気をつけてつかーさい」

 夢子は注意を促しながら武和に一六タルトを与えた。

「サンキュー夢子ちゃん、俺たぶん腕折れてたと思う」

 武和、完全復活。

「あんなに機敏に動けるなんて、やばそうじゃ。逃げるって選択肢もありじゃよね?」

「ここは逃げましょう」

「その方がいいよ。武和くんみたいに大怪我しちゃう」

「あたしは戦いたいけどなぁ」

「うわっ! 私の方襲って来たぁ」

 文乃はとっさにその場から逃げ出す。

「俺に任せて。今度は上手くやるから」

 武和はマッチ火を来島海峡の鯛ちゃんに向かって投げつける。

 来島海峡の鯛ちゃん、一瞬で炎に包まれて瞬く間に消滅した。

「武和お兄ちゃんすごーいっ! これぞ本当の鯛焼きだね」

「武和様、弱点を上手く利用しましたね」

「やっぱ武和お兄さんは主人公じゃ」

「ありがとうございます武和さん」

「武和くん、勇気あるね」

「いや、そんなことないと思う」

 武和は照れ笑いする。嬉しく思ったようだ。

「さっきの敵に関しては姿残しといて欲しかったよ。ぎゃんっ、いたぁい」

 柑菜の体にビリッと痛みが走る。

「いってぇっ! 俺も食らった。くらげの攻撃だな。動け、ない」

 武和の予想通り、すぐそばに傘の直径三〇センチくらいのアカクラゲ型モンスターが空中を漂っていた。

「柑菜様、武和様。痺れ状態に侵されちゃいましたか。クラゲの針は毒針やけんど、この場合毒状態やないけん毒消しでは回復出来んぞなもし。倒すかしばらくすれば自然に治るぞなもし。伊予あかくらげ、針攻撃は危険じゃけど体力は21しかなくて防御力も低いぞなもし」

「モンスターくらげさん、くらえーっ!」

 乃々晴の手裏剣一撃であっさり消滅。

「体が動かんかったけど、マッサージされとるみたいでけっこう気持ちよかったよ」

「俺は不快に感じたけどな」

 柑菜と武和は痺れ状態から回復した。

「あっ、焼き鳥だ。あれも美味しそう♪」

 文乃は、ぴょんぴょん飛び跳ねながら近づいてくる数体の五〇センチくらいの大きさのそいつをうっとり眺めてしまう。よく知られている焼き鳥とは違い、串に刺さっておらず鶏皮が鉄板焼きされたようになっていた。

「あちちっ!」

 武和は、今治焼き鳥くんが超高速回転したさいに飛び散った熱々たれをぶっかけられた。

「武和様、体力34の今治焼き鳥くんに接近戦は危険ぞなもし」

「焼き鳥さん、くらえーっ!」

 乃々晴は楽しそうに水鉄砲をぶっかけて消滅させた。

「バリィさんの焼きしょこら残していったよ。太っ腹な敵じゃね」

 柑菜はマッチ火で真っ黒焦げにして消滅させたのち、残していった回復アイテムを嬉しそうに拾い上げアイテムに加えた。

「バリィさんの焼きしょこらはゲーム上では体力が15回復するぞなもし」

夢子が伝えている途中で、

「おっと、危ねっ!」

 武和は直径四〇センチくらいある、骨付き鶏の空揚げ型モンスター数体に突進されそうになったが辛うじてかわした。

「凶暴せんざんきだぁ!」

「この今治名物もけっこう美味いよね」

 乃々晴のヨーヨー、柑菜のバット、

「防御力、見た目通り焼き鳥くんよりは高いな」

武和のマッチ火攻撃によりあっさり消滅。

「体力35のせんざんきちゃんの突進攻撃は来島海峡の鯛ちゃんの体当たり以上に大ダメージ食らうぞなもし。武和様、素早さも旅開始直後よりほうとう上がっとるね」

 夢子が褒めた直後に、

「いやぁん、なんかべっとりした目玉焼きと、煮豚が頭に覆い被さって来ましたぁ。前が見えませぇん」

 光穂が何者かに先攻された。

 直径一メートル以上はある巨大皿に盛られた料理型モンスターに襲われたのだ。

「今治名物B級グルメ、焼豚玉子飯のモンスターか。友近さん、大丈夫か?」

「息苦しいですぅ」

「重いな」

 武和は光穂の頭にこびり付いた、焼き豚のたれ付き半熟目玉焼きと煮豚を手掴みして引き離してあげた。

「ありがとうございます武和さん。疲れました」

 光穂は体力をかなり消耗してしまったようだ。お顔と髪と上着も半熟の黄身とたれでべとべとにされていた。

「光穂ちゃん、これ食べて」 

 文乃は登窯の里を与えて全快させてあげた。

「焼豚玉子飯ちゃんは体力27ぞなもし。皆様、身動き封じに注意してつかーさい」

「分かった。うわっ、動き早っ!」

 武和も巨大皿から新たに飛び出した半熟目玉焼きと煮豚に包み込まれてしまう。

「鬱陶しい」

 けれどもすぐに自力で引き離した。

 次の瞬間、焼豚玉子飯ちゃんは急激に弱った。

「生クリームかけたらこうなっちゃった」

 乃々晴はにこにこ微笑む。巨大皿に盛られた半熟目玉焼き目掛けてぶっかけたのだ。

「乃々晴様、不味くしちゃったね。ちなみにこの敵、焼き豚のたれで攻撃すると逆に体力回復しちゃうぞなもし」

 夢子も楽しそうに笑っていた。

「そんな武器もあるんじゃね。あとはワタシに任せて」

 柑菜がすみやかにマッチ火を投げつけて消滅させると、バリィさんのカップラーメンを残していった。光穂と武和の体に付いた汚れもきれいに消える。

 みんなは付近を引き続き歩き回っていると、

「うわっ」

 武和、

「きゃっ!」

 文乃、

「びちょびしょになっちゃったよ」

 柑菜、

「体中べたべただぁー」

 乃々晴、

「磯臭いわ」

 光穂、

「冷たいぞなもし。これは『来島海峡のうずしおくん』のしわざじゃね」

 夢子、

全員背後から海水をぶっかけられた。

「どうだおまえら」

すぐ近くに渦の形をした物体が。そいつは人間の言葉でしゃべった。

「また先攻されちゃったわ。来島海峡のうずしおくんさん、これくらいでわたし達が怯むと思った?」

「冷たいけど、物理的ダメージはないぞ」

 光穂と武和は怒りの表情だ。

「おれの必殺技はこれだけじゃないんだぜ。くらえっ! は・か・た・の・しお」

 来島海峡のうずしおくんは自信満々にそう言うと、体を超高速回転させた。

 周囲一体にブワアアアアアッと突風が起きる。

「きゃあっ!」

「いやぁん、こいつ海水の癖にエッチじゃ」

 文乃と柑菜のスカートが思いっ切り捲れ、ショーツが丸見えに。

「うわっ!」

 武和はとっさに視線を逸らす。

「よそ見するなよ少年。せっかく見せてやったのに」

「ぐわっ!」

 来島海峡のうずしおくんにタックルを食らわされてしまった。

「いってててっ、背骨折れたかも。起き上がれねえ」

 武和は弾き飛ばされ地面に叩き付けられてしまう。海水もけっこうかかった。

「武和くぅん、大丈夫?」

 文乃は心配そうに駆け寄っていく。

「文乃お姉ちゃん、危なぁいっ!」

 乃々晴は文乃の背後に迫っていた今治焼き鳥くんをヨーヨーで攻撃。

 会心の一撃で退治して、鶏卵饅頭を手に入れた。

「ありがとう乃々晴」

「どういたしまして」

「文乃様、戦闘中に他の仲間の心配をし過ぎると、自分もやられちゃうぞなもし。武和様ならうちが回復させるぞなもし。武和様、これを」

 夢子はすぐさま醤油餅を武和に口に放り込んだ。

「おう、痛み消えた」

 武和、瞬時に完全回復だ。

「武和さん、わたしは問題なしですよ。あれ?」

 光穂の穿いていたショートパンツもビリッと破れて、クマちゃん柄のショーツがまる見えに。

「俺、何も見てないから」

 武和はとっさに顔を背けた。

「光穂お姉さんのパンツもかわいいよ」

 柑菜はにやける。

「あの、武和さん、なるべく早く忘れて下さいね」

 光穂は頬をカァッと赤らめ、ショートパンツを両手で押さえながらお願いする。

「分かった」

 武和は光穂に対し、背を向けたまま承諾した。

「油断したな」

 来島海峡のうずしおくんは表情は分からないが、嘲笑っているように思えた。

「来島海峡のうずしおくんの体力は41ぞなもし。弱点は熱風」

「ついにこれが役立つ時が来たね。来島海峡のうずしおくん、くらえーっ!」

「海水のくせに生意気じゃ」

「ぎゃふん」

 乃々晴のドライヤー攻撃と柑菜のマッチ火攻撃で退治成功。

 伯方塩まんじゅうを残していった。

「よかった♪」

 ショートパンツの破れも元に戻って光穂はホッと一安心した直後に、

「きゃっあん! 真っ暗です」

 また何かに今度は上空から襲われてしまった。

「光穂ちゃんが閉じ込められちゃったっ!」

 文乃は慌てて呟く。

「息苦しいです。熱いです」

 光穂は高さ二メートくらいの茶碗型モンスターに覆い被されてしまったのだ。

「桜井漆器くん、体力は39。今治市に出る敵じゃ菊間鬼瓦に次いで防御力高いぞなもし。弱点は無し。火にも強いぞなもし」

「伊予桜井の伝統工芸、桜井漆器のモンスターかよ。友近さん、すぐに助けるからな」

 武和はさっそく竹刀で攻撃。一撃では倒せず。

「とりゃぁっ!」

 柑菜もすみやかにバットで攻撃。まだ倒せなかった。

「すごく硬いね」

 乃々晴のヨーヨー攻撃。これでも倒せず。

 武和達がもう一度攻撃を加えようとしたところ、桜井漆器くんは消滅した。

「皆さん、ご協力ありがとうございます。酸欠になりかけました。あと十秒遅れてたら体力0になってたとこでした」

 代わりに現れた光穂はハァハァ息を切らし、汗もいっぱいかいていた。彼女も中から扇子で攻撃していたようである。

「光穂ちゃん、これ食べて」

 文乃は鶏卵饅頭を与え、光穂の体力を全快させた。

「わたし、今治では酷い目に遭わされてばかりだな」

 光穂はしょんぼりした気分で呟く。

「光穂様、元気出してつかーさい。次に向かう場所では光穂様の本領を発揮出来るイベントがあるけん。それは光穂様がおらんと突破出来んと思うぞなもし」

「どんなイベントなのかしら?」

「それは着いてからのお楽しみということで」

 夢子とこんな会話を弾ませている最中、

「ん? 乃々晴ちゃん、どうした? 体調悪いのか?」

 武和は異変に気付き、優しく気遣ってあげる。

「あたし、ちょっと頭がくらくらして来たの」

 乃々晴は砂浜に座り込んでしまっていた。

「乃々晴、大丈夫?」

「乃々晴さん、熱中症になっちゃったみたいね」

 文乃と光穂は心配そうに話しかけた。

「そうみたい」

 乃々晴は俯き加減で伝える。

「炎天下で長時間戦い続けとったけんね。乃々晴、日陰に移動させたるよ」

 柑菜がおんぶしてあげようとしたら、

「乃々晴様、これ食べてね」

 夢子はいよかんジュレを差し出す。これもゲーム内にあったものだ。

「ありがとう夢子お姉ちゃん」

 乃々晴は一気に平らげると、

「気分、すごく良くなったよ」

 瞬時に完全回復。

「よかったね乃々晴様。ちなみに熱中症の状態異常はゲーム内今治タオルでも全快出来るぞなもし」

 夢子がにっこり笑顔でそう伝えた直後、 

「フォフォフォ、皆の者、敵モンスター退治、良く頑張っておるようじゃな。若い娘さんがぎょうさんおって嬉しいわい。男主人公一人だけで来るゲーム内での標準進行より、こっちの方がずっと良いわい」 

 突如、白髪白髭、老眼鏡をかけた作務衣姿の仙人風なお爺ちゃんがみんなの目の前に姿を現した。

「おう、そっちから来てくれたんか。行く手間が省けたよ。光穂様、まさにそのイベント到来ぞなもし。ゲーム上ではこの敵、綱敷天満神社に出るぞなもし」

「エロそうな爺ちゃんじゃね」

 柑菜はそのお方の風貌を見てにっこり微笑んだ。

「フォフォフォフォッ。わしは小学生の女子(おなご)が一番の好みなのじゃよ」

 お爺ちゃんはとても機嫌良さそうにおっしゃる。

「ロリコンなんかぁ。見た目通りじゃね」

「あたしが好きなの?」

 乃々晴がぴょこぴょこ近寄っていこうとしたら、

「乃々晴、このお爺ちゃんに近づいちゃダメだよ。エッチなことされるからね」

「そんなことしないよ」

「いや、しそうだよ」

 文乃に背後から掴まえられた。

「このお方は学力仙人といって、対戦避けることも出来るけんど、戦った方が後々の旅で有利になるかもぞなもし」

「学力仙人のイベントうざ過ぎってレビューに書かれてたけど、愛媛編で早くも遭遇するんだな」

 武和は興味深そうに学力仙人の姿を眺めた。

「敵モンスターじゃけんど、倒せば味方になってくれるぞなもし。主人公達に学力向上を授けてくれるええお方なんよ。小学生の女の子の中でも、勉学に励む子が特に好きなんぞなもし」

「ホホホッ。わしはゲーム上では綱敷天満神社におるのは学問の神様、菅原道真公が祀られておるからじゃよ。わし、午前中はリアル綱敷天満神社におったのじゃが、早く勇者達に会いたくてタクシーを利用してここまでやって来たのじゃ」

「タクシー利用か。なんか、仙人っぽくないな。雲に乗ってくるとか」

「雲に乗れるとかあり得んし。少年よ、現実的に考えよ」

 学力仙人はにこにこ微笑む。

「そう突っ込まれたか。俺らの居場所知った方法も、夢子ちゃんが事前にメール送って知らせてたとか」

「その通りぞなもし武和様。勘が鋭いなあ」

「やっぱそっか」

「ホホホッ、見事正解じゃ。その点は超能力とは思わんかったか少年。ホホホッ。そこの乃々晴と申されるお嬢ちゃん、わしに勝負を挑んでみんかのう?」

「やる、やるぅ」

「乃々晴、危ないからダメだよ」

「小学生の乃々晴様では、まだ無理だと思うぞなもし」

「戦いたいんだけどなぁ」

「わたしがやりますっ!」

 光穂が率先して学力仙人の前に歩み寄った。

「ショートがよくお似合いのお嬢さんは、東大志望かのう?」

 学力仙人が問いかける。

「いいえ、わたしは京大第一志望よ」

 光穂はきりっとした表情で答えた。

「そうか。まあ京大でも良い心構えじゃ。戦いがいがあるわい。それっ!」

 学力仙人はいきなり杖を振りかざした。

「ひゃっ!」

 光穂は強烈な突風により吹っ飛ばされてしまう。

「想像以上に強いな。このエロ爺」

 武和はとっさに光穂から目を背けた。

「きゃんっ!」

服もビリビリに破かれて、ほとんど全裸状態にされてしまったのだ。

「なかなかのスタイルじゃわい」

 学力仙人はホホホッと笑う。

「立ち上がれないわ。かなり、ダメージ、受けちゃったみたい。痛い」

 仰向けで苦しそうに呟く光穂のもとへ、

「大丈夫? 光穂ちゃん、これ食べて」

 文乃はすぐさま駆け寄って、一六タルトを与えて回復させた。けれども服は戻らず。

「学力仙人、攻撃もエロいね。ワタシも協力するよ」

「エッチなお爺ちゃん、くらえーっ!」

 柑菜はバット、乃々晴は水鉄砲を構えて果敢に挑んでいく。

 しかし、

「ほいっ!」

「きゃわっ! もう、よいよエッチな爺ちゃんじゃ」

「いやーん、すごい風ぇ」

光穂と同じように攻撃すらさせてもらえず杖一振りで服ごと吹っ飛ばされて、ほとんど全裸状態にされてしまった。

「柑菜も乃々晴も大丈夫?」

「平気よ、文乃お姉さん」

「あたしも、大丈夫だよ」

「すごく苦しそうにしてるし、そうには思えないよ」

文乃は心配そうに駆け寄り、登窯の里で全快させてあげた。破かれた服はやはり戻らず。

「一応、やってみるか」

 柑菜と乃々晴のあられもない姿も一瞬見てしまった武和も、竹刀を構えて恐る恐る立ち向かっていったが、

「それっ!」

「うおあっ!」

 やはり杖の一振りで吹っ飛ばされ大ダメージを食らわされてしまった。けれども服は一切破かれず。

「男の裸なんか見たくないからのう」

 学力仙人はにっこり微笑んだ。

「武和さん、相当効いたでしょう? これ食べて元気出して下さい」

「ありがとう、友近さん」

 明日用の替えの服を着た光穂は鶏卵饅頭で武和を全快させてあげた。

「次は、お嬢さんが挑んでみんかのう?」

「いいえけっこうです!」

 学力仙人に微笑み顔で誘われた文乃は、青ざめた表情で即拒否した。

「このエロ爺、とんでもない強さじゃわ。これは倒しがいがあるよ」

「中ボスの力じゃないよね?」

 柑菜と乃々晴は圧倒されるも、わくわくもしていた。

「どうやっても、勝てる気がしないわ」

 光穂は悲しげな表情で呟く。

「この仙人、見た目のわりに強過ぎだろ。どうやって勝つんだよ?」

 武和は柑菜と乃々晴のあられもない姿を見ないよう視線を学力仙人に向けていた。

「ホホホ、まあ今のお主らには勝てんじゃろうな。けどわしも鬼ではない。お主らにわしにハンディを与えさせてやろう」

 学力仙人はそう伝えると、数枚綴りの用紙を武和に差し出して来た。

「これ、テストか?」

「学力仙人はデフォルトじゃかなり強いけど、学力仙人が出すペーパーテストの正答率と同じだけ攻撃力、防御力、体力も下がるんぞなもし。例えばこれに六割正解すれば、デフォルトの能力値から六割減になるんぞなもし。ちなみにゲーム上ではネット検索対抗で一問当たり三〇秒の制限時間が設けられてるぞなもし」

 夢子は解説を加えた。

「相当難しいのばかりじゃから、お主ら程度の頭脳じゃ三割も取れんと思うがのう。まあ三割取れたところでまだまだわしには通用せんじゃろう」

 学力仙人はどや顔でおっしゃる。

「確かに難し過ぎだな。マニアックな問題が多いと思う。高校生クイズの地区予選のよりも難しいんじゃないか?」

 武和は苦笑いした。

 ベースボールを【野球】と日本語に訳した最初の人物は? 

小説『洪水はわが魂に及び』の著者は誰? 

愛媛県内にある次の地名の読み仮名を記せ。【上浮穴】【五十崎】【元結掛】

などの一問一答雑学問題が特に多く出題されていた。

「あたし一問も分からないよぅ」

「ワタシもじゃ」

「柑菜ちゃん、乃々晴ちゃんも、服破けてるから」

 前から覗き込まれ、武和はもう片方の手でとっさに目を覆う。

「すまんねえ武和お兄さん、すぐに着てこーわい」

「この格好でいたらお巡りさんに逮捕されちゃうね」

 柑菜と乃々晴は自分のリュックを置いた場所へ向かってくれた。

「私も、ちょっとしか分からないよ。三割も取れないと思う」

 文乃もザッと確認してみて、苦い表情を浮かべる。

「それならわたしに任せて」

 光穂はシャーペンを手に持ち、楽しそうに解答をし始めた。

 全部で百問。一問一点の百点満点だ。


「どうぞ」

光穂は三〇分ほどで解答を終え、清々しい笑顔で学力仙人に手渡した。

「ホホホ。かなり自信のようじゃが……うぬっ! なんと、九八点じゃとぉっ! ネットで調べる素振り見せておらんかったのに」

 学力仙人は驚き顔で呟く。

「光穂様、さすが賢者。大変素晴らしいぞなもし。どこにでもいるごく普通の高校生なら三割取れれば上出来なこの超難問テストで九割八分の正解率を叩き出すなんて。学力仙人、能力値九割八分減で野球拳男並に弱くなったと思うぞなもし」

「本当か? 姿は全然変わってないけど」

 武和は少しにやけた。

「いや、わしの強さは全く変わってないぞな」

 学力仙人は自信たっぷりに杖を振る。しかし先ほどのように風は起きなかった。

「明らかに弱くなってますけど。学力仙人さん、エッチな攻撃した仕返しよ」

 光穂は扇子で学力仙人の頬を引っ叩いた。

「ぐええ! まいった」

 学力仙人は数メートル吹っ飛ばされてしまい、あえなく降参。

「能力値極端に下がり過ぎだろ」

 武和は思わず笑ってしまう。

「服も戻ったわ」

「ほんまじゃ」

「勝ったんだね」

 光穂、柑菜、乃々晴の破かれた服も瞬く間に元通りに。

「ホホホッ。皆の者、今後の旅、健闘を祈るぞな。これを持って行きたまえ」

 学力仙人はみんなに学力向上のお守りを一つずつ手渡すと、ポンッと煙を上げて姿を消した。

「なんか、急に頭が冴えて来た気がするよ」

「俺も」

「私も」

「わたしもですよ。今ならどんな東大京大の過去問も簡単に解けそうです」

「あたしもすごく頭が良くなった気がする♪ 勉強しなくてもテストで楽に百点取れそう。ん? ぎゃあああああああっ! かっ、柑菜お姉ちゃあああああっん」

 乃々晴は突如視界入って来た物に気付くや大声で叫び、柑菜の背中にぎゅぅぅぅっとしがみ付いた。

「乃々晴、あれ、そんなに怖いかな?」

柑菜はにこにこ微笑む。

「怖いよ、怖いよぅぅぅ」

 乃々晴はだんだん泣き出しそうな表情に変わっていく。

「あれは確かにめちゃくちゃ怖いよ。夢に出て来そう」

「いきなり目の前に現れたらビビるよな。リアルのよりも表情かなり厳ついと思う」

 文乃と武和は同情してあげる。

「ここは菊間じゃないけど、移動して来たのね。暑い中ご苦労様です」

 光穂は笑みを浮かべ、ちょっぴり感心していた。

 みんなの目の前に現れたのは、高さ一二〇センチくらいある鬼瓦型モンスターだった。

 怒りの形相でみんなを睨みつけていた。

「ゲーム上では今治市の旧菊間町に出没する菊間鬼瓦くんは体力44。打撃や火にも強いけんど、水や生クリームにはかなり弱いぞなもし」

「これは乃々晴が倒すしかないよ」

 柑菜は楽しそうに勧める。

「怖い、怖ぁい」

 乃々晴はそう言いつつも、勇気を振り絞って柑菜の背後から少し顔を出して狙いを定め、水鉄砲を発射した。

 ぐわぁぁぁぁぁ~。

 菊間鬼瓦くんは苦しそうな叫び声を上げる。

「まだ消えないよぅぅぅぅぅ」

「乃々晴様の今の攻撃力なら、もう一発できっと消えるぞなもし」

「消えて、消えてぇぇぇ~」

 乃々晴は涙目で今度は生クリームをぶっかけた。

 ぐぉぉぉぉぉぉぉ~。

菊間鬼瓦くんは断末魔の叫び声を上げ、見事消滅。

「怖かったよぅぅぅ」

 ぽろりと涙を流す乃々晴。

「乃々晴、よく頑張ったね」

 文乃は優しく頭をなでてあげた。

「乃々晴様は鬼の類が苦手なようじゃね」

「ほうなんよ。おばけや妖怪絵巻風の妖怪もね」

「柑菜お姉ちゃん、笑わないでー」

 乃々晴はむすっとふくれる。

「乃々晴様、レベルが上がればきっと克服出来るぞなもし」

 夢子が慰めた直後、

「熱ぅい。ぃやぁーん、服が溶けて来たぁ~」

 文乃の悲鳴。宙をゆらゆら漂う六〇センチくらいの大きさの火の玉にまとわりつかれていた。

「大三島に伝わる怪火、亡者の霊火とされているオボラさんみたいね。これもここまで漂って来たのね」

「竹刀は効かなそうだな」

「火で攻撃したら逆にパワーアップしちゃいそうじゃね。乃々晴、あれは妖怪やけど怖くないの?」

 柑菜はにやけ顔で尋ねる。

「全然怖くないよ。ただの空飛ぶ火だもん。怖い顔じゃないもん」

 乃々晴はにっこり笑顔できっぱりと答えた。

「愛媛編ではあまりに恐ろしい風貌の妖怪型モンスターは出て来んよ。お隣徳島編祖谷にはうじゃうじゃおるけどね。ゲーム上では大三島に出没するオボラ、体力は40。風と水が弱点ぞなもし」

「みんなー、熱いから早く倒してぇ~っ!」

文乃はブラとショーツが少し露になり服が一部焦げてしまっていた。

「これもエロ攻撃かよ」

武和は一瞬見てしまい、とっさに文乃から目を背ける。

「エッチな火の玉さん、これでもくらえーっ!」

 乃々晴はオボラに水鉄砲を命中させる。一発では消せなかった。

「意外としぶといのね」

光穂は続けて扇子でパタパタ仰ぎ、見事消滅させた。

「やっと涼しくなったよ」

文乃の服も無事瞬時に元の状態へ。

「乃々晴様、光穂様、ええ戦い振りじゃね。皆様、このあと松山市内に戻ったら、そこの敵ともう一度戦ってみてつかーさい」

みんなはその後は新たな敵モンスターに遭遇せず、数名の一般客が待っていた最寄りのバス停へ辿り着くことが出来た。

今治駅からは特急しおかぜに乗り継いで松山駅到着後、路電で松山市駅まで向かいまた付近の人通りの少ない所をぶらつくことに。

「全然痛く無いよ」

 柑菜は鍋焼きうどん型モンスターからまた熱々出汁をぶっかけられたが、ほぼノーダメージ。このあと鍋側面にバット一撃で消滅させた。

「確かにかなり弱く感じる」

「武器がいらないね」

 武和と乃々晴は野球拳男を平手打ち一発で倒した。

「いよかんこまちは指でつついただけで倒せますね」

 光穂は五体で襲って来たいよかんこまちをあっという間に撃退。

「あーん、またスカート捲って来たぁ。やめてー。あっ、あれ?」

 文乃はお遍路爺の肩をポンッと押しただけで消滅させることが出来た。

「やったぁ! アニヲタ君倒せたよ。お小遣いいっぱいゲットッ! ワタシの素早さが上がったおかげじゃな」

 柑菜はいよのアニヲタ君の姿を見かけるや、すぐに追いかけてGペンミサイルを投げつけ消滅させることが出来た。

レベルアップを実感したみんなはJR松山駅前へ歩いて戻っていく途中、

「お遍路爺、また現れたな」

 路上で武和が発見すると、

「あのお遍路にあるまじきエッチな爺ちゃん、ワタシがやっつけるよ」

「あたしもやるぅ」

 柑菜と乃々晴は武器を構えて楽しそうにそいつのもとへ駆け寄っていく。

「とりゃぁっ!」

 柑菜はバットで背中を、

「お爺ちゃん、くらえーっ!」

 乃々晴はヨーヨーで肩を一発攻撃した。

「いたたたぁ。こらっ、お嬢ちゃん、何するの?」

「まだ消えんか。攻撃力足りんかったようじゃね」

「もう一発叩けば消えそう」

「あのう、この方は本物のお遍路さんみたいぞなもし。人型の敵は本物と見分けつきにくいんもおるんぞなもし。リアルのを参考にしてデザインされとるけん」

 夢子が苦笑いして呟くと、

「えっ!? すっ、すみませんでしたぁ~」

「お爺ちゃんごめんなさぁーい」

 柑菜と乃々晴は慌てて謝罪。

「いや、ええんじゃ。なんか今朝からこの辺りにお遍路の格好をして若い女性に猥褻な行為をするけしからん輩が出ておると聞いておるし。お嬢ちゃん達はわしがその者と思ったんじゃろう? では、旅路気をつけてな」

 本物のお遍路さんはホホホッと笑って快く許してくれ、バス停の方へ足を進める。

「間違いなく敵モンスターのお遍路爺のしわざぞなもし」

「ついに一般人にも直接被害受けたやつが出たわけか」

「松山市内の商店で、商品が誰かに入られた形跡もなく持ち出される不可解な現象が相次いでるみたいよ。アニメイト松山とらしんばんさんも被害に遭ったみたいじゃけど、それはきっとアニヲタ君、声ヲタ君のしわざじゃろうね」

柑菜は自分のスマホをネットに繋いでローカルニュースと関連記事を確認する。

「泥棒もやってる敵モンスターさんは、あたし達が懲らしめなきゃいけないね」

「わたし達、使命感がさらにふくらみましたね」

 ますます戦意の高まった乃々晴と光穂に対し、

「敵モンスターさん達、大人しくしてて欲しいものだよ。私達にも襲い掛からないで欲しいよ」

 夢子は困惑顔でこう願うのだった。

      ☆

 JR松山駅到着後。

「うち、リアル佐田岬灯台にも寄りたいところじゃけど、交通の便悪いし遠過ぎるけん今回の旅ではスルーするよ。ゲーム内ではモンスター化して、佐田岬灯台納言って敵モンスター名で愛媛編のボスになっとるんぞなもし」

 夢子はみんなの分の大洲までの乗車券&特急券を購入している時に、こんなことを打ち明けた。

「佐田岬灯台がボスなんか。そこもユニークじゃね。戦い楽しみじゃ」

「あたしもーっ! どんな攻撃してくるのかなぁ?」

「俺は風貌的には宇和島の牛鬼が愛媛編のボスに相応しいと思うけど」

「私もボスは牛鬼だと思ってたよ」

「わたしも牛鬼さんだと予想してたわ。ボスのいる場所、佐田岬じゃないんですね?」

 光穂は少し不思議がる。

「ゲーム内では佐田岬灯台、モンスター化したことで伸縮自在で自由に動けれるようになって愛媛県内各地を旅行中って状況になっとるんぞなもし。ようするにあの場所に無くて行方不明ぞなもし。リアルと同様、四国最西端の佐田岬に留まらせるんはかわいそうじゃけんって製作者の意図でこんな設定にしたらしいぞなもし。ゲーム内では主人公ら勇者に倒されることで普通の佐田岬灯台に戻って、リアル同様あの場所に聳え立つことになっとるんよ」


 ともあれ、みんなは特急宇和海を利用して伊予の小京都、大洲へ。

伊予大洲駅からタクシー利用で訪れた観光名所、おはなはん通りを散策していく。

「ここも松山やとべ動物園と同じくおへんろ。の聖地じゃね。いよのアニヲタ君おらんかなぁ」

「柑菜様、残念ながら、松山市内よりも遭遇率はほうとう低いぞなもし」

「俺、せっかく来たことだしポコペン横丁の方も見てくるよ。うぉわっ、びびった。いってててぇぇぇ~っ! おい、やめろっ」

武和は空間に突如現れた数羽の鵜に襲い掛かられた。よく見ると縄で繋がれていた。

「武和くん、大丈夫? あっ、鵜匠さんだ」

 文乃は風折烏帽子、漁服、胸当て、腰蓑を身に纏ったおじさんが縄の先にいるのを見つけた。

「よけられたよ」

「素早い鵜だね」

 柑菜と乃々晴の鵜への手裏剣攻撃、ともに空振り。

「大洲鵜匠さん、鵜は手強いけど鵜匠本体はかなりの雑魚ぞなもし。本体を倒せば鵜も同時に消えるけん本体を狙うのがベストぞなもし」

 夢子のアドバイスを聞き、

「鵜匠のおじちゃん、くらえーっ!」

 乃々晴は手裏剣を鵜匠本体に命中させた。これにてあっさり消滅させたと思ったら、

「きゃあああんっ!」

「ひゃっ、もう、エッチな風じゃね」

 突如、霧を伴った突風が起き、文乃と柑菜のスカートが思いっ切り捲れてショーツが思いっ切り露に。

「霧で全く見えないのが幸いだな」

 と言いつつも、武和は内心ちょっぴり残念がってしまった。

「すごい風。でもあの仙人のお爺ちゃんの杖の風よりはマシだね」

「スカートじゃなくてよかった。これはモンスター化した肱川あらしですね。リアルでは今の時期には起こらないのですが」

「ゲーム上でも女の子を仲間にして、肱川に架かる長浜大橋を渡るとモンスター化した肱川あらしにスカート捲られる光景を年中見られるぞなもし」

 夢子は吹き飛ばされそうになりながらも楽しげに伝える。

「それはいらない要素だと思う。おわっ! いもたきのモンスターも来たか」

霧が晴れた途端、高さ八〇センチ、直径一メートルくらいある巨大鍋型モンスターが現れ武和目掛けて襲い掛かってくる。

「こいつは絶対……」

 武和が予感した通り、

「やっぱりな」

そいつは鍋の中に入っていた里芋、油揚げ、こんにゃく、鶏肉、しいたけなどを熱々出汁ごとぶちまけて来た。武和は頭からぶっかけられてしまうも、

「武和くん、大丈夫? いもたきさん、食べ物を粗末にしちゃダメだよ」

 すぐ隣にいた文乃は傘を広げて防御しダメージを回避出来た。

「文乃様、素早い判断じゃったね。大洲のいもたっきーの体力は43ぞなもし」

「母さん手作りのよりずっと美味いな」

 武和は具材まみれにされながらも、上機嫌で鍋の側面を竹刀でぶっ叩いて消滅させた。

「焼鮎もほうとう美味いじゃん」

「本当にすごく美味しいね♪ 倒すのが勿体ないよね」

「そうですね。お土産に持って帰りたいです」

 柑菜、乃々晴、光穂は、近くに現れた焼鮎型モンスターと楽しそうに戦っていたというより突進攻撃を堪能していた。

 そんな中、

「きゃあっ! この志ぐれさん、すごく美味しそうだけどすごくエッチだよぅ。あんっ、やめてぇ~」

 文乃は空間にいきなり現れた和菓子型モンスターに胸を服越しに吸い付かれてしまう。 

「大洲銘菓【志ぐれ】のモンスターもやはり現れたか。意外に強そうだ。またしても女の子に対してけしからん攻撃だな」

 武和は長さ四〇センチくらいある、羊羹のような形のそいつが文乃の体から離れたのを狙い、竹刀でぶっ叩く。

「ぐはぁっ!」

 次の瞬間、粒餡をお顔にたっぷりぶっかけられてしまったものの、とっさに目を閉じてダメージ軽減。

「志ぐれさん、体力48。打撃攻撃は一撃で仕留めんと粒餡ぶっかけられるぞなもし」

「この辺の敵になるとトラップも付いて来とるんじゃね。美味そうな志ぐれちゃん、焼き志ぐれにしたるよ」

 焼鮎型モンスターを消滅させて来た柑菜はマッチ火を投げつける。

「エッチな志ぐれくん、もっと甘くなーれっ!」

 乃々晴は続けて生クリームをぶっかけた。

 これにて消滅。志ぐれを残していく。

 武和の顔と服に付いた粒餡の汚れも同時に消えた。

「ぃやぁんっ、もう、何するんですかぁっ、志ぐれさんさん、そんなとこ、吸わないで下さい。あんっ!」

 もう一体空間に突如現れた志ぐれさんに股間をショートパンツ越しに吸いつかれた光穂は扇子で攻撃。会心の一撃で消滅させた。

「お顔紅潮させてええ表情じゃ。光穂お姉さんのこの表情は超レアじゃね」

「もう、撮らないで下さい柑菜さん」

「あいてっ! ごめん、ごめん」

 デジカメをかざして来た柑菜の頭も扇子でパシンッと叩いておいた。

 その直後、

「皆様、大洲へようおいでたなもし」

 女性の穏やかな声が聞こえてくる。まもなくみんなの前に姿を現した。

「この子、大洲に伝わる妖怪の濡女子(ぬれおなご)ちゃんじゃない? イメージより若くて美人じゃね」

「濡女子っていう妖怪、あたしも知ってるぅ。この濡女子は顔が全然怖くないね。普通の人間のお姉ちゃんに見える。恰好は変だけど」

「この人も妖怪なんだね。私も妖怪には見えないよ」

「あのゲームの製作者は現在の大洲市菅田に現れたいう濡女子さんをこんな風にデザインされたんですね。言い伝えにかなり則していると思います」

 三姉妹と光穂は興味深そうにじっと見つめる。

「なんかエロいな」

 武和は姿を数秒拝見したのち、罪悪感に駆られたのか視線を道路に向けた。

 腰の辺りまで伸びた長い黒髪、ぱっちりしたキラキラな瞳、少し青ざめてはいたが十代半ばくらいの少女の顔つきで、背丈は一五〇センチあるかどうかくらい。その名の通り全身びしょ濡れで、胸と恥部を木の葉で纏っただけの露出度だった。

「大洲の濡女子は姿形は諸説あるけん、基本的な設定が言い伝えに則してれば顔つきはどんな風にデザインしてもええじゃろうという製作者の考えで、こんな萌え系の造形になったみたいぞなもし」

「それは初耳じゃ」

 大洲の濡女子は満面の笑みを浮かべる。

「大洲の濡女子の眼光はパーティ全員を痺れ状態にさせれる威力があるけど、この敵は味方モンスターぞなもし」

「そんな能力が使えるとは、か弱そうな見かけによらず相当強いんでしょうね」

 光穂は感服したようだ。

「いえいえ、愛媛編ボスにも遠く及ばんぞな」

 大洲の濡女子はほんわかした表情で謙遜する。

「あの、悪いんだけど、目のやり場に困るから。これ、よかったら、着て欲しいな」

 武和は大洲の濡女子に伊予絣の浴衣をプレゼントした。

「だんだん。ほじゃけど、これを着るとウチの個性が失われてしまうけん、着ずに飾っておきますね。お礼にこれ、差し上げるよ。ほな皆様、今後の旅路も気をつけてつかーさい」

 大洲の濡女子は志ぐれ、月窓餅、鮎もなかを差し出してくれると瞬く間に姿を消した。

「武和様、ええ気遣いじゃね。大洲の濡女子は何かアイテムを差し上げると、お礼に大洲銘菓をくれるんよ」

「太っ腹な濡女子ちゃんじゃったな」

 柑菜はスケッチブックにちゃっかりイラストを描写した。

「皆様、ここまでよいよええ戦い振りじゃったぞなもし。もう夕方やけん今日の戦いはやめにして、滑床渓谷のねきまで移動して宿を探しましょう」

「滑床、三連休中でレジャー客多そうだけど、当日予約で泊まれるのかな?」

 武和は少し心配になった。

「森の風旅館は、まだ空室があるみたいよ。食事付きで高校生以下は一人当たり一泊一万五千円だって。六名以上だと団体割引で一万二千円よ」

「それでも高めじゃけど全部屋露天風呂付き客室なんかぁ。光穂お姉さん、ここにしよう!」

「ゲーム機とソフトも備えてあるのっ!? あたしもここがいいな♪」

「私もー」

「風光明媚なええ場所にあるね。うちもここがええぞなもし」

「ではしておきますね。わたしもすごくいいなって思ったよ」

 光穂はスマホのネット画面を閉じると、さっそくその旅館に電話予約。

「ゲーム上でも事前予約してへんと、宿に泊まれん場合もあるぞなもし」

「そこもリアルさがあるな」

 武和はそのシステムも余計だなっと感じたようだ。

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