第3話 錠前愛はとても憧れている。

 「で、凄いんです姐さん。あのときもかっこよかったな~」

「ごめん、もういいかな・・・。僕もずっと暇なわけじゃないんだ。」あっ平くんがすこし面倒そうな顔をしています。平くんは今度姐さんが作るグループに誘われた一人なのです。姐さんが何回連絡しても来ないもんだから、愛が誘ってくるようにといわれたんでした。なのに姐さんの自慢話ばかりしちゃってます。良くないですよね。改めないと。

「錠前さん、僕行くよ。」

「ちょっと待ってください!!」

いつもなら絶対出さないような大声を出してしまいました。恥ずかしいです・・・。

平くんはとても驚いた顔をしています。

「じょ、錠前さんってそんな大声だせたんだね・・。」

そうなんです。愛は姐さんに出会って変わりました。


あれは確か梅雨のころ。

私は付き合っていた彼氏に振られてしまい、とても落ち込んでいました。ずっとその人とは一緒だったのです。小さいころからの幼馴染で、きっとこの人と結婚するものなんだと勝手に思っていました。バカですよね・・。そう思っていたのはやっぱり私だけでした。彼氏は好きな人が出来たと言って私に別れるように言いました。私は絶対にイヤといったのですが、もう決めてしまっているような目をしてました。離れていく彼をどうしても繋ぎ止めたくて、私は何度もメールや電話をしました。最低ですよね愛・・・。しまいにはリストカットをしてその写真を送りつけたりしてました。

 そんな最低の時期、木漏日光さんに会いました。木漏日さん、愛は今姐さんと呼んでいるんですが、私の後ろの席の女の子でした。姐さんはとても美人さんなものですから、話したいなとは思っていたのですが、もともと引っ込み思案なことと、とても近寄りがたい雰囲気があったもので、会話することはありませんでした。でもあの日は違いました。私が後ろの席の姐さんにプリントを配るときに、私のリストカットの痕が見えてしまったんです。姐さんはそのとき愛の腕を急に掴み、まじまじと見つめていました。愛がやっとのことでやめてくださいと言うと、その時は腕を話してくれましたが、昼休みに調理室まで連れていかれました。私がなにをするんですかと小声で言うと、姐さんは笑顔で言いました。

「あなた、リストカットしてるの?どうして?」

「べ、別に関係ないじゃないですか・・・。」

姐さんは私の手を強く握り言います。

「駄目だよ、自分の体は大切にしないと。わかる、私たちは神にこの体を与えられ、人生を謳歌する権利があるの!あなたもそうしないともったいないわよ。」

「うるさいッ!」私は叫んでしまいました。

「愛の人生なんてもう終わってるんだ・・!」

私はそのときはいつも持っていたカッターで自分の腕を切ろうとしました。姐さんは愛のカッターを思いっきり掴みました。

「そんなこと女の子が言うもんじゃないよ。」

姐さんは笑ってそんなことを言います。姐さんの手からはすこし血が流れていました。

「何よ!愛の何を知ってるっていうのよ!」

「何も知らない。でもあなた可哀そうだから、私の舎弟になりなさい。必ず損はさせないわ。」

この時代、舎弟なんて言う人はきっと姐さんくらいなものでしょう。

「何よそれ・・・!愛の痛みも知らないクセに・・・!」

「じゃあこうしよう。もっとも最初からこうしようと思ってたんだけれど」

そういい、姐さんは包丁を取り出しました。

「なッ、何するのよ・・・!!」

「まぁ、見ててよ」

姐さんは満開の笑みで包丁を自分の中指に振り落としました。

「きゃああああああああああああああああああ!」もちろん叫んだのはわたしです。

中指を思いっきり切断した姐さんは涙目で言いました。

「ほら、あたしだって痛いでしょう!痛いのはあなただけじゃないわ!」

全然意味不明です。でも姐さんは痛みをこらえながら必死で言います。

「あなたのことを全て受け入れるわ!だからあたしの舎弟になりなさい、錠前さん!」

私はあまりに突飛な出来事が起こったもので、調理室から逃げ出してしまいました。


二日後、姐さんは学校に普通に来ていました。

姐さんに大丈夫かどうかと聞こうとすると、今度は屋上に連れられました。

「ほら、この世はこんなに広いのよ、あなたの悩みなんてちっぽけだわ!」

姐さんは中指切断したくせに元気そうです。

私は心に決めていたこと言いました。

「愛、ずっと一緒だったひとが遠くに行って・・・!とても悲しかったんです!もう世界が終ってしまうような・・・!もう死んでしまったほうがいいんじゃないかって・・そう思ったんです!こ、木漏日さんも愛のことなんて嫌いでしょう!?」

姐さんは私を抱きしめ言いました。

「あたしがあなたを救ってあげるよ」

私は嬉しくて嬉しくて大きな声で泣いてしまいました。

このときに私は姐さんにずっとついていくことに決めました。ちなみに姐さんの指はつながっているみたいです。なんでもすぐに手術すれば繋がるものなんだとか。


そんな姐さんが選んだ人だから平くんもきっと素敵な人です。だからここで逃すわけにはいかないんです!

「平くんは姐さん・・、木漏日さんにとって必要な人なんです!どうかお願いします!私たちと一緒のグループに入ってもらえないですか!」

「必要・・・、錠前さんもそう思う?」

「必要です!めっちゃ必要なんです!」

必死の形相で言います。

平くんは諦めたような顔で言いました。

「錠前さんがそんな必死に誘ってくれるなら断れないな・・、分かったよ。」

「ホントですか!嬉しいです!平くん!」

「僕、錠前さんがそんなに笑うところ初めてみたよ。」

平くんがそんなことを言います。

私は笑顔で返します。

「はい、だって姐さんが救ってくれましたから!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

木漏日光はとりあえず殴る。 むくくん @mukukun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ