魔法都市アキュティルス
「ユウ!私出掛けてくるから、昨日言ってたやつ作っておいてね!」
バタバタと家の中を駆け回って支度をし、赤いスカートを翻しながらホウキに乗った魔女が叫ぶ。
「りょーかい。鳥にぶつかるなよ!」
ひらひらと手を振る後姿を見送ると、あっという間にその姿は遠のいていく。
すっきりと晴れた空は、今日もどこまでも赤い。
『勇者』と呼ばれるようになってから、既に数ヶ月が過ぎた。
魔女のアヤは最初こそ攻撃を仕掛けてきたが、記憶をなくし帰る場所のない自分に宿を提供してくれた。
アヤは現在は親元から離れ、魔法修行中だ。都市部から遠い草原の中にポツンと佇む一軒家に住んでいる。
とはいえ、こうして何不自由なく暮らしているのは、アヤというよりもその先生のおかげと言った方が良いだろう。
リク先生はアヤの魔法の師匠で、住み込みの家庭教師のような存在らしい。
この世界のこと、元の世界のこと、ここで生きていくために何をしたら良いかなど、色々と先生に相談にのってもらった。
この国、アキュティルス王国は魔法都市国家だ。
人々は得意不得意はあれど、殆どの住民が魔力を行使できる。
それは代々親から子へ、師から弟子へと伝えられる学問であり、生活に欠かせない知識だった。
なにせ、食事を作るには火の魔法、顔を洗うには水の魔法が必要だというから困る。ガス台や水道といった概念がないんだ。
アヤが赤い空の彼方に見えなくなるころ、先生が自室から顔を出した。
「ああ、アヤはもう出かけて行ったんですか?…ではユウ。昨日の続きをやりましょうか。」
「はい!よろしくお願いします。」
ここで暮らすようになって、だいぶ前から先生に魔法を習っている。
異世界からきた『青の勇者』でも、必要な知識さえあれば魔法が使えるのだ。
この世界の魔力の元である元素の聖霊だか神様だかに祈り、聞き届けられたら力を貸してもらえるという理屈らしい。
先生に連れられ家の外に出て、花壇の前へやってきた。
たたみ二畳ほどの広さの花壇に、まだ何も芽は出ていない。
「ではどうぞ。」と言われ、花壇に向かって手をかざした。
心を静め、遠くに流れる川の水を思い浮かべる。先日あらかじめその場所に実際に赴き、川の聖霊と契約を交わしてある。
聖霊は手のひらほどの大きさの青い人魚のような姿だった。
水よ、来い。
頭の中で花壇にシャワーのように降り注ぐ水を思い浮かべた。
「
声に出したとたん、イメージどおりの現象が起こる。
光の玉が弾ける様に花壇の上にキラキラと水の粒が舞い、サアッと降り注ぐ。
水の筋は日の光に照らされて七色に染まった。
ボクの魔法がキチンと発動したことを確認してから、先生が更に魔法を重ねる。
「
静かな声と、円を描く右手の動きに合わせて光が集まる。降り注いでいた水の周りを、柔らかな光の膜が覆ったかと思えば、それは急速に収束して手のひらに収まる青い石になった。
「はい。よくできました。」
にっこりと微笑む先生から、出来立ての魔法石を受け取る。
「ありがとうございます。この魔法石、アヤにあげていいですか?」
「はい、もちろん。」
アヤは、比較的水の魔法が苦手なようで、ボクは水魔法と相性がいい。
逆に、アヤの得意な炎系の魔法はボクは苦手だ。
こうして作った魔法石があれば、苦手な魔法を使う際の補助になる。
封石の魔法を使えるのはこの辺りでは先生だけらしく、先生は色々な魔法石を作って販売することで生計を立てているようだ。
「
先生がまた魔法をかけ、花壇からぽぽんと芽が現れた。魔法と言えど、無から有を産み出すことはできない。種から覗く双葉の伸びを少し助けることは出来たとしても、いきなり実を着けさせたり木を天まで伸ばしたりということはできないそうだ。
魔法使いは自然の聖霊達に生かされている。
それが、先生が教える魔法の根本的な考え方だった。
アヤは週に何度かホウキに乗って都市部へ出掛けていく。家族に会いに行くのか、遊びに行くのかは知らない。
けれど帰ってくる時はとても疲れた顔をしていることが多いので、色々と大変なんだろうなと詮索しないことにした。
この世界は暦も青の世界とは違うようだった。今日は
曜日によっても聖霊の力が増したり減ったりするそうで、大きな魔法をするときは日取りが重要になるという。
もし、青の世界に帰るための手段が見つかったなら、水曜に実行するのが良いだろうと先生は言っていた。
ボクが得意な水の魔法が強くなる日であり、
青の世界でも同じ読みの曜日が存在するからだ。
僕らのRPG物語 すたぁらいと @star_light
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