僕らのRPG物語

すたぁらいと

赤い空

閉じたまぶたの奥に、穏やかな日差しを感じた。

暖かい風が吹き、草の揺れる音がする。

土の匂いがする。

花の香りがする。

外で居眠りをしてしまったんだろうか。


目が覚めた。

空が目の前にあった。

赤い、紅い、空だ。

薄紅色の雲がゆっくりと流れていく。

あれ、空って…こんなに赤かったかな?


どうしてそんなことを思ったのだろう。

ただ、自分の知っている空の色ではなかったように思ったんだ。

この赤は、夕方のオレンジ色の空とも違う。

空ってもっと、澄んだ…透き通った…青い色、だった気がした。


どうやら自分は草原の中で眠っていたらしい。

何故か眠る前のことが思い出せない。

とにかく起き上がって辺りを見回すと、草原は地平線まで広がっていた。

名前の解らない白い花がまばらに咲いていて、ふんわりと良い香りがした。


「あなた誰?どこから来たの?」


急に後ろから声をかけられて、慌てて振り向く。

長い黒髪をなびかせた10代半ばの女の子だった。

この空のような赤いワンピースを着ていて、靴も手袋も同じ色だ。

自分の目線より少し高い位置にいる女の子を見上げ、気が付いた。

背が高いわけではない。宙に浮いているんだ。

よくある魔女が乗るような、竹のホウキに乗っている。


「キミ、誰?魔法使い?魔女なの?」


質問に質問で返してしまった。

魔女は少し気を悪くしたような表情で、

「魔法使いよ。何か問題でも?」

と返す。


「ごめん、ホウキで飛んでいるなんて、実際には初めて見たものだから。」

正直にそう答えると、魔女は呆れ顔になった。

「初めて?そう、じゃあこの国の人間ではないわけね?どこの国から入ってきたの?この土地は立ち入り禁止のはずなのだけど。」


「ええと…。」

答えようとして、自分がその答えを持っていないことに思い当たる。

「ごめん、わからないんだ。」

魔女の表情が険しくなる。

「ふざけないで。敵対国の者ね?」


敵対国?と聞き返すよりも早く、魔女の手の中に赤い光が現れた。

「エンド!」という声に合わせ、光がこちらに投げ出される。

「うわっ!?」

思わず目を瞑り、顔をガードするように腕をクロスさせる。

野球ボール程度の大きさの光は炎を纏って真っすぐこちらに飛び、直撃した。

だが腕に当たった炎は身体を焼くことはなく、ジュッ!という音を立てて消火された。


「は?」

「えっ?」


たぶん魔女は、あの炎で自分を殺すか、最低でもノックダウンさせる気で攻撃したのだろう。それを水のバリアでも張ったかのような無力化。もしかして魔法を使えたのか自分?

双方何が起こったのか理解できずに呆気にとられていると、また別の声がその静寂を断ち切った。


「アヤ、やめなさい。そちらは『勇者』さんですよ。」


声の主を探すと、中性的な顔の穏やかな微笑みを浮かべた男が、魔女と同じくホウキに乗って浮いていた。

丸眼鏡を掛けて、だぼっとしたフード付きのローブのような服は、魔女と同じ赤い色だった。



『勇者』とは、記憶を持たない、異世界から迷い込んだ人間の総称。

特にこの赤い空の世界とは別の、青い空の世界から来た者を『青の勇者』と呼び、それらは高い確率で元居た世界への帰還を望み、世界の理を探求する。


それが、この世界でボクが最初に出会った、魔女とその先生に一番初めに教えてもらったことだった。

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