第16話『箱』

 彼がそれを見つけたのは、部屋の片付けをしている時でした。

 白い紙で作られた小さな箱が出てきたのです。

 その箱は本当に真っ白で、何も書かれていませんでした。

 彼は箱を開けてみました。……空です。開けて、閉める。開けて、閉める。――それを何度か繰り返して止めました。

 相変わらず、中には何もありません。

 しかし、彼にはその箱は何か重要な物が入っていた気がしてなりません。

 だが、それが何か――彼には皆目見当が付きませんでした。


 1週間後、箱は机の上に置いてありました。

 部屋の片付けを終えた時に捨てようとしたのですが、どうしても捨てられなかったのです。

 何かある……そう感じたからです。

 もっとも、彼自身もそれ以上の説明ができませんでした。

 彼は今日もその箱を開けます。……もちろん空です。

 だからといって、何かを入れようとも思いませんでした。


 やがて彼は結婚します。

 奥さんと新居へと移り住みました。

 多くの家財道具を運び込みます。

 それに混じって、あの箱もありました。


 そして、彼は2人の息子に恵まれます。

 2人はすくすくと成長し、自立して出ていきました。

 彼と妻はまた2人の暮らしに戻ります。

 その傍らには、あの白い箱がありました。


 やがて妻が死に、彼は1人になります。

 その時間もそう長くは続きません。

 彼も死に、彼の遺品の整理に2人の息子がやってきます。

 その遺品の中には、あの箱もありました。

 息子の1人がそれに気付き、箱を開けてみます。……空です。

 ふと彼は、その箱が何か特別な物に思えてきました。

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