第19話 飛行機雲
私はもうすぐ死ぬ。
やり残したことを探してみるも、結局出てくるのは君としたいことだった。
できるならもう一度、あなたと出会ったところからやり直したい。
私が願うのはそれだけだった。
そんな時、私の前に1人の少年が現れる。
彼は私に「君の願いを叶える」と言った。
私は藁にもすがる思いで彼の要件に応じて、三つのお願いをした。
一つ目 君の中に存在し続けたい
二つ目 君ともう一度恋をしたい
三つ目 君の幸せを見届けたい
少年は二つだけ叶えてくれた。
三つ目はどうも時間的に余裕がなかったみたい。
でもねこのお願いは全部あることをするための準備だったんだよ。私はそれを今やり遂げることができた。
私が本当に欲しかったのは、君ともう一度恋をすることでも、君の中に居続けることでもなかった。
私は消える前に「思い出」を残したかったんだよ。
君と悲しい別れの思い出を胸に成仏なんてできない。
どうせ消えてしまうなら、輝くんに本当のことを話して幸せな気持ちで消えたかった。
自分勝手なのは重々承知してる。でも諦めきれなかった。
なぜ私が荒木莉帆を作ったのか。
それは一種の願望だっのかも……私は輝くんと結婚したかった。ずっと一緒に過ごしたかったから。
だから苗字を荒木にした。
そして荒木莉帆が荒木輝と現実で過ごした思い出は、荒木莉帆が消えることで私の中に流れ込む。
そして私は二つの願いを叶えられた。
ほんとうにありがとう。
私の我儘に付き合ってくれて、こんな私を愛してくれてありがとう。
最後にここまでたどり着いてくれてありがとう。
最後に私が魔法を解くね。
これで君は晴れて自由の身だよ!
魔法が解けたら私との記憶は綺麗になくなる。
さあ、目を閉じて……。
僕の唇に優しく彼女の唇が重なった。
僕は一度に沢山のことを言われて少し頭がボーッとしてたんだろう。
キスなんて何度もしていたはずなのに、そのときのはいつもより深くて目が眩んだ。
何かから解放されたように体が軽くなって、辺りがボヤけて気づいたら眠っていた。
目をさますとそこは山っていうより森と言った方がいい、木々の生い茂った場所だった。
目の前には墓石があって、桜木って掘られている。
墓石の前までふらふらと歩いていくと、一通の手紙があった。そこには丁寧な字で「輝くんへ」と書かれている。
あぁ、きっと僕は誰かの墓参りに来ていたんだろう。なぜ寝てたのかは不明だが……。
一応墓の前で手を合わせてから手紙を取る。
◎◎
輝くんへ
私たちって飛行機雲みたいだよね!
真っ直ぐ真っ直ぐ!バカみたいに真っ直ぐで……。
あの表現には意味があったんだー。
私が飛行機で輝くんが雲!
なんで雲なんだって思ったでしょ?
それはねー!ふわふわの癖っ毛だから!!
まあ、そんなしょうもないことは置いといて。
なぜ飛行機雲なのか!
私が飛行機で真っ直ぐ空を飛ぶ、私が通った後に君が雲を残す。
私と君で飛行機雲。
でも、もう飛行機雲じゃ無くなったね。
飛行機雲のままだと雲を出す飛行機がいないから、一本線で空に浮かぶ君はいつか消えてしまう。
だから今日から君は雲だ。
自由に空を飛ぶ雲!!
無限に広がる空に浮かんで君はどんな生き方をするのかな?最後まで見たかったけど……。いや、どこかで見てるよ!約束する!
じゃあ今日から晴れて君は自由だ!
初めの手紙の最後にあえて書かなかったことを書きます。
私は輝くんの……
幸せを願ってるよ。
さよなら。そしてありがとう。
僕はその手紙を読んで涙ひとつ流さなかった。
流せなかったが正しいのかも。
なぜなら、僕はこの人のことを何も知らない。
思い出せないが正しいのかも。
何かを変えたくて進みだしたけど、結局何から進みたかったのか分からなくなって、僕はいつも通りにもどった。
思い出せなくてムズムズすることもなく、会社へ行って帰って眠る。そんな毎日を過ごした。
ある日のことだ。僕のいつも通りに飛び込んできた人がいた。
それは新入社員として会社に派遣されてきた女性。
名前は、
僕は理由など分からずに本能的に引かれてしまった。
まるで僕の記憶の奥深くをくすぐるように、彼女との日々は刺激的だった。
僕らの距離が縮まり、恋に落ち、結ばれるまで、それほど時間はかからなかった。
年齢的な部分もあったのだろう。
僕らは付き合って1年ほどで結婚した。
◎◎
「まさか荒木に先を越されるとはな!」
「うるせー!お前も早く結婚しろ!」
「輝くんったら、1年記念日にいきなりプロポーズしてくるんだもん!びっくりしたよ!」
「こいつも洒落たことするんだなー!」
「赤塚さんまで、からかわないでください!」
「はははっ!これはすまんな!」
「ほら!みんな集まって!写真撮るよ」
「ほら、輝くん!早く早く!」
「はいっ!チーーズ!!」
カシャッ………
よく見る幸せに溢れた風景。
彼女の横顔、ウエディングドレス。
みんなの祝福、鳴り響く教会の鐘。
カメラのシャッター音。
ゆっくりと流れる時間……。
空には真っ直ぐ伸びた飛行機雲。
「お幸せに」
どこからか聞こえた懐かしい声
◎◎
「ただいまー!」
「輝くん遅いー!ほら見て集合写真届いたよ!」
「おお、本当だ!みんないい笑顔だな」
「あれ?輝くんだけ空見てるよ!!」
「そういえば見てたかも!」
「えー!何見てたの?」
「飛行機雲」
飛行機雲 紅 @Kutenai
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