読了『強盗童話』 作:冬春夏秋

前置きさせていただこう。

筆者は本作に強烈に魅せられた一人だ。その点を、どうかご容赦いただきたい。

そして断言する。

10年後、20年後。

時代が変わった後でも、本作を読んだ人間は「格好良い…!」とため息をもらすだろう。


本作における魅力をあらわすならば「面白い」といった一言に尽きる。

面白さの要素はいろいろと浮かぶ。だがそれを言い表せない。よしんば書き連ねたとしても、語りつくすことができない。

ゆえに、上記の一言に集約することが最もシンプルだ。


それでもあえて語らせていただく。

本作を読んでしまうと、どうしても、あえて語らずにはいられなくなる。

強烈に魅せられてしまうと、読後の衝動を抑えきれずにはいられない。

本作に寄せられたレビューの数々が、その事を多分に物語っている。

作品完結直後の現時点において、評価である★に対してレビューを行った読者の割合を見ると、驚異的なレビュー率を保持している。

それだけの魅力と、書かずにはいられない興奮が、本作品にはある。


さて、本作は群像劇だ。

舞台となるのは近現代。ほんの少しだけ技術が進んだ、空の飛べる現代だ。

エピソードのそれぞれは、一つの物語としてつながりを持っているが、独立した一つの話として読むことができる。

登場人物がみな個性的である事は言わずもがな。

そこに彩りを添え、且つ、本作でもっとも特徴的であるのが、軽妙洒脱な文章だ。

ユーモアと言葉遊びに満ちた文体は、舞台演劇のように洗練されていて心地よい。

そうでありながら、目まぐるしく展開する場面であってもスッと情景が頭に浮かぶ表現力たるや素晴らしい。

そして盛り上げ方が非常に巧い。それとなく示される伏線。読者に『感付かせる』筆致。最後にそうした読者の予測を裏切る、思いもよらない展開。


魅力を見出すのではない。

否応なしに、作者の手によって『魅せられて』しまうのだ。

そこには、一種のもてなしの心さえ感じさせる。


こうした表現力の鋭さは『読者への信頼』があるために行いえるものだ。

表現するにあたって難解な場面でも、多くを描写しすぎない。読者の想像力を信頼し、委ねている。

その一方で、想像力が追い付かなくても問題ない。といった場面の明快さもある。


たしかにこれは童話だ。

文学というには破天荒すぎる。

だがジュブナイルというには成長しきっている。


格好良い人々が、格好良い活躍をする。

この物語の核はその一点だ。

『面白い…!』

話に聞き入る人たちは、確かに目を輝かせて、もしも少年少女ならば、自らも彼らのようにありたいと想いを馳せるだろう。

そしてこれは娯楽でもある。

読みふける時、確かに日常の歩みから一時だけ離れる、贅沢さがある。


ぜひ読んでほしい。

強盗童話は私たちの手を引き『空が飛べないことあなたの心』を奪い取っていくに違いない。

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カクヨムで読了した作品を語る。 AranK @aran_k

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