読了「戦え! 水道局営業課収納係」 作:岡野めぐみ

4月である。

人事異動、あるいは入社などで、環境が新しくなる人も多いことだろう。

この話は、水道局に異動した主人公が、クレーム対応からスライム退治まで、クセのある同僚と共に毎日を戦い抜く日々の記録である。


いまさらっとスライムといったが、そうなのである。

この職場では、家庭の水道メーターボックスからスライムが出てくる。

異世界ではない。まったく新しい環境という意味では異世界だが、現代である。

ちなみにスライムのみならず、ミノタウロスに似たものも出てくる。


なぜスライムが?なんのために?いったいどうして?

それらの疑問に対して、職場の先輩は「そういうものだから」と一蹴するだろう。

そうなのだ。

職場においてそれは重要ではない。重要なのは課せられた業務をこなすことであって、世界の謎を解き明かすことではない。

業務を通して、1+1=2にならない、3にもマイナスにもなる社会の不条理を体験することもあるだろう。

もしそうした理不尽を修正するならば、世界そのものを変える必要がある。

世界を変えるには、多くの人の助けがいるし、それなりの立場と権威もいるだろう。


だが主人公は、水道局営業課に属する収納係の一職員だ。

つまるところ、最前線の一兵士にすぎない。

彼にできることは、理不尽を受け入れつつ、与えられた状況を、持っているカードだけでこなしていくことだけだ。

兵士の毎日は戦いの連続でもある。

とはいえ、目に映る「異世界」も毎日こなせばそれは「日常」へと変わっていく。

初対面で面食らった変人も、毎日会えばそれは「そういった同僚」へと変わっていく。

そうして、吐く息と背中には日常の哀愁が宿っていく。


世界の不条理に憤慨するのもいいだろう。

だが毎日を戦い抜くには、一日も早く「慣れる」ことに越したことはない。

そうして過ぎていく毎日は、第三者から見れば、異彩を放つ物語に満ちている。

かつての自分が、初めての環境を前に驚きどおしだったように。


さて、本作は群像劇の様相が強い。

主軸となるのは『業務』を通した主人公や同僚たちの姿であり、彼らのクセの強い性格と、けして表には出てこないけれど、ちらりと垣間見える背景の面白さにある。

また、同僚、上司といった関係性が織りなす、男性的な「人間関係のしがらみ」などもなかなかに面白い。

そういえば、この物語には女性がほとんど登場しない。


読み進めていくうち、登場人物の多さに最初は誰が誰であったか混乱するかもしれない。

しかし、人物がわかってくるとがぜん面白くなる。

職場にコツは、一日も早く同僚の顔と名前を覚えることである。

これは異世界、現代に限らず共通した、仕事の極意である。

読み終えたころ、きっとあなたも彼らの「同僚」になっているに違いない。


職場の雰囲気、距離感を見事に表現した面白さがあるとオススメする。

いままさに新しい環境にいる方にとっては「ああ…」と共感のため息がでる場面が多いかもしれない。

それらも含めて、オススメである。

ロマンスのある職場ではないが。

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