炎の魔女と僕
ノーマッド
第1話 彼女と僕
少女は踊る。後ろには赤い赤い炎を従えて。指揮するように、戯れるように。
少女は歌う。声を張り上げ、止まらない感情の全てを込めて、息の限り狂った様に笑い続ける。
ふと、動きが止まった。彼女の前には一人の少年がいた。
たまらず少女は彼の胸に飛び込んだ。煤けた鼻を彼の胸に擦り付け、その体温をより全身で感じるために密着する。
少年は、口を開いた。
「紫…君が、やったのかい…?」
少女は、彼の胸から顔を上げ。頭一つ分上の彼の顔に向かって、無垢な笑顔を浮かべてこう言った。
「えぇ!えぇ!そう、そうなの!
パパも、ママも、たけおじさんも、まりおばさんも、ゆうくんも、ゆりちゃんも、ふみも、りこも、モモも…あと、えーっと…えっと…うん、ぜんぶ、ぜーんぶ!
真っ赤っ赤にしちゃった!」
炎の光で真っ赤に染まる少年は、実に嬉しそうに笑う少女に向けて、手を動かした。ゆっくりと、上がるその両腕は、肩口で彼女の首にかかる。
指先をそっと首筋に這わせ、その細い首をまるで蛇のように絡みつき、その荒い呼気も、激しい脈動も手の平で、指先で感じることができた。
「えへへへ。」
嬉しそうに、少年の手に自身の手を重ね、愛おしそうに少女は撫でた。
見上げる彼女の顔には、興奮の赤と、炎の赤と、紛れも無い慕情の赤があった。
少年の手がそっと振りほどかれ、肩についた煤を払い落とした。
そして、両腕は少女の腰へと回された。強く強く彼女を抱きしめる。痛みすら感じるであろうその抱擁を、彼女は蕩けるような笑顔で受け止めた。
数日後、あるニュースが巷を騒がせた。
ある田舎の村が、山火事によって全焼したのだ。数百人の住人が山ごと焼きつくされた。あまりの惨劇は数日間そこかしこに広まったが、いつかしか誰もがこの事件を頭の片隅に放り込むようになった。
炎の魔女と僕 ノーマッド @No_mad
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