ずっと一緒にいたいと思っていた。まだ子どもだったころには、その願いがかなうと思っていたのに。
生きていれば、晴れの日だけじゃなく、雨の日も嵐の日もあって、それを知りながら少しずつ大人になっていく。
でも、そこにはいつも変わらない、ふたりで見ていた海があった。
琴音の視点で語られる物語は、彼女の人生が一筋縄ではなかったことを語ってくれます。でも、彼女には戻りたい場所があった。そして大切な人も同じことを思っていた。
いつの間にか琴音の気持ちにシンクロしていき、喜怒哀楽を共にしてしまいます。妹の和奏に対する思いも少しずつ変わっていく。そして蒼太への本当の気持ちも。
10年という年月がみんなを大人にしていく。決して順調とは言えないかもしれないけれど、好きな人と一緒になることの意味を人一倍噛み締めさせてもらえる素敵なお話です。
これまでネット小説読んで泣くことは数えるくらいしかなかったんですが、この作品もその一つになりました。
全体的に難しい表現もなく、優しい素直な文章なんですが、それが故にいつの間にか小説の世界に引き込まれていて、主人公と喜怒哀楽を共にしてしまいます。
中でも、本当は助けて欲しくてたまらないのにSOSのサインを上げられない琴音の心情が物凄く切実で、蒼太や家族を心の中で必死に追いかける切なさに、涙が止まらなかったです。
そんな蒼太や家族が、本当はどういう気持ちで琴音を見ていたのか、それを知ると一層切なさがこみ上げます。
話自体はドロドロだと思うのですが、主人公目線で語られる優しい文章のためか、全くドロドロ感を感じさせないのも魅力的だなぁと思います。
加えてはっきりと頭に浮かんでくるような情景描写も、読み手を引き込むのではないでしょうか。
本当にオススメしたい一作です。
若い男女二人に対し海を舞台にするというのは些か食傷気味なほど使い古された設定であるが、情景の描写が凄まじく上手で言葉の使い方が極めて丁寧であるため読んでいて重たくなることもない。海の情景をよくよく絡めた心情描写もとても美しく、女性らしい心の動きを巧みに描き出している。
惜しむらくは少々展開が走りすぎている?と思われる部分が散見されること。情景が目に浮かぶように描かれているので、その場面作りをもっと落ち着いてじっくりやっても冗長にはならないと思われるが、恋愛モノ特有なのかそもそも私が恋愛モノを読み慣れていないせいなのか、本作では人間関係の動きの展開がちょっと早いかなと感じる場面が多かった。
心地よい言葉と情景作りが非常に素敵で、なかなか先が気になる展開でありながら、必要以上に重たくならず気軽に読める。ふとしたときに続きを読みたくなる心地よさの作品であると思う。続きに期待。