脱力のローズ(仮)
@ino_usagi
第1話 採掘師
とある洞窟の最奥。
人工的に作られた空間――作業場で、筋骨隆々のツナギ姿の男たちがツルハシを振るっている。作業場の中心には黄金色に発光する大小さまざまな大きさの石を積んだ手押し車が数台置かれていた。発光する石の名を、雷光石という。この世界の照明資源として重宝されている代物だ。
雷光石には寿命があり、発掘して六十日前後で光は消えてただの石になってしまう。故に電光石を採掘すことを生業としている採掘師は、一年のほとんどを洞窟の中で過ごしている。
「何だあいつ」
狭い足場を利用して壁を上り、高い場所で作業していた顎髭を生やした男が訪問者に気付いた。
洞窟を抜けて作業場に現れたのは、ふわふわした猫っ毛の金髪ツインテールが目を惹く、小柄な少女だ。
どうしてここに来たのかはわからないが、少なくとも新規加入の作業員ではないことだけはわかる。なぜなら電光石の採掘は昔から男の仕事と決まっているからだ。基本的に作業場に女が立ち入ることは良しとされていない。それに何より、見た目から採掘師とは思えなかった。
まるで男のような服装をしている。黒の詰襟に黒のズボンを合わせ、編み上げブーツで裾を締め上げていた。そして遠目でもわかるほどの上等な紅色のマントを羽織っている。粉塵を吸わないように一応マスクはしているが、作業用の鼻と口をすっぽり覆う半球型のものではなく、風邪をひいた時などに使う普通の布製のものだ。しかも可愛いウサギのあっぷりけ付き。
「ん? 何で子供がここにいるんだ?」
「ほんとだ。おいっ、誰かの知り合いか!」
「お前の娘か?」
「はあ? そんなわけないだろう」
他の採掘師も少女に気付いたようだ。疑問の声が波紋のように広がっていく。どうやら少女に心当たりがある者はいないようだ。
少女は向けられる視線をものともせず、手押し車がある中心へと歩いていく。誰も制止しないのは、突然のできごとに呆気にとられているからだ。
少女は手押し車の横で立ち止まり、ぐるりと周囲を見渡した。最後に天井を見上げると、何かを確信したかのように頷く。
そして右手を垂直に伸ばすと、天井に向かって手のひらを広げた。
脱力のローズ(仮) @ino_usagi
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