第5話

 悪夢は怖いもの?

 あってはならないモノ?

 …なら消してしまえば良いのに。

 どうしてそんなものを野放しにするの?

 …え?




 『夢でよかった』って、思いたいから?




「ねぇ、神さん」

「……………………………………………」

「ちょっとだけ、ちょっとだけならエゴでもいいかな。夢って凄くフクザツなものだから、悪夢といい夢の区別って中々つかないんだけれど、『コレは幸せそうだな』、って思って…それで夢を選ぶのって許されるかな?」

「ああ。許されるよ、きっとね」

「ホント? じゃああたし、まだこの城で仕事…続けられそうだよ。ナンパなタロットとか、口うるさいビズとかがいて、あたし一人じゃないから。『獏』としてのあたしは一人しかいないけれど…でも、一緒に『獏』の仕事をしてくれる奴らはいるからさ。それにあたしね、今まで同じコトを繰り返すってツマンナイって思ってたけれど、そういうものに甘んじていられるって結構楽なのかもしれない。日常が日常であるって、スゴク重要で幸せなのかもしれないって、今は思う。革命が怖いわけじゃないけれど…今までと気持ちを変えて、やってみようと思うんだ。だから、もうちょっと…頑張るよ、神さん」

「そうか…」

「うんっ」

「頑張りなさい、小さなヴァニラ」

「あたしもう立派なレディなんだけれど? いつまでも『小さな』はないんじゃないの?」

「そうだね、だけど…」

「だけど?」

「私にとって君は、いつまでも小さなヴァニラだからね」




「クリス? どうしたの、ベッドの中にもぐったりして」

「叔母さま、あのね? 夢を管理してくれてる人にはどうやったらあえると思う?」

「…なぁに? 姉さん達が教えてくれた、お話かなにか?」

「違うけれど…。もしかしたらベッドの中にもぐっていったら、夢の世界に入っていけるんじゃないかなって。でもムリだった。もう、アリガトウもゴメンナサイも言えない…ヴァニラちゃん達にも、パパにもママにも」

「クリス…。大丈夫よ。天の神様はきっと見ていて、それを伝えてくださるわ。クリスの代わりにね」

「本当? 叔母さま」

「ええ、きっとね」




「どうだ? タロット君の新作ヘアースタイルは」

「…うん、気に入った! でもなんだか随分子供っぽく見えないかなぁ、可愛いけれどちょっとソレが気になるかも」

「まぁ良いんじゃねーの」

「そーお?」

「心の非常に可愛らしいレディには、こんな風にご自分の中身の出る髪形のほうがお似合いですよ」

「~~~~くわわわわわっ、歯が浮く歯が浮く歯が浮くぅ―――――っ! 寒いってばタロット、寒すぎる!」

「暖炉に火が入ってませんからね」

「と言うことは、焼き鏝の心配はないわけだな、冷え性ババア」

「ていっ」

「イッテェ! んなっ…お前その爪切れよ! 凶器じゃねーか!」

「そうよ凶器にするために伸ばしてるんだからね」

「凶暴なんだよお前は! 慎め!」

「いーやーよっ」

「くっそ、我侭娘がっ…おいヴァニラ? マニキュア剥げてるぞ」

「え? あ、そっか前までつかってたのぶちまけちゃったからなァ…アレ、この城に配属された時に神さんがくれたヤツだったのに」

「じゃ、コレをやろう」

「え? …あ、かわいーっ! ピンクのラメ入りだァ、キレー…どーしたのよコレ?」

「別に、たまたまあったから! 要らないなら返せよっ」

「え、やだやだ返さないもんっ貰っとく! えへへ、おニューだぁっ♪ 神さんがくれたのが犠牲になっちゃったのは惜しいけど、無駄じゃなかったなっ」

「たまたま…ですか、たまたま」

「たまたまだ、文句あるのかビズ」

「ありませんとも言いませんとも、照れ屋なナンパ師さん」

「うるせぇ!」

「何言ってんの二人共? …あーあ、それはともかく仕事がない時間帯って退屈ぅ~~~…なんか面白い事でも起こらないかしらね~…」




「日常がつまらないか?」

「まあね」


「非日常が楽しいとも限らないけれどさ」

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悪夢城までいらっしゃい ぜろ @illness24

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