第十一話 痛いと思いますが、我慢して下さいね

「そういえば、トシカズさんて魔法のセミナー受けるんですよね?」

「え、はい。まぁ、そうですけど」

「では、早く行きましょうか」


その間もアリシアはその表情を崩さずにずっとニコニコしている。


「……え?ここでするんじゃないんですか?」

「ここではしませんよ。もっと広い場所に行くんですよ。何しろ……ここでは狭いですからね」


そんなものなのか?そうなのか?

まぁ、俺は魔法を使えるようになればいいからね。

そこら辺は別にどうでもいいかな?

ん?じゃあ、ここの部屋は何の為にあるんだ?

この部屋ドアの前にしっかりと「講義室」て書いてあったよね?

てっきり、ここで色々と学ぶかと思ってたよ。


「さぁ、早く行きましょう」

「あ、はい」


そう言われて連れて来られたのは「訓練場」という部屋というか、自分の学校の体育館よりも広い場所だった。

冒険者ギルドの裏口の方から来れる。

広い。かなり広い。


この訓練場は上からみると丸い円形になっていて冒険者ギルドと隣接している。

この訓練場では主に魔法を使う訓練やセミナーが行われる。

訓練場は入った場所から途端に石造りとなっている。


「今日は人が私たち以外にいなくて良かったです」


とアリシアさんは振り向きざまに笑いながら言う。


「他に誰もいない方が良かったんですか?」

「ええ、私たちの他に誰もいない方が良いんですよ。もし、他に誰かいたら……」


アリシアは右手を前に出して唱える。


「【アイスブロック】!」


唱えた瞬間、アリシアの右手には不規則な形をした淡い青色のブロックが出来ていた。

そのブロックは氷で出来ていて、もしこれが当たったるとなればそれほど酷い傷にはならないがかなりの痛みだろう。

氷属性の第一位階の魔法の内の一つだ。


「怒られてしまいますからね!!!」


あろう事かそれを野球の選手のように大きく振りかぶって利和に向かって投げてきた。


「え?え!ちょっ……」


彼はアタフタするだけで逃げるどころか大きな動きもせずに混乱していた。

その瞬間にも魔法で出来た氷のブロックは彼に近づいて来る。


アレが魔法!?

てか、何で俺に向かって投げて……


「ゴフッッッ!」


彼に向かって投げられた氷のブロックは、見事彼の頭にクリーンヒットした。

大したコントロールである。

薄れゆく意識の中で必死に模索するが何も浮かばない。


頭……痛え……。

初めて見た魔法が……俺に向けてだった……なん……て。


バタッ


彼、利和は倒れた。

頭から血をタラタラと流しながら。


端から見ると殺人現場の様にも見てとれる。

頭から血を流し倒れている男性、それを上から見下ろしているギルド職員兼冒険者のアリシア。


「ハァっハァっハアっハアっ」


荒い呼吸をつく。

(これは……仕方が無かったんです。これしか方法がなかったんですよ。)

利和に近づき、状態を確かめる。


「呼吸は……ありますね良かった〜。一瞬死んじゃったのかと思いましたよ。意識は無いですし、大丈夫ですね」


利和の状態を確認して安堵の表情を浮かべるアリシア。


「すみませんね、トシカズさん。ちゃんと回復魔法は掛けておきますから……【キュアー】」


アリシアがそう唱えると利和の体が淡く光り、頭から流れていた血は止まった。


(しかし、これで少しの間の記憶は消えたでしょう。記憶を消すには幾つか方法がありますが、私に出来ることはこれくらいしかありません。)

これが、アリシアの狙いだった。

講義室を使わずに今は誰も使っていないこの訓練場に利和を連れて来たのもこの為だ。


利和を講義室でなく訓練場へと連れてくる→魔法で利和の頭目掛けてあの氷を思い切り投げる→利和は気絶する→回復魔法で頭の傷を治す→頭に強い衝撃を食らわせたので少しの間の記憶は消える、という計画を途中までだが見事やってのけたのである。


「ふふっ。まさか、こんなにも上手くいくとは思ってもいませんでしたよ。……これで後はトシカズさんのあの時の記憶が上手く消えていれば完璧ですね」


それを気絶している利和に優しく囁く。

先程までのニコニコとした笑顔とは違い、今はまるで小悪魔のような表情と化している。


数分後、利和の意識は覚醒した。


「ん…………あれ?ここってどこ?」


辺りを見回して自分がどこにいるのか確認する。

そして、何故自分が横たわっているのかが分からない。


「……あれ?俺って確か受付の人にセミナーの準備が出来たって言われて……言われて……そこからの記憶が……無い。どうなってるんだ?」

「あっトシカズさん、やっと目覚めましたか?もう、全然起きなかったので心配しましたよ」

「あっ……アリシアさん。俺って何でこんなところにいるんですか?セミナーを受けようと思ってその部屋に行った筈なのに……」


アリシアはニコリ向日葵のような笑みを浮かべて。


「安心して下さい、トシカズさん。トシカズさんは講義室に向かっている途中に転んで頭をを強く打っちゃったんですよ。だからトシカズさんの受けるセミナーの講師である私がここまで気絶していたトシカズさんをここまで運んで来たんですよ」


ああ、そうなのか。

確かに魔法のセミナーを受けられるって興奮してたから、気が緩んでいたんだろう。


「ありがとうございました、アリシアさん。そんな大変なことまでさせてしまって」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


俺は立ち上がろうとすると何か地面に変なものが見えた。

手を近づけてみるとソレは乾いていた。

だが、俺にはこれが見覚えがあった。

俺は小さい頃に鼻血ばかりを出していたから分かる。

この赤く乾いていて俺の近くにあるこれは……血だ。


「あの……アリシアさん、これって血じゃ無いですか?」

「……え?あわ、あわわ、そ、それは……そう、トシカズさんの鼻血です!トシカズさん、前のめりに転んだので鼻を打っちゃって鼻血をだしてたんですよ……」


え!?鼻血出してたの!?

鼻血を出しながらアリシアさんにここまで連れて来られる自分の醜態を想像してしまう。

うわーーー恥ずい!恥ずかしい!


(くっ、失敗でした。まさか、血が残ってたなんて……。ですが、上手く言い訳が出来たので大丈夫じゃないですかね?)


「はい!もう、その話はそこまでにしましょう!今から魔法のセミナーをしますから!早く切り替えて下さい!」


パンッと手を叩いてアリシアは早々に気持ちの切り替えをした。

その音は彼にも聞こえて彼もまた、早々に切り替えた。


「はい!宜しくお願いします!」

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最弱転生者の主人公補正 @2112doraemon

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