止まぬ銃声。それでも信念の下、彼等は混沌に立ち向かう――

 もしあなたの住む街が突如異世界に取り込まれてしまい、そして決して友好的とは言えない異世界人達によって襲撃され、支配されてしまったとしたら、あなたはどうしますか?

 この物語の舞台はまさしくそんな世界。
 5年に渡って繰り広げられた日ノ本自衛軍と異世界バンギアの紛争の末、荒廃し異世界の植民地と化した人工島ポート・ノゾミ――多種多様な種族が暮らす混沌のるつぼとかしたその島で、法と秩序の下、犯罪に立ち向かう『断罪者』と呼ばれる者達。
 この『ノゾミの断罪者』は、その断罪者達の視点からポート・ノゾミで起こる数々の事件を追っていく物語となります。

 登場する種族は、人間はもちろん、エルフ(ロー・ハイ・ダーク)、吸血鬼、ドラゴンピープル、ゴブリン、悪魔等、所謂ファンタジーの定番ともいえる種族達ですが、その辺のテンプレ通りな異世界ファンタジーと思うなかれ。
 どちらかというと、派手なガンアクションが繰り広げられる、現代ダークファンタジー(ローファンタジー)……いえ、やはりこの一言では語れません。
 この物語の根底にあるものは、もっと深くそして重いものです。

 未だに人々の中に残る、戦争が生みだした別れや怨恨の爪痕。
 種族間の軋轢や文化・宗教・倫理観の違い。さらに言えば同種の中でも存在する格差社会や偏見。
 果ては街に台頭する様々な権力の間で飛び交う政治的権謀術数。etc.――
 所謂『戦争がもたらした負の連鎖』がこの物語の背景にはあり、徐々にそれが劇中で語られていき、読む者をより深く物語に引き込んでいきます。
 
 断罪者である主人公達もそれは例外ではなく、様々な種族から形成された彼等の過去も、そしてその関係も複雑に入り組んでおり、一筋縄ではいきません。
 ですが、幾多の想いを胸に彼等は混沌の街で起こる数々の犯罪に立ち向かっていくのです。
 『この街に法と秩序を――』という、たった一つの信念の下に。

 こう書くと、全体的に難解そうなテーマだなあ――と思われるかもしれませんがそんなことはありません。マジでマジで。
 ダークグレーでシリアスな物語ではありますが、作者の文章技術と、それを裏付ける深く練られた構想により、非常に読みやすくストレスを感じません。
 また、登場人物についても、主人公達だけでなく、彼等と敵対する悪役達もしっかりとした背景と思想を持っており、一癖二癖ある人物達ばかりです。
 そして、登場する人物だれもが、確かにこの街にしっかりと『地に足をおろして』おり、そしてこの街で『生きて』いる。
 そのさまを読む者が想像でき、感じることができるほどきちんとした設定が各人物にあり、それが劇中で不自然なく描写されているのは、同じ物書きとして脱帽です。
 魅力的な悪役の登場する話、読みたくありませんか?

 もう一つ、物語を派手に彩る銃器について。
 この物語には様々な銃火器が登場しますが、銃そのものの描写も、ガンアクションも、作者のしっかりとした取材と知識により、非常に緻密かつ臨場感溢れるものとなっています。
 銃マニアも満足な一作です。もちろん、銃に詳しくない方でも楽しめますよ!
 私個人的な意見ですが、主人公達の扱う武器が最新鋭の武器ではなく、第一次大戦や西部開拓時代に造られた銃なのが印象的でした。
 無法・混沌が支配する街に、法をもたらす者には、やはり古き良きフロンティア・スピリットが宿る武器が似合いますね。
 
 というわけで、一部一部読み終える度に一喜一憂するほどはまってしまいました。
 自分達は本当にこの街に必要なのか? だがしかし法の下、この街で断罪者として生きる――彼等の苦悩と葛藤、そして熱い想いは読んでて本当に胸を打ちますね。
 八章とかいい年こいて泣きそうになっちゃった。

 この物語は、戦争により生き方を変えた、変えられた人々が、それでも混沌の街で今を生きる様を描いた群像劇――
 異世界ファンタジーが好きな方も、テンプレばかりで飽きてきている方も是非一度読んでみてください。
 
 私は読むのが遅い方ではあるのですが、本日ようやく最新話まで追いついたのでレビューを書かせていただきました。
 一読者として、今後の展開が気になって仕方ありません。期待しております。

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