第4話「そんなバカな」
(こんなことってある?)
「ない!」
一日に起こる出来事の多さに嫌気がさしそうだ。
(寝坊して、草むらから転校生が出てきて、学校まで案内して、草むら入って、一緒に住むことに……?)
「そんなバカな」
(草むら好きだな、おい)
「あのさ、ご飯できたって」
「うえっ!?先輩!?」
部屋でまどろんでいると、急に先輩が部屋に入ってきて、つい変な声が出る。
「え、だから、ご飯できたって」
「あ、あー、はい……。今行きます」
「……」
ドアに手をかけたまま、じっと見つめられる。
「?」
「あのさ、堅苦しい」
「え?」
「その先輩って呼び方とか、敬語とか。誕生日が1日違うと、そんなに上下関係あるの?」
「一応、学年も違うから、なんとなく……です」
「それ、なしにできないの?」
「……」
(なしにできないのって……)
「それは、普通に話せってこと?敬語なしで」
「そう。今みたいに」
「じゃあ……うん」
「あと、先輩って呼ぶのもなんか嫌だ。先輩って言われるほど先輩じゃないし」
「なんて呼べばいいの?」
「渉でいい」
「わ、わ、わわっ……」
なんだか恥ずかしい。
「ま、いいや」
「へ……」
そのまま部屋を出て行った。
(なんだったんだろう)
拍子抜けだ。
夕飯を食べるためにリビングへ行くと、意外でもない人物が椅子に座っている。
「よっ!」
「なんだ、優也か」
「なんだ優也か……じゃないだろ」
「ねえ、箸の持ち方教えて」
「お、おう……」
(先輩……いや、渉さん……渉くん……渉?は、お箸使うの初めてなのかな)
なんて呼べば良いのか分からなくて、心の中でさえ混乱してる。
「今日は賑やかねぇ」
鍋の中身をお玉でグルグルとかき混ぜながら、母は言った。
(この匂い……カレーかな)
盛り付けられたお皿が目の前に置かれる。
案の定、手作りカレーだ。
「いただきます」
皆でそう言って食べ始める。
いつも目の前には父が座るが、今日は渉先輩が座っている。
(とりあえずは渉くんって呼ぼうかな)
そういえば、いつの間にかあの大量のダンボールが消えていた。
空いている部屋は一つあるけど、今は物置だ。
果たして渉くんはどこで寝るのか。
「お母さん、渉くんの部屋ってどこなの?」
「家の隣の小屋よ。渉くんがあそこがいいっていうから」
「ま、マジか……」
優也も驚いていた。
実は家の隣に、使っていない小屋がある。
元大工のおじいちゃんが、昔作ったものだ。
言っておくが、別に
広さは大して無く、部屋に使うには丁度良いくらいな広さの小屋だ。
「でも流石に、冷房も暖房も無いし、無理があるよ」
わざわざあそこを選ぶなんて、変わってるとしか言いようがない。
(夏も冬も地獄に決まってる。日本の蒸し暑さを知らないからだよ)
生憎、その小屋には何回かしか入ったことは無い。
まぁ、作りは丈夫だし、寒い時期の隙間風大丈夫だろうけど。
「大丈夫よ。知り合いの電気屋さんから安くエアコン買って、もう取り付けたから」
(いつの間に。あ、そういえばこの間業者の人来てた気がする……ただの点検かと思ったのに)
なんて手際の良い母なんだろう。
「すげぇな、お前の母親」
「言わないで……」
そんな会話をしている間も、渉先輩はモグモグとカレーを食べていた。
もうこれは、現実離れした行動力の母が連れていた現実離れしたプレゼントなんだ。
(そう、プレゼント……プレゼント)
「もう一杯、お代わり下さい」
「はいはい。やっぱり成長期の子はよく食べるわねぇ」
「あ、俺も!」
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