第3話「拾ったそうです」

その日の放課後、昇降口で靴を履き替える先輩に声をかけた。

「今帰りですか?」

「それ以外に何があるの?」

(そりゃあ、そうか)

「先輩、どこに住んでるんですか?」

「この辺」

なんて大雑把な答えだろう。

(この辺って、どのへんだよ!)

と、突っ込みたい。

「あの、今度テストがあるので、教えて貰えませんか」

「なんで僕?」

飛び級するくらいだから、それなりに勉強は出来るはずだ。

「優也じゃ頼りなくて」

「誰?優也って」

「私の幼馴染です」

「幼馴染?」

「はい、小さい頃からの付き合いなんです」

「付き合ってるの?」

「いや、彼氏彼女のアレじゃないですからね!」

「ふーん。まぁ、別に良いけど」

(良い?勉強を教えてくれるってこと?)

「本当ですか?」

「うん。でも僕、人に教えたことない」

「全然大丈夫ですよ!」

「そう?上手く教えられる自信ないけど」

「じゃあ、早速今日から教えて下さい!」

「僕の家で勉強する?」

「いいんですか!」

(仲良くなるチャンス!で、でも、男の人の家に行くなんて……だ、大丈夫かな。ここからなら私の家も近いし、行くよりも来てもらった方がいいんじゃ____)

「なにしてるの?」

ぼうっとしていると、先輩に声をかけられた。

「あ、待ってください!」

急いで靴を履き替えると、先輩の背中を追いかけた。




学校を出て少し歩くと、先輩はおかしな方向へ進もうとしていた。

「あの、先輩……どこに入ろうとしてるんですか?」

うち、多分こっちだから」

(た、多分!?でも、そこ草が生い茂ってるよ!?はっ、もしや森の奥深くにあるやかた……とか)

その言葉に不安を持ちながらも、私は着いていった。

しかし、一向に着かない。

「あの〜、先輩?本当にこっちなんですか?」

「多分こっち」

(もしかして、方向音痴?)

黙々と進んでいく。

草むらという草むらをあちらこちらに進む。

体中が草まみれになりそうだ。

「まだですか〜?」

「あ、着いた」

先輩の大きな背中から首を出し、確認すると、驚いた。

「先輩……ここ、私の家です」

早海と書かれた表札、見覚えのある家。

どうしてこうなったのか、全く不明。

一つ不自然な光景が見える。

何故か、引越し業者が家にダンボールを運んでる。

「あら、おかえりなさい、朱音。それに渉くんっ。て、二人とも体に草が生えてるわよ?」

語尾に音符が付きそうなくらい上機嫌な母。

「……お母さん、これは一体どういうこと?」

「言ってなかったかしら?」

「一言も聞いてないよ!」

「あなたの隣にいる瀬名渉くんは、今日から家で預かることになりましたー!」

「……え?」

「よろしく」

「え?」

(先輩が、私の家で?Oh…キョウドウセイカツ?)



後から詳しく話を聞いた所。

元々一人暮らしの予定だったらしい。

本来住む筈だったアパートが、手違いで住めなくなり、新しい部屋を探そうと不動産屋さんをうろついていた先輩を母が……と。

それだけ聞くと誘拐だが、その後先輩の両親にもちゃんと許可を貰ったそうだ。

(だからって、年頃の女の子と男の子がひとつ屋根の下なんて……)

「二人とも、顔見知りだったのね。なら安心ね!」

「安心じゃないよ!」

(仲良くなりたいとは思ってるけど、こんな形で距離が縮まるとは思ってもみなかったよ)

「あ、二人ともシャワー浴びてきなさい。あらあら、制服も随分と汚れちゃったみたいね〜」

(私達、どうなるんだろう……)

「一緒に入るの?」

「入らない!」

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