俺のスピリットがどうしたって?

笹又

精霊

 俺は、最近精霊が見えるようになった。


 やつらの実態は、実に不可解だ。何と言えばいいのか……それは時によって、姿を変えることもあるから、具体的な姿が口にできない。クリオネのようだ、と表現するのが一番妥当だろう。

 

 やつらの行動パターンは、おおかた決まっていた。俺が家にいるとき――室内に出没する確率は極めて低い。それに対して、外出時の出没率は極めて高いと言える。というか、最近は必ず出るといってもいい頻度で出現している。

 

 やつらがどういう仕組みで現れるのか、それは俺の知るところでもなかった。どうも高校に入学したころから、俺にのみ精霊を認識する能力が備わったらしい。精霊が見えた瞬間、友達に「何か見えないか?」と尋ねてみたが、答えは「何も見えない」だった。俺は、自分が特別な存在なのではないかと少し興奮してしまったのを憶えている。


 やつらは、俺の接触を絶対に許さなかった。俺が触れようとすると、まるで幽霊であるかのようにすり抜けてしまうのだ。本当は幽霊なのではないかと疑ったが、こいつらは昼間にも現れる――というか、ほとんど昼間にしか現れない、という奇行っぷりだ。夜に現れることは滅多にない。精霊ならば昼にでも飛び交うことが可能だろうと考え、俺はやつらに「精霊」と名付けた。

 そして、もう一つの特徴がある。やつらはいつも俺を翻弄するかのごとく、視界の中をぐりゅぐりゅと動き回るのだ。これがかなり厄介だ。外で空を眺めていたら突然現れて、俺の顔の周りを飛び回るのだ。振り払おうとすると、やはり幽霊のように避けられてしまう。そして、俺がストレンジャーを演じているのを遠目で笑ったあとで、ふっと姿を消してしまうのだ。

 やつらは、こうして現れるだけで俺に何の害も与えなかった。もしかしたら、やつらは俺と遊びたいのかもしれない。今まで誰からも認識されなくて、俺という人間に初めて認識されたとするならば、その好意もうなずける。今まで誰からも認識されなかった……。それを考えると、やつらのことが寂しく思えた。だから、俺はやつらが消えるまで遊びに付き合ってやることにした。たとえ触れ合えなくとも、彼らがそういう意思を持つのだとすれば、俺はそれに答えなければいけない義務があった。


 そうして生活するうちに、俺は変人扱いされるようになり始めていた。「中二病」と呼ばれるようになっていた。

 だが違う。俺は現に、精霊が見えているのだ。俺には、精霊を認識という特殊な力があるのだ。幻想の中を生きる中二病と同じにされては困る。俺は、れっきとした現実を生きる、潔白な青年にして、本物の超能力者だ。俺がいくら「精霊界面活性滅壊砲スピリット・スピリタス・スピリチュアル・バースト!」なんて叫んだところで、俺は中二病には含まれない。超能力者――否、精霊使いスピリット・テイマーにとって、それは当然のことなのだから!


 そして、ついに親が動き出した。俺を本当に病気だと思ったのか、病院に無理やり連れていかれた。ふっ、俺が病気なわけがないだろう。正当な精霊使いなだけさ。そう思いながら、俺は引きずられていった。

 



 ――診察の結果、医師から告げられた言葉はこうだった。




「あぁ、これ“飛蚊症”ですね」

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